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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 最終章 ナイトレイ王国解放戦
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0233 涼は真面目!

「『五竜』がカーライルにいただと……」

ルン冒険者ギルド執務室で、ギルドマスターであるヒュー・マクグラスはうめいた。


アベルを補佐しているハインライン侯爵から回ってきた情報である。


以前、『五竜』との連絡が取れなくなり、グランドマスター自らが、『赤き剣』にその捜索を依頼しに来たことがある。

その際、連絡が取れなくなった場所が帝国との国境近くということもあり、第二王子であるアベルを派遣するにはあまりにも危険ということで、アベルはトワイライトランドへ、五竜の捜索には、王都のB級、C級冒険者を出すということになっていた。


結局、その後の経過については、ルンの街までは回ってこなかったし、ヒューも非常に忙しかったために完全に頭の中から消え去っていた。


そんな五竜が、同じ北部のフリットウィック公爵領におり、おそらくは敵方についている、と。


その敵が、『レイモンド王』なのか『帝国』なのかは、まだ確定していないが。



「どちらにしても、敵に回すと厄介な戦力だ……」

ヒューは文字通り頭を抱えた。


戦場に出てくれば、雑兵たちを殺しまくるであろう。

A級冒険者の戦闘力は、非常に高い。

抑えるには、同ランクの冒険者を用意するか、B級冒険者での飽和攻撃でもするしかない……非常に厄介なのだ。



しかし、それ以上に厄介なのは、暗殺任務として送り込まれてきた場合である。


レイモンド王にしろアベル王にしろ、今はまだ、王個人の存在によって組織が成り立っている段階。

代替わりがシステム化されている強力な官僚機構があるわけではなく、周りに、死んでもすぐに代わりとして擁立できる人物が準備されているわけでもない。



『王が死ねば終わり』



そんな、ボードゲームのような危うい状況なのだ。


そこに、強力な手駒が、命を狙って突入して来たら……。

陣内に、将棋の龍や、チェスのクイーンが入り込んでくるのと同じである。

王の命は風前(ふうぜん)灯火(ともしび)……守り抜けたとしても、守った者たちの被害は甚大となる。

バラバラと討ち取られ、以降の戦線維持に支障をきたす。


強力な手駒をどう使うか。


戦略と戦術、両方の視点が必要となる部分である。


「剣士、槍士、火属性魔法使い、斥候の四人を確認と……四人? 『五竜』だから五人だろ? あと一人は神官ヘニングか……なんで、いないんだ?」

そんなことを呟きながら、頭を悩ませるヒュー・マクグラスであった。




「神官ヘニング以外の四人か……」

ヒュー・マクグラスに回されたものと同じ書類を、アベル王も確認していた。


「全員A級というのはすごいですねぇ」

アベルの呟きを聞きながら、いつものソファーに今日はきちんと座って、涼は感想を述べた。

座っている理由は、コーヒーを飲むためである。


「ああ。実績、実力ともに王国の頂点にいる冒険者たちだからな」

「アベルがA級に上がるまでは、王国唯一のA級パーティーだった人たちですよね。それが敵になるとは……」

アベルが説明し、涼は小さく首を振りながら嘆いた。


「何かの間違いであってほしいのだが……」

アベルも小さく首を振りながら、そんな言葉を吐いた。



「アベルならその五人、いや四人? を相手にして、倒せますかね」

「いや、無理だろ。はっきり言って、剣士のサン殿一人でも、俺一人でどれだけもつか……」

「そんなに強いのかぁ」


アベルがまた首を振りながら否定し、涼は困った顔をしながらぼやく。



「彼らが、この館に突撃して来たらどうするつもりですか? アベルが死んじゃったら、困る……困る顔をする人はそれなりにいると思うんですよ」

「ああ……困る顔をするだけな」

「そんなことでいじけないでください。困る人がいなかった場合を考えて、あえて言い直してみただけです。そうそう、アベルは、そんな王様みたいになっても、ちゃんと毎日剣を振るっていますよね。素晴らしいことなので、これからも続けてくださいね」

「お、おう……」


「たまに騎士団に稽古をつけるんですけど、アベルが剣を振るっているのを見て、彼らの士気も上がっているみたいです。王として、素晴らしい仕事をしていますね」

「そ、そうか?」


「ここでもう一つ、アベル王の名声を高めるいい方法を提案します!」

「いや、なんか聞かなくても想像がつくから……」

「僕にご飯を奢ったりすれば……」

「ああ、そういうことだろうと思ったよ!」


もちろん、領主館にいる限り、涼の三食昼寝付……昼寝はないが、三食+夜の睡眠は確保されている。

わざわざ、アベルがご飯を奢る必要は、全くない。




「なあ、リョウ……」

「はい? また……」

「お金じゃないぞ!」

「先回りされた……」

先手を打たれて、涼はうなだれた。


「あの、部屋の隅に、さっきから、氷の塔ができたり消えたりしているんだ……」

「よく気付きましたね!」

アベルは、部屋の隅を見ながらそう言い、涼は一つ頷いて答えた。


その部屋の隅には、氷で作られた、人の身長くらいの東京タワーが、現れたり、消えたりしている。


「あれ、時々、涼が掌とか肩とか、頭の上とかに作ってるやつのちょっと大きい版だよな。トーキョータワーとか言ってたやつ」

「ええ。よく覚えていましたね」


以前は、涼は誰にも見られないところで、魔法制御の練習として、極小の東京タワーを氷で生成していたのだが、アベルの護衛を引き受けて以降は、この部屋でそんな訓練を行っていた。

もちろん、アベルだけがいる時にである。

アベルには隠すのを諦めた、という言い方もできるだろう。



「いや、リョウってそういう部分は真面目だなと感心してな」

「真面目というか……強い相手がいっぱいいますからね。自分の命のためにも、手は抜けませんよ?」

「ま、まあ、確かにな」


涼が首を傾げながら当然の事ですよ、という顔で言うと、アベルは頭を掻きながら答える。


アベルからすれば、涼ほど強くなっても努力し続けることに感心したのであるが、涼からすれば、悪魔レオノールみたいなのと戦うことを考えると、努力してもまだまだ足りない気がしているのである。



「魔法制御……と勝手に言っていますけど、魔法を精密に操る力とか、瞬時に生み出す力とか、そういうのって、使えば使うほど上達するんですよ。剣の扱いとかと同じで。ですので、寸暇を惜しんで練習しているのです!」

「その割には、ソファーの上でぐたーっとして……」

「アベル、部屋の隅じゃなくて、百メートルくらい先の見えないところで、タワーを作っている可能性もありますよ?」

「ああ、可能性はある。可能性はあるが、リョウはやらない」

「え……」

「そんなところで作っても、頑張っているアピールにならないからな!」

「うっ……」


涼は痛いところを突かれ、崩れ落ちた。


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