0211 <<幕間>>
使節団は、特に問題も無く、王都に到着した。
解団式を経て、それぞれに散っていく。
王国騎士団は新築の騎士団詰め所へ。
冒険者はギルドへ。
交渉官イグニスと文官たちは外務省へ。
そして、涼は錬金工房へ。
涼とアベルは、明日の朝にはギルド馬車で、王都を発ってルンの街へと出発する予定になっている。
そのため、何かするなら今夜しかないのだ。
だから、涼は迷わずケネスのいる王立錬金工房へ向かった。
一方アベルは……。
『イラリオン邸』の地下から、王城の隠し通路を通って、王太子の石の扉を叩くアベル。
いつも通り、扉は開いたが、そこにいたのは、王太子ではなかった。
実直そうなその男の顔には、見覚えがあった。
「確か、ダニエルであったな。王太子付き侍従の」
「さようでございます、アルバート殿下。どうぞ、中へ」
アベルは、扉を開ける前の合図から、扉の向こうにいる者が王太子でないことは分かっていたが、やはり心が騒ぐのを止めることは出来ない。
はたして、王太子はベッドにいた。
歩くことは、もう出来なくなったのだ。
「ああ、アルバート、よく来てくれた」
「兄上……」
アベルは、それ以上言葉を紡ぐことができなかった。
「アルバート、そんな顔をしないでくれ。幼少より、こうなることは分かっていたんだ。この身体も、想像以上にもってくれたさ。それに、確かに歩くことは出来なくなったけど、まだ頭は働くよ」
そう言うと、王太子は微笑んだ。
アベルは、生涯、その微笑みを、忘れることはなかった……。
「ところで、宿題はやってきたかい?」
「はい、全て終わらせました」
「そうか、さすがだ。そういうところ、アルバートは昔から真面目だったね」
王太子は一つ頷くと、提出された宿題の中から一つ取り出し、無造作にめくる。
「ふむ……さすが、なかなかに興味深い回答だね」
「ダメ……でしょうか?」
アベルは、不安な顔をして問いかける。
「ん? いやいや、そんなことはないよ。言うまでもなく、これらの問題の多くは、絶対の正解はない。基本的な法に沿ったものであれば、あとはアルバートの考え一つさ」
それはそれで難しい。アベルはそう思った。
「民あってこその国であり、王室だ。それさえ忘れなければ、いい王になれると思う」
王太子のその言葉で、兄弟の短い会合は終了した。




