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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第十一章 トワイライトランド
205/930

0191 王立錬金工房

「ケネス! ケネスはいますか~!」

王立錬金工房の玄関で、何事か叫ぶローブを纏った魔法使い風の男。



何度目かの叫びの後、ようやく奥から反応があった。

「ああ、はいはい、ちょっと待ってください」

そして、出てきたのは……ケネスではなかった。



ローブを纏った魔法使い風の男、すなわち涼は落胆したが、見覚えのある顔でもあった。

それは、ケネス・ヘイワード男爵の部下、ラデン。


「あれ? リョウさんですよね? お久しぶりです」

王都騒乱時、涼は、ちょうどこの錬金工房におり、ケネスと部下たちを連れ出し、ルン辺境伯邸に避難させたのである。

その時に、目の前の男ラデンも一緒に避難させた覚えがある。



「いや、その前に……どうして玄関前にいるんですか? この敷地に入る時に、門のところに衛兵がいたでしょう?」

ラデンは、いきなり涼が玄関の前にいたことに疑問を抱いた。

衛兵からの連絡はなかったはずだし……。


「大丈夫。彼らはなぜか気付きませんでしたから!」

気もそぞろな様子の涼が、頷きながらそう答える。

「えっと……」

ラデンはどう答えればいいか迷った。


迷っている間に、涼が言葉を続けた。



「ラデン、ケネスに会いに来たんです。ある物の調査をしているはずなのですが」

「え……」

そこで、びくりとしたラデン。

ほとんど漏れていないはずの情報を、なぜ目の前の魔法使いが知っているのか、あからさまに警戒している。

王都騒乱では救ってもらったし、その恩義は忘れていないが、それはそれ、これはこれである。



錬金工房は、情報漏洩にかなり神経質な組織だといえる。

これは、王家直轄の組織であった過去があり、王家から依頼された錬金道具の製造も、かなりの数でこなしてきたからだ。

特に、主任であるケネスは、情報漏洩に関しては口を酸っぱくして注意を促していた。


それなのに、所管の内務省から『ヴェイドラ』の情報が流出したのは、悲しい話であるわけだが。


「ああ、そんなに警戒しないでください。王都の冒険者ギルド、グランドマスター経由で、僕が『それ』を見学する許可が下りているはずなのですよ。確認してもらえばわかると思うのですが……」

