表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 最終章 ナイトレイ王国解放戦
275/930

番外 <<幕間>> 総合評価もうすぐ200,000感謝記念SS 涼の訓練(後編)

これは後編です。


本日(1月7日)12時に、前編を投稿しております。

前編を先にお読みください。

(私は、王都守備隊東門責任者のアシュリー・バックランド。長らく、ナイトレイ王国西部駐留部隊に所属していたが、王国解放戦後、王都守備隊に転属してきた。伯爵家の人間ということで、転属してすぐに東門の責任者に任じられた。多くの場合は、妬み、ひがみの対象となるのだろうが、私は職場に恵まれたのか、特にそういう事もなく、この一カ月間、仕事をさせてもらえている。

西部駐留部隊にいた頃は、私が比較的若いために突っかかってくる同僚もいたが、ここではそんな事は一切ない。部下たちも、きちんと命令を聞いてくれるし、いたって真面目だ。普通は、街の守備隊というものは、仕事の手を抜く者たちが大半であるが、さすがは王都といったところだろうか。

さて、そんなわけで、私はこの仕事にも職場にも不満は全くない。困った事も全くない。ただ一つ……時々、困った事が起こるだけ……。

困った事、それはロンド公爵の件だ。

ロンド公爵リョウ・ミハラ閣下……ロンド公爵家は、戦後、新たに開かれた公爵家で、閣下は筆頭公爵であらせられる。国王陛下の極めて親しい友人であり、噂では、ゴールド・ヒル会戦において、水属性の大魔法を行使したのも、閣下であると言われている。戦場一帯が氷に覆われたかのような、伝説に出てくるような極大魔法であったとか……。

そんな、凄い方が、供の者も連れずに、魔法使いのローブを着て、城外に出ていかれる……。その際も、公爵のプレートではなく、ギルドカードを出されるため、新しく守備隊に入ってきた者たちは、ロンド公爵であることを理解しないまま通すことがある……そう、以前の私のように。

そして、閣下は、城門から少し離れた場所まで走り、そこで魔法を放ち始める……王都城壁に向かって。

最初にそれを見た私は、思わず駆け寄って止めてしまった……。

「ん? 大丈夫、城壁は、魔法を弾き返すから、壊れたりしないよ」

閣下はそう仰られた……確かにその通りなのだが……。私が何も言えず、固まったままなのを、理解できていないと思われたのだろう。実際に氷の槍を放たれた。確かに、城壁に当たり、氷の槍は閣下に向かって跳ね返ってきた。閣下は、それを叩き斬った。どこから取り出したのか分からない、水色の剣で。氷の剣だそうだ……。

閣下は、その後も、何個も同時に氷の槍を放ち、それを氷の剣で叩き落し始めた。どうも、訓練らしい……。それと、城壁の機能に異常がないかの確認、と仰られていたが……申し訳ないが、それはちょっと信じられない……。

いや、これは不敬だ。伯爵家の三女ごときが、筆頭公爵に信じられないなど……公になれば、お家断絶すらあり得る。

というわけで、時々、ロンド公爵閣下が城壁を使って訓練をされている……。一応上司に報告したのだが、上司は首を何度か振って言った。

「それは、見なかったことにしてください」

それ以降、閣下の行為は、守備隊にとっては、何も見なかったことになった……。本当にそれが正しい対応なのか、正直私には分からない。もちろん、閣下の行為によって、王国民が犠牲になっているようであれば、私は職務上、全力でお諫め申し上げただろう……たとえ、お家断絶をちらつかされたとしてもだ! だが、そういう訳でもない……。

誰も不幸になっていないし、それどころか、時々、閣下はお手伝いすらされている。

王都の復旧に使う石や木材を、切り出したり運んだり……。おそらく、手伝ってもらっている作業員たちは、公爵閣下であることは気付いていないのだろうが……。

伯爵家の三女として育てられた私には、正直、理解できない状況でもある……)




「リョウさん、すまねえな、今日も手伝ってもらって」

「いえ、親方さん、どうか気にせずに。王都の復旧は、国民全員の願いですから」


解放戦や、その前のレイモンド支配時代に壊れて、そのままになっている、王都内の各施設の修理を行っている者たちがいる。

公共施設はもちろん、場合によっては商会や個人の施設すら修理を行う。

公共施設だけ綺麗にして、他が壊れたままでは……それはそれで、王国の顔たる王都の景観としてはどうか、という話が出たかららしい。

金銭的な面に関しては、かなりの金額が王国政府から出るらしいが、現状、単純に人が足りていない。


王都だけではなく、王国中で復旧、復興に取り掛かったタイミングということもあり、鍛冶師、石工、木工など各職人は、どこも人が足りていなかった。


その中でも、特に王都は、石工がほぼいない……。



「王都が落ちたあの日、王都の石工のかなりがここに石を切り出しに来ててな……。運搬でちょっとトラブって、夜までかかっちまった。で、夜の作業はさすがに危ないから、そこの切出し小屋で休んでいたら、あんなことにな……」

