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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第十一章 トワイライトランド
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0197 ショーケン

C級冒険者ショーケンは悩んでいた。

彼は、この使節団護衛冒険者たちのまとめ役である。

三十三歳という、この中での最年長であり、長く深い冒険者としての経験を買われ、グランドマスター直々にまとめ役に任命されたのだ。


四パーティー二十人からなる護衛冒険者たち自体は、何の問題も無い。

パーティーどうしがいがみ合ったり、非協力的であったりということも全くない。

それどころか、普段協力することなどない王国騎士団の団員たちとも上手く連携して、護衛の任をこなしている。


では、何がショーケンを悩ませているのか。

それは、馬車の中にいる冒険者であった。



一人はA級冒険者アベル。

もちろん、人格的な問題や、能力の不足、はたまたコミュニケーションに難を抱えているなどというような、そんな問題はない。

さすがはA級という深い識見と、あらゆる人を惹きつけるカリスマ性、そして他の追随を許さない剣の腕を持っている。

朝、宿の中庭で剣を振るう姿や、知り合いらしい騎士と軽い模擬戦をしている姿を見ると、その剣の技量の高さに圧倒される。


もう一人、C級冒険者のリョウという魔法使い。

C級であるが、アベルの相方として選ばれただけあって、人として何ら問題は無さそうである。見た目は十六歳や十七歳に見えるのだが、それは東方系の顔立ちによるものらしい。

もっとも、アクレの宿での宴会では、女性冒険者たちに「かわいい~」を連呼され、ずっとちやほやされていた。

それはちょっと羨ましい。



アベルにしろ、リョウにしろ、彼らの冒険者としての技量や、人としての性格に何らかの問題があって悩んでいるわけではない。

悩んでいるのは、彼らの立ち位置である。


もちろん、彼らが、今回の使節団において護衛任務に関わらないことは知っている。

あくまでゲストとして、トワイライトランドに行くことも知っている。

だからこその、馬車であることも知っている。


だが、護衛任務に関して、彼らの、特にA級冒険者アベルの意見を聞きたい状況が発生した場合、聞きに行っていいのか、いけないのか。

そこなのだ。


アクレの次の街、バードン・ブレインを過ぎてから毎日のように襲ってくる魔物。

これに関しての見解を聞きたい。


もちろん、ショーケンの中にも、すでに予想はある。

だが、それだけが答えとは限らない。

自分や仲間たちが気付いていない何か、あるいは思い至っていない何かがあるかもしれない。

他に訊ける者がいないのであれば諦めるが、すぐそこの馬車の中にはいるのだ。

アクレの宿で一緒に飲み、知らない仲でもなくなった。


聞きたい……。




バードン・ブレインを出て、六日目の昼。

この日も、いつも通りの午前中の魔物襲撃を撃退し、使節団一行は昼食休憩を取っていた。


バードン・ブレイン以降も、夜は、村や小さいながらも街に宿泊している。

使節団全員が泊まれる宿はもちろんないため、一部夜営となっているが。

だが、少なくとも食料の調達は問題なく、調理は従士と一部の文官、冒険者たちが行い、昼も夜も不満の無い食事が提供されていた。



そんな昼食後。

「すいませんアベルさん、少しお時間、よろしいですか?」

馬車の外で、アベルと涼が景色を眺めながら昼食を食べ終えたところに、冒険者のまとめ役であるショーケンが話しかけてきた。


「ショーケンさん。ちょうど食べ終わったし、どうぞ」

アベルはそういうと、隣にどうぞと、地面をポンポンと叩いて示した。

反対側では、涼が食後のコーヒーのために、氷製コーヒーミルで豆を磨り潰し始めている。


「実は、連日の魔物の襲撃についてご相談したくて」

「ああ、俺で役に立つならいくらでもどうぞ」


ショーケンはアベルよりも年上であるが、なんといってもアベルはA級冒険者である。丁寧な口調で話すのは当然である。

アベルはA級冒険者であるが、やはりショーケンは年上である。丁寧な口調で話すのは当然である。




ショーケンは、冒険者同士で話し合った内容をかいつまんで説明した。

あまりにも一定の周期で襲ってくるため、人為的な何らかの方法で魔物を操っている者がいるのではないか。

彼らの狙いはこの使節団であるのは確かだが、使節団の誰か、あるいは何が狙いなのかはまだわからない。


「そう、人為的なのは、俺も間違いないと思う。魔物を操る道具みたいなのは聞いたことが無いが……錬金道具ならあり得るのか? なあ、リョウ?」

アベルは、隣にいるリョウに問いかけて、そちらを向いた。

涼は、氷製の小さな机を生成し、その上にコーヒーの粉とお湯の入ったフレンチプレス、それと氷製の砂時計を置いて、時間が経つのを待っていた。



「以前、似たような質問をケネスにしたことがあります。ケネスが言うには、王国の錬金術では作れないと。理由は、魔物を操る魔法が特殊すぎるからだそうですよ」

「魔物を操る魔法……やはり、そんなものがあるのか」

涼の答えに、ショーケンが思わず反応した。


「闇属性魔法の一種だな」


アベルが答え、さらに続けた。

「闇属性魔法には、精神に干渉する魔法がある。普通は、人間の精神への干渉が想定されているが、一部の闇属性魔法使いは、魔物の精神に干渉して、操ることができたらしい。昔、本で読んだことがある。ケネスが言うのもそれのことだろう」