「わかりました。えっと、とりあえず、応接室に……」

「いえ、『それ』の近くまで行きます。ケネスに直接確認してもらうのが一番だと思いますよ?」

それは、もちろん正規の手続きには程遠いのだが、涼の圧力に、ラデンは抗することができなかった。


「そ、それでしたら、私の後を……決して、くれぐれも他に行かないでくださいね。私の後をついて……」

「うん、わかったから、早く行こう」


涼は笑顔のまま。


だが、ラデンはこの日、『笑顔ほど怖いものはない』……そのことを思い知ったのだ。


笑顔のまま後をついてくる涼。

もちろん、後をついて来いと言ったのだから、全く正しい行動なのであるが……ラデンが、半分涙目になっていたのは内緒である。




王立錬金工房は広い。

敷地も広いし、建物も広い。

だが、働いている人間の数は、決して多くはない。

事務関連を除き、錬金術師の数だけで言えば、十人ほどだ。

だが、それだけに、『王立錬金工房の錬金術師』であるということは、王国でもトップクラスの錬金術師だと認識される。


現在、その錬金術師たちをまとめているのが、弱冠二十二歳にして、天才錬金術師の名をほしいままにする、ケネス・ヘイワード男爵。


彼は、様々な機材が置かれ、『分析室』と呼ばれる、錬金工房の中でも最も広い部屋の一つにいた。

部屋面積も広いが、天井までの高さも二十メートル以上という、広大な空間である。

その中央に、件のゴーレムが一体置かれ、様々な線が延びていた。


一心不乱に、作業をしていたケネスは、ずっと左手に嵌めたままにしていた篭手を外し、ようやく一息ついた。



その時、扉がノックされる。

「どうぞ」

ケネスは、外した篭手を、傍らの作業台に置きながら、ノックされた扉を見た。


入ってきたのは部下のラデンと、久しぶりに見た水属性の魔法使いであった。

「リョウさん、お久しぶりです」

「ケネス、こんにちは。あ、話は通っているはずなのですが……」

涼は笑顔を浮かべたままではあるが、気もそぞろに、部屋中央に鎮座したゴーレムの方ばかりを見ている。


それを見て、ケネスが笑いながら言う。

「ええ、内務省経由で、リョウさんの見学許可は下りていますよ。でもすごいですね、これの見学許可が下りるコネクションなんて」

「一週間後から、トワイライトランドに行く依頼を引き受ける代わりに、これを見せてもらうことになったのです。いや、そんなことより……」



そう言いながら、涼はずっとゴーレムを見たまま……少しずつ近づいて行き、ついに、触れた。



もちろん、触れたからと言って、何も起きない。

だが、インベリー公国の戦場で見て以来、ずっと恋い焦がれていたゴーレムに触れることができたのだ。


涼は感動に打ち震えていた。



涼が、ひとしきり、ペタペタと触りまくっている間に、一度退いたラデンが、ケネスと涼の分のコーヒーを持ってきた。


「リョウさん、コーヒーでもどうですか? ゴーレムは逃げませんよ」

「う、うん、逃げないのだけど……僕の時間が有限なので……」

「一週間でしたっけ? 実は、先ほど、とりあえずの分析が終わったんですよ。いくつかのデータの突合せをしなければならないのですが、その間、つまり一週間は、リョウさんが好きなように見ても大丈夫ですよ。もちろん、壊したりしたらダメですけどね」


ケネスは笑顔を浮かべながら、そんなことを言った。

その言葉が涼に届いた瞬間、涼の首が、ぐりんとケネスの方を向く。


「ほんとに??」

ケネスは笑顔から、少し苦笑いになりながら、答えた。

「ええ、本当です」


その後、涼はまるでテニス選手の様に、何度も小さくガッツポーズを繰り返しながら、コーヒーの元に移動したのだった。




コーヒーを片手にしながら、やはり涼の視線はゴーレムに固定したままである。

「さて、どうします? リョウさん、自分でいろいろ見た後で、僕の所見を聞きますか? それとも最初に聞いたうえで、いじくりまわします?」


「ああ……本当は、自分で見た後の方がいいのですが、今回時間が限られているので……出来れば、先にケネスの所見を聞きたいです」

涼は二秒ほど考えた後に、そう答えた。

「なるほど。確かにその方がいいかもですね」


ケネスは頷いて言った。



「まず、このゴーレムは、体内に、魔石を六個持っています」

「六個……。二個の連携ですら……」

「そう、二個を連携させるのですら、非常に困難ですね」

涼が思わず呟き、ケネスはそれを肯定した。



『錬金道具に魔石は一個』というのが、錬金術における常識なのである。



二つ以上の魔石があると、それぞれが反発し合ったり、あるいは熱暴走のような想定外の動きをしてしまい、錬金道具として役に立たないからだ。

もちろん、最上級クラスの錬金術師ともなれば、二個の魔石を連携させることも可能になるが、可能になるだけであって、決して簡単ではない。


「六個とは言っても、六個同時に励起させるわけではありません」


それを聞いて、ちょっとだけ安心した涼。

さすがに、六個の並列励起技術のゴーレムなど、一週間では全く分析できる気はしなかったからである。



ケネスは、ゴーレムの胸部を指さして言葉を続ける。

「胸部にある一回り大きめの風の魔石が、主動力源と言えます。そしてこの魔石は、常に励起しています。それ以外に、左右の腕に一個ずつ、脚に二個、そして頭部に一個。これらが、必要に応じて励起します」

「胸部が常時励起ということは、必ず二個は……」

「そうですね。魔法式を読み解いた限りでは、最大三個の並列励起が可能です」

「三個……」

二個の連携でも難しいというのに、三個とか……。

はっきり言って、現在の涼には理解できないレベルの錬金術と言える。


「すごいですね、それを作った人……」

涼は、製作者を素直に称賛した。


「ええ」

ケネスは大きく頷いて、続けた。


「これほどの錬金術、中央諸国でも扱える人物は少ないでしょう。そして、内部の魔法式を見て確信しました。これを製作したのは、フランク・デ・ヴェルデです」

「フランク・デ・ヴェルデ?」

「ええ。ナイトレイ王国魔法大学が誇った天才錬金術師。私が師と仰いだ方です」

ケネスは顔をしかめながら説明している。

「ケネスの師……。それは、もの凄そうです」

涼の語彙は、極端に少なくなっている。いろいろと圧倒されているから……。


「ええ、凄いです。私など足元にも及ばない天才です。彼と協力して、いくつもの錬金道具を製作しました。ですが、二年前、フランクは突然失踪したのです。現在まで、ようとして行方は知れなかったのですが……これを見る限り、連合にいるのでしょうね」


