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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 最終章 ナイトレイ王国解放戦
273/930

0255 <<幕間>> 書籍第一巻発売日&第二部開始日 発表記念SS 西の森

本日正午、書籍第一巻の情報が開示されました!

あとがきに書いてありますので、ぜひ、あとがきまでお読みください。


また、イラストレーターさんの情報や、購入特典SSについてなど、

さらなる追加情報を、「活動報告」に書きますので、


ページ上部 作者:久宝 忠 

ページ下部 作者マイページ


どちらかをタップして、活動報告も読んでいただけると嬉しいです。

どちらも、同じページに飛びますので。

ナイトレイ王国解放戦から十数日後。


王国西部、『西の森』の入口に、一台の馬車が止まった。

中から降りてきたのは、ローブ姿の一人の男。


男性が降り、馬車の屋根に乗せられていた大きな荷物が降ろされると、馬車はホープ侯爵領へと去っていった。



ローブ姿の男は、大きな荷物を引きずりながら森の中に入っていく。


だがそれは、例えばホープ侯爵領に住む者たちなどから見れば、あまりにも無謀な光景であった。

なぜなら、ここは『西の森』

エルフに自治権が認められた森であり、帝国との死闘を繰り広げたエルフたちは、未だに、気が立っているから……。



ヒュッ。



歩を進めるローブ姿の男を威嚇するように、少し離れた場所に一本の矢が突き刺さる。


「それ以上進むようなら、次はその心臓を射抜く! そのまま踵を返して、今来た道を帰れ!」

警告の声が森に響く。


だが、ローブ姿の男はその声が聞こえないのか、全く歩む速度を緩めずに進み続ける。


「こいつ……」

矢を射たエルフが怒りと共に呟く。

その呟きに同調する、別のエルフ。


いつの間にか、十人ほどのエルフが男を包囲していたのだ。



「これが最後の警告だ。すぐに帰らねば、殺す!」

最初に警告の声を発したものと同じ声が、再びローブの男に警告する。


だが、ローブ姿の男は歩みを止めない。

それどころか、しっかりとその表情を見れば、気づいたに違いない。

うっすら笑っていることに。



もしかしたら、これは彼が望んだ展開なのかもしれない……。



この『ファイ』に転生して以降、なかなか『異世界転生もののよくある展開』に遭遇できず、いつもギリギリで定番から外されてきた……だが、今、ついにその展開に!