「なるほど……」

「現在、闇属性の魔法を操る魔法使いはいない……と言われている。錬金道具で発動できるようにするには、発動する魔法に関する深い知識を持った人物が製作に協力しなければいけない。だから、作れないということだろう」

アベルはそう言った。


だが、頭の中には、かつて『隠された神殿』で会い、最終的に悪魔レオノールに連れて行かれた闇属性の神官が思い浮かんでいた。

(そう、いないと言われているだけで、実際には存在する)


「だが、もしかしたら、今回の襲撃者の中に、そんな魔法使いがいるのかもしれない。もし、そんな奴がいれば、魔物をけしかけることは可能だからな」

「確かに……」

アベルの言葉に、ショーケンは大きく頷いた。



ちょうどそのタイミングで、涼が声をかける。

「コーヒーが入りました。さあ、ショーケンさんもどうぞ」

そういうと、冷たくない氷製カップにコーヒーを淹れて、ショーケンに渡した。


「ああ、ありがとうございます。これは綺麗なカップですね。それにすごくいい香りのコーヒー……まさか護衛依頼の途中で、こんなコーヒーにありつけるとは」

そういうと、少し口に含んで、目を見開いた。

「美味すぎる! これは最上級品でしょう?」

「アクレの街で、領主館から差し入れていただいた物です。美味しいですよね」


ショーケンの絶賛の言葉に、自分もカップを傾けながら答える涼。

二人の間で、うんうん頷きながらも、無言でコーヒーを飲み続けるアベル。


美味しいコーヒーは、人を笑顔にする。




「ふぅ。美味かった。ごちそうさまでした」

ショーケンはそう言って、カップを涼に返した。


「で、今後起きそうなことだが……」

「ええ。アベルさんは、どう思いますか? いずれ、疲労のピークを見計らって、本命が襲ってくるだろうというのが、護衛たちの見解ではあるんですが」

「ああ、それはまず間違いないだろうな。今、一定のリズムで襲って来ているが、それに慣れた頃に……「ああ、またか」と思って油断している中で、本命が襲う。定番だが……だが、そう思わせておいて、いつくるかわからないから緊張し続けるというのも、また疲労の蓄積を加速させてしまう。まったく、厄介だな」

「そうなんです。困りました……」


そういうと、アベルもショーケンも、無言になって考え込んでしまった。

涼は、横で、自分の管轄ではないために口を差し挟まないようにしていたが、あまりにも悩む二人を見ているのが不憫で、口を出すことにした。


「あの……水属性魔法に、ちょうどいい魔法があります」

「え?」

「マジか」

ショーケンもアベルも、弾かれたように頭を上げて、涼を見る。


「<動的(ダイナミック)水蒸気機雷(スチームマイン)>……はあれなので、それを改良した<動的(ダイナミック)水蒸気(スチーム)ブイ>というのがあります。半径四百メートル以内に、いつもと違う魔物や、人の集団が入ってきたら僕が感知できます。その時には、皆さんに声をかけましょうか?」

「おお! それはいい! リョウさんが何も言わなければいつも通りの魔物の襲撃。いつもと違うのが来たら、リョウさんが教えてくれると。それ、ぜひお願いします!」


原理は、いつもの<パッシブソナー>と変わらない。

ちょっと名前をかっこよくしてみただけである。

動的(ダイナミック)水蒸気機雷(スチームマイン)であれば、全く違う物であったのだが……途中まで言いかけて、さすがにやりすぎな気がしたので取り下げた。




ショーケンが自分のパーティーに戻った後、アベルは涼に聞いた。

「なあ、さっき言いかけた、動的(ダイナミック)水蒸気機雷(スチームマイン)ってのはどんな魔法なんだ?」

アベルは、涼が言いかけた魔法に、何か不穏なものを感じたらしい。


「ああ……。半径四百メートル以内に、いつもと違う魔物や人の集団が入ってきたら、自動的に凍りつかせてしまう魔法です。味方だった場合、あれかなと思いまして、いつものパッシブソナーと同じなものにしてみました」

「うん、それ、危険だから絶対やるなよ」

「やるなよ? 絶対やるなよ? っていうのは、やれよ!っていう、あのお約束的なものですかね」

「ちげーよ!」


そんな涼の軽口は、アベルをいつも不安にさせるのだった。


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