ケネスの表情は、悲しさと、寂しさと、若干の安堵とが入り混じったものになっていた。



(脚、四本なのに、脚の分の魔石が二個なのは何でだろう)

涼はそんな疑問がふと湧いたのだが、ケネスに問う前に、先に質問されてしまった。

「リョウさんは、このゴーレムが戦っているところを見たのですよね」

「うん。動きのスピードは、正直、人間ほどではなかったけど、防御力と突破力が凄かった」

先ほどから微妙に語彙が足りていない涼であるが、仕方ない。それが涼の限界である。


「防御力……を弾いたんですよね」

「え?」

ケネスが言った言葉を、一部涼は聞き取れなかった。

「ヴェイドラを弾いた……」

「あ、ああ……」

「あ、リョウさんは、ヴェイドラは知らないんでしたっけ? 見学許可証の中には、ヴェイドラまで見せてかまわないと……」

ケネスが、少し焦りながら言う。


「ああ、ヴェイドラ知ってる。あの、緑色の光の……魔法のやつだよね?」



文字としての『ヴェイドラ』は、ルン辺境伯からの報告書に書いてあったし、現象としての『ヴェイドラ』は戦場で見たのであるが、その二つが同一のものであることは、頭の中では、若干結び付いていなかった。



「それです。種類で言うと、『魔導兵器』という分類になるらしいです。でも、まさかインベリー公国で実用化されていたとは……」

ケネスの表情には、悔しさが(にじ)んでいた。

さもありなん。自分が設計し、製造もゴーサインさえ出ればできる物が、なぜか他国ですでに作られていたのだから。


「ケネスは、その情報がどこから洩れたかは……」

「ええ、聞きました。内務省からだったんですよね」


憤りよりも、すでに呆れ、という感じで、ケネスは小さく首を振りながら答えた。

この、錬金工房が、情報漏洩にかなり厳しく取り組んでいるにもかかわらず、所管官庁から洩れるのであれば、防ぎようがない。


もちろん、情報を取っていく側も、どこからなら漏れやすいかを理解している。

そこを集中的に狙うことによって、少ない支出で情報を得ることができる。

その手段は、どんな世界においても、今も昔も、ほとんど変わらない。



篭絡(ろうらく)か脅迫。



つまり、お金・異性をあてがうか、家族への攻撃を臭わせての隷属である。

今回の内務省からの流出は前者で、関わったものは平民だったこともあって、即刻死刑となったらしい。

貴族社会、恐るべし……。



「ヴェイドラの集束型すら弾くというのが……。ただ、いくら調べても、その原理がわからない。腕からは火属性の魔法か土属性の魔法しか出ないはずなんです。あるいは、主動力の風属性か……どちらにしろ、無属性での魔法障壁系統は使えません。その中で、ヴェイドラを弾くとしたら……確かに土壁ならあり得るのかもしれないけど、そんなものは発生していなかったらしいですし……」


「ああ……。あのプラズマは、火属性か風属性魔法ですかね」

涼が、その場面を頭に浮かべながら、なんとなく言う。



涼のラノベ的知識からは、『雷』と言えば風属性と勝手に思い込んでいたのだが、雷がプラズマであることを考えれば、必ずしも風とは言えないのだ。

火属性魔法でプラズマを発生させることは可能な気がするし……。

いや、そもそも、水属性魔法でもプラズマを発生させることが可能な気すらしている。

地球にいた頃、水プラズマによってアルミ缶を切断する動画を見たことがあるし……。



だが、ケネスは涼の呟きを聞くと、それに食いついた。



「リョウさん! わかるんですか?!」

「いや、あの……詳しくは説明する自信がないですけど……。なんというか、火属性の魔法か風属性の魔法で、超高温の……そう、小さな雷を発生させて、それによって空気の密度に変化が生じて……衝撃が伝わりにくくなるのです」