「やめんか、馬鹿者!」



辺りを圧して響く声。


その声は、ローブ男を囲んで森に潜むエルフたちを打った。



「お、おババ様?」

一人のエルフが、焦りながら問いかける。


暗がりから姿を現したのは、この西の森の大長老、通称おババ様。


「その方は、アベル王の使者じゃ」

「えっ……」

おババ様の言葉に、言葉を発することができなくなるエルフたち。


まだ若く、経験の少ないエルフたちなのかもしれない。

おババ様のように、ローブ姿の男から溢れる『妖精の因子』を見ることができないのだろう……。



「ああ、おババ様、ご無沙汰しております。これ、つまらないものですが、お土産です」

「リョウ殿、久しぶりじゃの」


こうして、ローブ姿の男、涼は、西の森を訪れたのであった。




おババ様と涼が、並んで先頭を歩く。

その後ろを、十数人のエルフたちがついてくる。

釈然としない表情で。


「すまぬの、リョウ殿。こやつらも悪気はないのじゃ。じゃが、帝国に襲われて以降、いろいろ過敏になっておってな」

「お気になさらずに。帝国軍にも、国に帰ってもらいましたから、少しずつ平穏になっていくでしょう」

涼だって、必要な場合には、その場にふさわしい応対はできる。



おババ様は、涼が引っ張っている『お土産』に目をやる。

「リョウ殿、本当にそれはよいのか? うちの者たちに運ばせた方が楽じゃろう?」

「大丈夫ですよ。引っ張る瞬間に、地面を凍らせて、滑らせているだけですから、全く疲れません」

「さすが……。セーラが言った通り、魔法の腕もかなりじゃな……」

涼の答えに、おババ様は感心して頷きながら言った。


「そういえば、セーラは?」

「うむ。村で待たせておる。この者たちがリョウ殿に矢を向けたと知れば、恐ろしいことになるやもしれぬと思うてな、わしだけで来た」

おババ様のその言葉に、後をついてきていたエルフたちが震えた。

セーラは、西の森でも、『きちんと』畏怖されているらしい。


「さすがセーラ……」

涼は頷いた。



尊敬と畏怖は、同質の感情である。

紙一重といってもいい。


ただし、畏怖は恐怖へと容易に変わる。

そして、畏怖と恐怖も紙一重なのだ。


そう考えると、尊敬と恐怖は、紙二重くらいの違いしかないのかもしれない……。


セーラへの畏怖は、果たして尊敬へと変わるのか。それとも恐怖へと変わるのか……。

それは、誰にも分からない。




しばらく歩き、一行は西の森の奥、エルフの村に着いた。


一行の先頭、涼とおババ様の姿が見えると、村の端で一行が来るのを、今か今かと見ていた一人のエルフが声を上げた。


「リョウ!」


そして、涼の胸元に、音速で飛び込んだ。


「や、やあ、セーラ」


なんとかセーラを受け止めた涼。

日ごろの鍛錬の成果だ……多分。


「約束どおり来てくれたんだな」

嬉しそうに言うセーラ。

その笑顔は眩しい。


「うん、約束どおり来たよ」

それにつられて、涼も笑顔になる。

涼は、セーラの笑顔が大好きだ。



セーラは、ふと、涼とおババ様の後をついてきている弓矢を携えたエルフ一行に目をやる。


そして言った。

「リョウの護衛、ご苦労」

「は、はい……」

答えた警備隊長の声は、ほんの少しだけ震えていた。




涼が通されたのは、村の中央にある大きめの家であった。

大長老である、おババ様の家だそうだ。

西の森の、幹部たちが集まることもあるため、大きめの作りだとセーラが説明する。

とても嬉しそうだ。


「私もここに住んでいるんだ」

「あ、そうなんだ?」

「おババ様は、私の祖母だからな」

「……え?」


突然のセーラの告白に、脳の理解がついて行かない涼。


理解するのに、たっぷり十秒かかった。


「知らなかった……」

涼は呟く。


セーラの両親は、もう亡くなっていると。

そこは少し寂しそうな表情で言ったため、涼も深くは聞かない。

セーラが話したくなったら、その時に話してくれればいいかと思ったのだ。



涼は、アベルからの親書をおババ様に渡す。

ああ見えて、アベルは国王……。



「これは、お土産」

涼はそう言うと、馬車からずっと引っ張ってきた大きな袋を開けた。


そこには……。


「コーヒー豆と……ライスと……香辛料? この香りは……カレーのスパイス!」

「正解!」

セーラは見ただけで正解にたどり着いた。

いや、香辛料は香りでだが。


涼は王立錬金工房の通信網によって、コナ村からローストしたばかりのコナコーヒーの豆を。

カイラディーからライスとカレーに使われる香辛料を手に入れた。

西の森へのお土産として。


「さすがはリョウだな! 素晴らしいお土産だ!」

思わず抱き着くセーラ。

照れる涼。

それを見守るおババ様。




だがしばらくすると、闖入者が現れた。

「失礼します」

