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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第十一章 トワイライトランド
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0201 闇属性

「私の母がサイラスお爺様の娘なのですが、トワイライトランドは直系男子にしか公位継承権を認めていません。ですから、私に継承権はないんです」

「でもミューは、お父さんが王国侯爵だから、そっちの継承権があるんだよ」

補足したのは、ミューの肩に手を置いていたパーティーメンバー、名前はイモージェン。


(ああ……。王国侯爵家の娘であり、ランド大公の孫がランド国内で殺されれば……確かにインパクトはあるのか……)

涼はそう考えたが、口には出さなかった。


「いちおう、今回の護衛に選ばれた際に、私の出自について、グランドマスターとイグニス交渉官には確認してあります。ですが、グランドマスターは逆に、それはリスクではなくてメリットにもなり得るから頑張ってこいと……」

ミューは、きちんとリスクの可能性を指摘して、それでも上はOKを出したのだ。

「うん、だいたいわかったよ。話してくれてありがとう」

そういうと、涼はミューたちの元を離れ、リーダー会議の方へと移動したのだった。



涼がリーダー会議の方へ向かうと、ちょうど会議が終わったらしく、解散していた。

「リョウ!」

アベルが、涼を見つけて呼びかける。

「会議、終わったんですね。いちおう、教団が狙った理由を確認してきましたよ」

二人は、他から少し離れた場所で情報の交換を行った。



涼からアベルには、ミューの出生。

アベルから涼には、今後の対応。



「国境を越えているために、暗殺者たちは、ランドに引き渡さざるを得ないそうだ」

「そうですか……。ロザリアでしたっけ、闇属性の魔法使い。貴重な人材ですが、やむを得ませんね」

「あ、ああ……」


涼が考えながら意見を言うと、アベルが奥歯に物が挟まったかのような顔をして同意する。


「アベル、どうしたんですか?」

「いや、リョウの口から『貴重な人材』とか言う言葉が出てきたのが意外で……」

「まったく、アベルは僕の事を何だと思っているのですか! 僕だって、国の発展の事を考えていますよ! 彼女がいれば、ものすごくレアな錬金道具を作れるんですよ? 今の僕にはまだ無理でも、ケネスの元に連れて行けば……」

「うん、そういうことか。もの凄く納得した」

涼の基準は、カッコいいか、面白いか、そして錬金術的にどうかだと。


「まあ、とにかく、今夜我々が泊まる『カルナック』という街にすぐに連絡を取って、彼らを護送する者に来てもらうそうだ。どれくらいで来るかとかは全然わからんらしいが」

「なるほど。外国ですしね、いろいろ王国とは手続きも制度も違いそうです。でも、すぐ来る可能性もあるのなら、ちょっと氷漬けの人にも聞いておきたいことがあるんですが」


二人は、交渉官イグニスの許可をもらって、氷漬けの女性ナターリアの元に赴いた。




「何度見ても……この状態で生きているというのが信じられん」

アベルは、氷漬けになったナターリアを見て言う。

「僕も、生かしたまま氷漬けできるようになるまで、かなり練習しましたからね。数多くの、ロンドの森の魔物たちが犠牲になりました……」


涼はしみじみと言っているつもりだが、涼が何とも思っていないことはアベルにはバレバレである。

その結果、アベルの口から出た言葉は……、


「へぇ~」


とても軽いものであった。

それを、少しだけ恨みがましい目で見てから、涼はナターリアの氷を、顔の部分だけ融かす。

「こんにちは、ナターリア。ちょっとお話をしたいのですが」

「ふざけんな! くたばりやがれ! お前……」


すぐに、再びの氷漬けとなり、しかも、氷漬けされている身体が何やら圧力をかけられているように見える。



二分ほどそれが続いた後、涼は再び、ナターリアの顔の氷を融かした。


「綺麗な女性が、そんな汚い言葉を吐くのはもったいないですよ。身体、痛かったでしょう? 氷漬けになっているんですから、その氷に潰されそうになったらそりゃあ、痛いですよね」