「えっと……?」


ケネスにも、説明は通じていなかった。

ケネスにも通じないのであれば、アベル辺りに通じないのは当然である。

全ては涼の責任であったらしい。



「そう、ヴェイドラって、風属性の魔法で、空気の振動が伝播していく兵器でしょう?」

「ええ、そうです! よくわかりましたね。最大の利点は、空気振動の伝播なので、本体への反動が全くないことなんです」

「で、ゴーレムの防御機構は、その空気の振動を妨害することができるのです」

「ああ……そういうことでしたか……。相性が最悪だ」

ケネスは理解し、そして苦笑しながら首を横に振った。


「本来の、このゴーレムの腕の使い方は、その雷で城壁とか城門を融かしたりして、破りやすくする機構なのかもしれませんけど、それを防御に応用したんですね。もしかしたら、設計者は、最初からヴェイドラの迎撃を想定していたのかなぁと、あれを見た時に思いました」

涼は、戦場でゴーレムが、ヴェイドラの緑色の光を弾いた場面を思い浮かべながら答えた。


「なるほど。ゴーレムの設計者がフランクなら、それはあり得る話です。フランクは失踪直前まで、この工房で一緒に錬金術の開発をしていましたから」

ケネスは、少しだけ寂しそうな表情になって、そう言った。




涼はコーヒーを飲み干してから、ケネスに尋ねた。

「ケネス、僕には常々疑問に思っていたことがあります」

「ん? 改まって、なんですか?」

ケネスは、まだゆっくりとコーヒーカップをくゆらせている。



「錬金道具に書かれている魔法式なのですが、なんというか……バラバラな気がするのです」



極端な話、魔石と魔法式で、錬金道具は成り立っているといっても過言ではない。



錬金術の入口として、ポーションの作成などを行ってきたが、その際には『魔法式』を使うことは、ほぼない。

せいぜい、『魔法陣』の書かれた紙や布の上で、『魔法合成』などを行ってポーションを生成したりするくらいである。

あるいは、本に載っている魔法式を魔石に書き込んで、簡単な魔法現象を発生させたり……せいぜいその程度だ。



だが、錬金道具を作成する段階になると、この『魔法式』は避けては通れなくなる。


購入した錬金術関連の本や、図書館にある錬金術関連の本に、多くの魔法式の例文が載っており、それを利用することは出来るようになったが、最終的にゴーレムを動かすことを目指す涼としては、それでは全く足りない。


そこで、様々な錬金道具に記された魔法式を見た。見て学ぼうと。

『ハサン』の黒ノートにあるものはもちろん、王都騒乱前後に、ここ錬金工房でケネスに教えてもらったもの、あるいはゲッコー商会などで見せてもらう錬金道具に書かれた魔法式。


だが、共通するもの、共通する部分、似たような構文……らしきものもあることはあるのだが、全く違うものも多い。



なぜ?



「ああ、それはおそらく、魔法式は、書く人によって別々の物だからです」

「はい?」

「つまり、百人いれば、百通りの魔法式が存在する、という感じです」

「なんですと……」

涼は理解が追い付いていないが、なんとなく、とんでもないことを言われたことは理解した。



「昔、ある錬金術師が言った言葉があります。曰く『魔法式を書くことは、言語を一つ作り上げることと同義である』」



現代地球には、様々な言語が存在した。

この『ファイ』にもあるらしいが、中央諸国は、比較的同じ言語体系である。せいぜい、方言の違い程度。

東方諸国は、中央諸国とは全く言語体系が違うらしい。


言語というものは、似た物もあるが、全く違う物もある……そして、魔法式は、人によって違う……?