十人ほどの、エルフの青年たち。

先頭にいるのは、涼も見た記憶がある。


確か……、

「どうした、ロクスリー?」

おババ様が問いかける。


かつて、王都のエルフ自治庁で、涼に向かって剣を抜き、速攻でセーラに手の骨を折られたロクスリー。

その後は、セーラの指導を受け、さらに王都陥落前には、自治庁長官カーソンを補佐するほどに成長した青年だ。


もちろん、涼は、実年齢は知らないが。



「もうしわけございません、おババ様。この者たちが、どうしてもリョウ殿にお話があると……」

ロクスリーがそう言って、後ろについてきた者たちを見る。

そのうちの何人かは、先ほど、涼を森の中で襲撃した者たちのような気がする……。


セーラは首を傾げた。

翻っておババ様は、顔をしかめている。

訪問理由に想像がついているのかもしれない。


「リョウ殿は、アベル王の使者ぞ」

おババ様の声は低い。


入ってきた者たちは、少しだけ顔を強張らせるが、それでも勇気を振り絞って言った。

「もちろん、理解しております。我々は、使者殿に、武芸を一手ご指南していただきたく」



瞬間、一帯を鋭い風が吹き抜けた。



セーラの刺すような視線が、青年たちに突き刺さる。


「お前たち……」

おババ様以上に低い声。

青年たちは顔を強張らせるだけではなく、人によっては震えてさえいる。



「セーラ様、私も、リョウ殿に一手ご指南いただきたいと思っております」

「ロクスリー、お前まで……」

ロクスリーも言い、セーラはロクスリーを睨みつける。

だが、ロクスリーは、他の者たちと違って、堂々と言う。

「ぜひ!」



「いいですよ?」



そんな緊張状態を救ったのは涼の一言であった。

「リョウ?」

「セーラが鍛えたのでしょう? エルフの近接戦というのには興味があります。広場があれば、そこでやりましょう」




「すまん、リョウ」

「いいってば。えっと、どれくらいでやっていいのかな? 大怪我はさせないつもりだけど……」

「腕の一本や二本、斬り飛ばしていい。相手の実力を見抜けない者など、どうせこの先、どこかで死ぬことになる。一度くらいは、痛い目を見た方がいい」

セーラは、あえて大きめの声で言った。

少し離れた場所で準備をしている青年たちに聞こえるようにだ。


「いや……四肢欠損を修復できる者は、今、村にはわししかおらんのじゃが……」

おババ様は、小さく首を振りながら言った。



模擬戦ということで、どちらも刃を潰した剣。


腕を斬り飛ばしたりは、さすがにできない。




審判は、おババ様であった。

「それでは、はじめ!」


カキンッ。


「え……」

たった一合で、エルフ青年の剣は吹き飛ばされ、涼の剣がその喉元に突き付けられた。


「ま、参りました……」



「次っ!」



「うぉぉりゃー」


カキンッ。


「な……」

再び、一合で、エルフ青年の剣は吹き飛ばされ、涼の剣がその喉元に突き付けられた。


「参りました……」



「次っ!」




十人のエルフ青年、全員が、一合で剣を吹き飛ばされた。



「最後、お願いします」

ロクスリーが出てくる。


「よし、こい!」


完全に、涼は指導モードに入っていた。

セーラが西の森に去った後、ルン辺境伯領騎士団の指南役の一人となった涼。

基本的に、騎士たちを叩きのめす役割だったのだが、完全に、それを思い出していた。



ロクスリーは、かなり強かった。

今までのエルフ青年たち、十人全員を合わせたよりも強い。


だが……。


「甘い!」

ロクスリーの唐竹割を、一歩あえて踏み込んで剣をかちあげ、がら空きの胴に剣を叩き込む。


「うぐっ」


ロクスリーは膝をついた。

吐かなかったのは、鍛えられていたからか、ただの意地であったか……。



その頃には、村のエルフの多くが、広場の周りに集まり、観客と化していた。

だが、あまりの力量の違いに、ほとんど声はない。



ようやくそこで、涼は周りに気づいた。

(ああ……やり過ぎたかな?)


とはいえ、一手指南してほしいと来たのは青年たちなのだから仕方ない。



そして、涼の目は、何やら準備運動をしているセーラを捉えた。



「えっと……セーラ?」

「リョウも、そろそろ体が温まってきただろう? それに、全力を出さないままというのは良くない。私も、全力を出す機会がなかなかなくてな」

「あ……うん、そうなりそうな予感はあったよ」



涼とセーラの剣戟。



西の森、全エルフの度肝を抜く剣戟が、広場で繰り広げられたのであった。



その後、涼の実力を疑うエルフが、ただの一人もいなくなったのは、言うまでもない……。


1.「水属性の魔法使い」第一巻の発売日が、2021年3月10日に決まりました!

2.「水属性の魔法使い」Web版第二部の開始は、2021年4月1日21時です!


