0200 尋問
暗殺者三十人のうち、捕虜六人+氷漬け一人。
捕虜となったのは、最初の遠距離攻撃で足に深手を負い、動けなくなった者たち五人と、投降した女が一人。
氷漬け一人は、もちろんナターリアである。
「一人離れた所から狙っていたとは……」
氷漬けナターリアを涼が運んでくると、冒険者まとめ役のショーケンが感心したように言った。
「一人だけ離れた所にいたので変だなと。この女は、暗殺教団の幹部です」
涼の一言に、使節団一行は色めき立った。
「やっぱりこいつら、暗殺教団か……」
「どうりで強いと……」
「女幹部……」
最後のひとことを言った冒険者は、周りの女冒険者たちから白い目で見られていた。
そのひとことに、どんな感情が混入していたか、女性はすぐに気づくのである。
女の勘をなめてはいけない!
(<アイスウォールパッケージ>)
涼は、捕虜六人を、まとめてアイスウォールで囲い込んだ。
相手は暗殺者である。
自爆などされては大変なことになるからだ。
「アベル、いちおう、あの六人、氷の壁で囲んでおきました」
アベルに、コソコソと小さい声で囁く。
ホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)は大切。
「おう、了解だ」
アベルは頷くと、交渉官イグニスの方を見て尋ねる。
「この者たち、どうしましょうか」
この場における、最上位者は、交渉官たるイグニスである。
とはいえ、彼は、自分が荒事に慣れていないうえ、この襲撃者たちに関しての情報を全く持っていないことも自覚していた。
「アベルさん、申し訳ないが、私は彼らに関しての知識が全くない。もし尋問などをするにしても、何とも判断がつかないんだ。護衛の皆が了承するなら、A級冒険者のあなたにやって欲しいと思っているのだが……」
「賛成です」
真っ先に賛成したのは、冒険者のまとめ役たるショーケンである。
「私も、アベルさんにお任せするのが適任だと思います」
続いて、騎士団を率いる中隊長ドンタンが賛成した。
その後ろでは、ザックとスコッティーも頷いている。
こうして、中核メンバーの承認を取り付け、アベルが代表して尋問することになった。
そして、当然の様に、涼はアベルの脇に控えた。
だが、尋問をする、その前に。
「リョウ、あの女幹部の名前は?」
小さな声で涼に確認する。
「ナターリアです。以前に、この暗殺教団を率いていた『首領』と呼ばれていた人物が言っていました。で、幹部の『黒』という人物にほだされて、首領を殺したみたいです」
「マジか……」
それを聞いて、アベルは小さく首を振った。
いくつかの情報交換の後、アベルは六人に向き直って話し始めた。
「尋問ということなんだが……お前たちが正直に答えてくれるとは思っていない。そこでだ、俺が一方的に喋るから、黙って聞いていてくれ」
使節団一行も、予想外の言葉にお互いに視線を交わし合ったが、言葉は発しなかった。
相手は暗殺者たちである。
質問しても答えてくれるとは思えない、というのは確かにそうかもしれない。
「最初に言っておくが、お前たちが、いわゆる暗殺教団と呼ばれている者たちであることはわかっている」
まず、そこまで言い切った。
五人は全く表情は変わらない。
だが、投降した女だけは、ほんのわずかに表情が揺らいだ。
「リョウ、あの女だけ、さらに別に囲えるか?」
「ええ、できますよ」
小声で交わされた会話、そして、誰にも気づかれずに、女暗殺者はただ一人、さらにアイスウォールで囲われた。
尋問が進んでいき、その女暗殺者から情報が漏れそうだと知られれば、五人が危険を承知でも口封じをしようとする可能性があるからだ。
なんともありそうな展開である。
「次に、この氷漬けの女性が、幹部のナターリアであることも分かっている」
この言葉には、男五人も無反応ではいられなかった。
なぜ、部外者である男が、そんなことを知っているのか。
確かにA級冒険者であることは知らされていたが、それでも、教団幹部の名前を知っているなど、明らかにおかしい。
「そうだ、王国に、お前たちの村があったろう? 氷漬けになって亡んだ村だ。そこでお前たちの首領が死んだはずだが……」
先ほど以上に、六人とも顔をこわばらせて聞いている。
「知っているか? その首領を殺したのは、このナターリアだぞ?」
ついに、六人は目を見開いた。
無表情を装う余裕など、完全になくなった。
「嘘をつくな!」
さらに、男の一人が声を上げる。
「嘘などついていないさ。『黒』のために殺したんだ」
六人の表情は、真っ青になっていた。
目の前の男は、『黒』様の事すら知っている!