「それは困る」

「そう言われましても……」

涼は切実な表情で気持ちを表し、それを聞いたケネスは苦笑しながら答える。


「商会などで売っている錬金道具くらいであれば、有名な魔法式が出回っていたり、書籍に掲載してあったりするので、被っていたりしますけど……リョウさんが目指すのは、そういうところじゃないですよね?」

「うん。僕は、自分でゴーレムを作りたいからね!」

「そういえば、そう言ってましたね……」



王都騒乱の時、ケネスは涼が目指す場所を聞いたのだ。

その、壮大な目標を聞いても、ケネスは笑ったりはしなかった。

それどころか、応援してくれたのである。



「今回、リョウさんは、ゴーレムに関する一切の情報を閲覧する権限を与えられていますので、この工房が保管する、人工ゴーレムに関する情報も見ることができます」

「そ、そんなものが……」

ケネスの言葉に、目を爛々(らんらん)とさせる涼。


「以前、フランクがいた頃に残して行った資料なので、それこそ、このゴーレムの基礎技術みたいなものです。王都騒乱の時は、リョウさんはその閲覧権限を持っていなかったので見せられませんでしたが、今回は大丈夫です。後で、お見せしましょう」

「おぉ、ケネス、ありがとう」

涼はそういうと、ケネスの両手を握って、泣きださんばかりの表情になるのであった。




「そう、魔法式なんですが、人それぞれとは言っても、何でもいいというわけではありません。適当に書いたって魔法現象は発現しませんからね」

「ですよね。『言語を一つ作り上げる』って言ってましたよね……なんですか、それは」

現代地球において、言語を一つ作り上げるのを想像してみると……うん、想像できない。



「まず、普通にリョウさんが使っている『魔法』と『錬金術』の違いから考えてみましょう。どちらも、『魔法現象』、つまり土の壁を生成したり、水を生み出したりという点は同じです。そこはいいですね?」

「はい、大丈夫です」

涼は、生徒口調で、自信をもって頷いた。

気分は、得意科目の授業を受ける学生である。


「魔法は『音』、錬金術は『文字』によって、魔法現象を生み出します。魔法は詠唱を行いますね。その『音』が魔法現象を引き起こしますが、錬金術の場合は、文字の並びが魔法現象を引き起こすと言われています。ですので、錬金術師は、魔法現象を引き起こす文字の並びを探し出さなければなりません」

「なんと……」


涼は絶句した。


それは普通に考えて大変な作業である。

何千何万というトライアンドエラーを繰り返して、魔法現象を引き起こす文字の並びを見つける……?



日本という『言霊(ことだま)の国』で生まれ育った涼としては、言葉が魔法現象を引き起こすという説明そのものは、理解しやすいものだ。


『音』が現象を引き起こす例としては、『祝詞(のりと)』などがその最たる例だろう。

読み上げる際は、絶対に間違わないようにする必要がある……。

また、『文字』が現象を引き起こす例としては、様々なモノを封じる『お札』などが分かりやすい例だろう。

そこに書かれた文字列が力を持っているのだ……。


そんな文化がすぐ周りにあった涼にとっては、分かりやすい説明でもあった。



だが……何千何万のトライアンドエラーは……。


そこまで考えて、ふと涼の頭に、別の何かが閃いた。

「『すでに見つかっている文字の並び』を使ったり、一部改変したりして使ってもいいんですよね?」

「ええ、もちろんです」

涼が尋ねると、ケネスはにっこり笑って答えた。


生徒リョウは、先生が望んでいる答えを見つけたらしい。


そう、本に載っていたり、錬金道具に使われていたり、あるいはケネスやフランクが使っている『文字の並び』を使ってもいいのだ。

少なくとも、錬金術に著作権は無い!

本は……やろうとしたらセーラに怒られた覚えがあるが……。



プログラミング初心者がよくやる方法なのである。

元々あるプログラムを流用して、必要な個所を変える。

昔、涼はそんな方法も教えてもらったことがあった……。


何がどこで役に立つか、本当にわからないものだ。


だが、いろんな人のを組み合わせればいい……とばかりは言えない。

かち合って、誤作動を起こしてしまう場合もあるから……簡単にはいかなそうではあるが、少なくとも、涼の見据える未来には、小さな光は灯っていた。


涼は、魔法の発動を無詠唱で行えます。ケネスの説明の「魔法は詠唱を行いますね。その『音』が魔法現象を引き起こします」の部分は、一般的な中央諸国での理解です。

その辺りについては、この「第十一章 トワイライトランド」の終盤でいくつか明らかになりますので、今しばらくお待ちください。

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