1について。

皆様のおかげで、第一巻の刊行にこぎつけることができました。本当にありがとうございます。

2021年3月10日に、TOブックス様から出版していただけます。


本日、2020年12月25日より、TOブックスオンラインストアでの予約が開始されました。

早めに予約しておくと、発売日当日(3月10日)に、「手元に」届きます。

配送会社が、「発売日当日に手元まで」持ってきてくれます! 

(特典SSもあります! 詳しくは活動報告で)



さて、「なろうで読んだし、本は買わなくていいや」とお思いの、そこのあなた!

もちろん、そう思っている方のために、書籍版には付録(外伝)があります。

「外伝 火属性の魔法使い」というものを準備してあるのです。

爆炎の魔法使い、オスカーが主人公で、彼の、6歳から18歳でルスカ男爵に叙されるまでの物語……全40話、12万字。

「水属性~」の第一巻巻末に、「火属性~」の第1話~第8話(2万4千字)が載っています。

「水属性~」の第二巻巻末に、「火属性~」の第9話~第16話(2万4千字程)が載ります。

そんな感じで、続きが載っていくわけですね。


「なろう」で本編を読んでいて、「オスカー強すぎ。なんでよ!」とか「オスカー、いばってるから好きじゃない」とか、思った方はいらっしゃるのではないでしょうか?

この外伝は、ぜひ、そんな方に読んでいただきたい!

もちろん、「オスカー好きだよ!」という方には、当然のようにお勧めします……。


この外伝は、インターネット上で公開する予定はありません。

お金を出して、書籍版を購入していただいた方のための『外伝』です。

紙でも、電子でも、予約でもそうでなくても、載っていますので、その辺りは安心してご購入ください。


ある程度、売れないと、打ち切りになっちゃいますからね。

筆者としては、それは嫌なので、買っていただくために、外伝をつけたわけです……。


この、オスカー外伝以外にも、特典SSになるはずだったけど、筆者が無理を言って本文に入れこむことに成功した「涼とアベルの干し肉づくり」(5千字超)など、色々追加しております。

逆に、最初の方、涼の修行パート部分は、圧縮したりくっつけたりして、多少読みやすくなったと思います……多分。


そんな第一巻ですが、二段組構成で、実に23万字の大容量!(大容量? 変な日本語? ページ数は400ページくらいです)

涼とあの人(悪……)とのバトルシーン(ボリュームアップ済み)まで入ってしまいました。

最初は、一段組で16万字(400ページくらいの分厚い大きめラノベがこの辺)くらいだったんです……でも、色々ありまして……増えました! あはははは……。



2について。

Web版第二部の開始日を、2021年4月1日に決定いたしました!

第一部が開始されたのも、2020年4月1日だったので、ちょうど一年後ということで……。

いちおう、第一部同様、毎日21時投稿予定です。

筆者のモチベーションと体力が続く限りにおいて、ですが……。



現在、第二巻の改稿を行っております。

第二巻からは、最終章まで続く新たなエピソードが追加されているんです。さらに、Web版だと第四部から登場予定だったキャラが早くも出てきます。早めに出して絡めた方が、面白くなりそうだな~と思ったので……。

一度、「なろう」で楽しんでいただけた方にも、再度、書籍版でも楽しんで欲しいですもんね。

あ、でも、何もかもが大きくがらりと変わるわけではありません、安心してください。

たとえるなら、Web版が塩をまぶしたステーキなら、書籍版は塩もコショウもまぶしたステーキみたいなものです。

ステーキであることは変わりません、お肉は美味しいままです。お塩もそのままです、でもコショウが加わることによって、味わいも変わり、より確実に美味しくなるでしょう?

そんなイメージかなと思っています。


第一巻ですが、正式名称は、

「水属性の魔法使い 第一部 中央諸国編1」

です。

運が良ければ、長く続けられそうな題名です! 頑張ります!


第一巻、第二巻、そしてWeb版第二部、どうか楽しみに、お待ちください!

あ、もちろん、Web版は、第二部開始までにも時々、SSは投稿すると思いますので、ブックマークはそのままで!


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『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
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