馬鹿な! そんなことがありえるか! だが、現実に起きているのだ。
そして、女暗殺者は、真っ青な表情を通り越して、ほとんど泣き出しそうであった。
「ああ、そういえば、お前たち、胸にタトゥーがあるだろう? ほら、双頭の鳥を剣で突き刺しているあれだよ」
六人は、もはや完落ち寸前であった。
全ての事を知られている。
自分たちが隠したところで無駄なのだと。
「あのタトゥー、首領が死んだあとも機能しているのか?」
「……は?」
目の前のA級冒険者、アベルが何を言っているのか理解できなかった。
「ん? あのタトゥー、剥ぎ取ろうとしたら、石の槍が出てきて心臓を突き刺すだろう? その機能は、今も有効なのかと聞いているんだ」
「なんだその機能は……」
男の一人が、思わず呟く。
アベルたちがその機能を知っているのは、元幹部シャーフィーが言っていたからだし、実際にシャーフィーの胸から剥ぎ取る際に、槍が生じたからである。
だが、目の前の六人は、その光景を見たことが無かったのであろう。
鈍い反応であった。
「知らなかったのか? そのタトゥーにはそういう機能があるんだ。錬金術で組み込んであるらしいが……首領が死んだ今、どうなっているのかなと思ってな」
これは、ある意味決定的であった。
教団に所属する自分たちよりも、目の前の男は詳しく知っているのだ。
自分たちの身体の事を。
なぜかは分からない。
だが、いやがおうでも納得させられた。これは勝てない相手だと。
「さて、お前たちの目的だが……」
「アベル」
アベルの言葉を、涼が横から遮った。
そして耳に口を寄せて、今まで以上に小さな声で言う。
「それは僕が分かっています。ですから、ここでは聞かないでください」
「ふむ……」
涼は、使節団が襲われた理由の一端はわかっていた。
それは、ナターリアの一撃を防いだからである。
味方の攻撃全てを隠れ蓑にしてまで、ナターリアの石の槍は、ある冒険者の心臓を正確に狙っていた……。
つまり、その人物を殺すのが目的……目的の全てでは無いかもしれないが、主目的の一つ。
そして、そのことは、ここでは公にしない方がいいと思ったのだ。
なぜなら、狙われた女性は、事ここに至っても何も言わないからである。
公にしたくない理由があるのだ。
ならば、後で涼が聞きに行けばいい。
そして、聞いたことをアベルに伝えればいい。
わざわざ皆に聞かせる必要はないであろうと。
「そうだ、お前たちの中に、闇属性の魔法使いがいるな?」
その言葉に対する、女暗殺者の反応は激烈だった。
誰が見ても、平静ではないことが見て取れた。
「そうか、君が闇属性の魔法使いか」
アベルは確信をもって、女暗殺者に尋ねた。
女暗殺者は力なく頷いた。
その瞬間、男たちのうち二人の手元が閃いた。
そこから正確に、何かが女に向かって飛んだのだ。
だが……。
カキン カキン。
男たちと女との間に張られていたアイスウォールによって、その二つの投げナイフは弾かれた。
その瞬間、アベルはニヤリと笑った。
「こわいな~。女、お前さんの仲間たちは、躊躇なく殺そうとしたぞ?」
女暗殺者は、仲間のはずの五人の男たちを見やる。
目を見開き、歯を噛みしめて。
その表情は、怒りと、悔しさと、怖れのないまぜになったような……なんとも形容しがたいものであった。
「さて、闇属性の魔法使い。名前は何という?」
「……ロザリアです」
ロザリアが、暗殺教団から離れた瞬間であった。
とりあえずの尋問が終わり、使節団の各リーダーたちが今後について話し合っている間に、涼はある女性の元に近付いて行った。
魔法使い、女性、髪がブルネット、身長が小さい冒険者である。
ナターリアが、部下たちを犠牲にしてまでも狙った相手だ。
涼が近付くと、女性の方から頭を下げてきた。
「あ、リョウさん、先ほどはありがとうございました」
「いやいや。ミューさんでしたよね。味方を守るのは当然ですよ」
アクレでの宴会を通して、涼は護衛冒険者全員の名前を覚えていた。
「それで……もし可能なら、どうして狙われたのか教えて欲しいなと思ったのですが……」
そんな会話をしていると、ミューの後ろに、彼女のパーティーメンバーたちが寄ってきていた。
「はい……」
ミューは俯きながら、ちらりと後ろのパーティーメンバーを見る。
「ここで大丈夫?」
他の人には知られたくない事情なのではないかと、涼は思ったのだ。
だが……、
「大丈夫です。パーティーの仲間は、みんな知っていることですから……」
ミューは一つ頷くと、話し始めた。
「確信はないのですが、ここで私が狙われるとしたら、理由は私の実家というか、出自というか、その辺りが理由だと思います」
涼は口を挟まないで静かに聞いている。
後ろに立ったミューの仲間たちが、そっと手をミューの肩に置いた。
そんな、たった一つの行動で、パーティー仲が良いことがわかる。
なんとなく、涼はほっこりした。
「私の祖父の名前は、サイラス・テオ・サンタヤーナ。トワイライトランドの、現大公です」
この世界には、王子様や大公孫といった、王族が溢れているようです。