以前、涼にそう説明してくれたのが、目の前の親方である。


ちなみに親方は鍛冶師らしい。



そんな風に、現状、王都に石工が少ないため、涼は石の切り出しを手伝うことが多かった。


<アブレシブジェット>を使って。



かつて涼は、ルンの家を買った後、改造してお風呂をつけた。

浴槽自体はヒノキのような木で作ってあるが、浴室全体は御影石を切り出して組み上げてもらっている。

その切り出しを<アブレシブジェット>で手伝ったことがある。

そのため、自分の水属性魔法が、木や石の切り出しに、大いに役立つことを知っていた。



「おお、いつ見てもリョウさんの水属性魔法はすげぇな」

「いやあ、それほどでも」

親方の称賛に、照れる涼。


「リョウさんがいない時には、仕方なく俺が切り出すんだが、やっぱ本職の石工やリョウさんの魔法みたいには上手くやれねえからな」

「親方さん、鍛冶師ですよね? 石も扱えるんですか」

「石は、専門外よ。鍛冶と木工だ。本来は、馬車作りが俺の仕事さ」


親方はそう言うと、遠くの方から呼ばれてそっちに走っていった。



すぐ側で聞いていた弟子が親方情報を補足した。

「親方の馬車は、凄いんですぜ。錬金も魔法も使っていないのに、ものすげー乗り心地がいいって評判で」

「それは凄いですね」


涼は、錬金術を駆使して振動を減らしているギルド馬車を思い浮かべながら答える。

馬車の振動を、錬金術無しでとは……。



そこで、涼は、昔アベルと交わした会話を思い出していた。

確か、ギルド馬車に乗っている時に、アベルが言ったことがある。

錬金術を使わなくとも乗り心地のいい馬車が出てきていると。


製作者の名前は……確か、地球でも聞いたことのある名前……。

地球では、銃の製作者として有名な……。


「カラシニコフ……」

「なんだ、リョウさんも、知ってるじゃないですか! それ、親方の名前ですよ」

「なんと!」


世間は狭いものらしい。




涼は、石の切り出しの手伝いを終えて、国王執務室に戻った。


「アベル、本日も、城壁は正常に稼働しましたよ」

「ん? それは当然だろう……。リチャード王以来、ずっと稼働しているだろ」

「その油断が足をすくうのです。常に備えを怠らないようにしなければ」

「お、おう……。まあ、確認ご苦労」

「いやあ、それほどでも」

アベルの言葉に、なぜか照れる涼。


会話とはとても難しいものだ……。



「そういえば、時々手伝っていた切り出しの親方さんが、実はカラシニコフさんでした」

「切り出し? ああ、王都復旧のか。そうだな、確か馬車製作で有名なカラシニコフが仕切っていたな。書類にサインをした覚えがある」

「アベル、知っていたなら教えてくれればいいのに!」

「いや、リョウがそんなのを手伝っていることを、俺は今初めて知ったのだが?」

「くっ……。アベル、知ったからには、僕にもお給料を払ってください!」

「ダメだな」

「なぜ!」

「なぜなら、リョウは貴族だ。王国貴族が、王国民のために身を粉にして働くのは当然のことだからだ」

「ノブレス・オブリージュ……高貴さは義務を強制する……」

涼はそう呟くと、深い深いため息をつくのだった。



貴族とは、どこかのラノベ世界のように、いつもいつも威張り散らしてばかりいるものではないらしい……。


ありがたいことに、もうすぐ総合評価20万ポイント!

到達してからの投稿の方がいいのかとも思ったのですが……書き上がったので投稿しちゃいました。


あと、宣伝です。

2021年3月10日に、「水属性の魔法使い 第一部 中央諸国編1」がTOブックスより発売されます!

オスカー外伝(第1~8話)や、涼とアベルの干し肉づくり、戦闘場面の増量など、Web版にはない文章が、

たくさん追加されております!

23万字という、文庫本2冊と0.3冊分というかなりの分量ですよ。


現在、TOブックスにて予約受付中!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