「お前……」


ナターリアの顔は、恐怖と憎悪に染まっていた。



恐怖は、自分の生殺与奪を握られていることに対して。

憎悪は、自分がいいようにされてしまうことに対して。



「たいした質問ではありません。ミューを狙った理由は分かっていますが、その確認と依頼主に関してです。まず、ミューの出自が理由ですよね?」

「私が、そんな質問に答えると思っているのか? なめられたものだ」

精一杯ではあるが、ナターリアは馬鹿にした顔を作って、涼に向かって答えた。


「そうそう、僕は、別に暗殺教団に対して恨みはありません。村を氷漬けにしたのも、あなたたちがウィリー殿下を攫ったからというだけです。でも、あんまり強情を張ると、今度は『黒』を殺しに行きますよ?」


涼は、笑顔いっぱいで告げた。

言われたナターリアは、絶句する。



たっぷり一分後、ようやく口を開く。

「そんなことが、できるわけ……」

「試してみますか? 僕の力は知っているでしょう?」



ナターリアは知っている。目の前にいるのは、正真正銘の化物である。


たった一人で村を壊滅せしめ、一面氷漬けにし、あの『首領』と互角に戦った。

『黒』様の事は尊敬しているが、個人戦闘能力において、あの『首領』に劣るのは否めない……。

それは『黒』様だけでなく、幹部全員である……つまり、この目の前の化物に勝てる者は、現在の暗殺教団にはいない。




そんなことに逡巡しているナターリアの元に、涼は決定的な一言を告げた。


「僕は、『黒』やこれからの教団がどうなろうと興味はありません。攻撃してこない限り、こちらから攻撃することはないと約束しましょう。ただし、それはあなたが質問に答えてくれたらです。つまり、ナターリア、あなたは質問に答えるだけで、『黒』と教団を救うことができるのです。こんなチャンス、この先、二度とないですよ」



自らの武力を背景にした脅し。

国同士の交渉の席ではよくあることだが、人同士の交渉の場でも有効なのである。

警察の様な力が無い世界においては。


「わかった……。全てではないが、出来るだけ答えよう。だが、再度約束しろ。私が答えたら、黒様と教団には手を出さないと」

「そちらが攻撃してこない限り、黒と教団には手を出さない」

涼は約束した。



倫理的には、暗殺者やテロリストの様なものと交渉したり、約束したりするのは受け入れられない、という立場の人たちがいるのは知っている。

だが、涼はその辺りのことには全く拘泥しない人間である。


交渉して、手に入れられる情報があるのなら、暗殺者とでも交渉する。



そして、涼たちはいくつかの情報を手に入れた。

使節団襲撃を依頼したのは、トワイライトランドの反乱分子だと。


ランド国内で『人間による』襲撃を行うこと。

ミューを殺すこと。

交渉官と文官たちは生かしておき、ランド首都まで到着させること。

襲撃は、ランドに入って三日以内に行うこと。



ナターリアが知っているのはそれだけであった。

「うん、十分な情報を得ることができました」

「約束は……」

「ええ、もちろん守ります。『黒』と教団には手を出しません」

涼が再度約束すると、ナターリアはホッとした表情になった。



実際、涼は新生『暗殺教団』に、全く興味はない。

涼とは関係しないところで、勝手に幸せになってくれればいい、程度の認識である。

そのため、ナターリアとの約束を破る気もなかった。


後ろでずっと聞いていたアベルは、いろいろ考えることもあるのかもしれないが……今のところ黙ったままであるため、気にしないことにした。



涼は、再びナターリアを完全な氷漬けにして振り返る。

「そういうことです、アベル」

「ああ……。まあ、今後の暗殺教団については、今のところいいさ。気になるのは、『ランドの反乱分子』だな」

二人は、歩きながら話し合う。


「まあ気になりますね。とはいえ、情報が少なすぎて、何とも言えないというのが正直なところでしょうか」

「そうだな。……イグニス交渉官は、ミューの出自も知っているんだよな。なら、今の話も含めて彼にだけは報告しておくか」


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