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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第十章 インベリー公国再び
198/930

0184 <<幕間>>

そこは、『書斎』と呼ばれていた。

この建物の主、ただ一人だけのための図書館……一般的には、その認識が、最も事実に近いであろう。


広大な空間に、膨大な数の本が揃えられていた。


『主』は、今日もその中の一つを読みふけっている。

主は、ある香りをかぎ取ると、頭を上げた。

そこには、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、そして恋のように甘い……あの飲み物が置かれるところであった。


「ああ、ありがとう」

主はそう言うと、淹れたてのコーヒーに手を伸ばし、その香りを楽しむ。


「ご主人様、ドラス様がご報告をしたいとのことですが」

コーヒーを淹れた執事が、報告者が待合室にいることを告げる。

「そうか。お通しして」

主は一つ頷くと、報告者を通すことを許可した。



「報告は二点ございます。一点目、インベリー公の亡命が、デブヒ帝国より発表されました。二点目、ハスキル伯爵の消滅に関して、関わった人物たちが判明いたしました」

「二点目を」

「はい。ハスキル伯爵カリニコスが消滅した場所は、ナイトレイ王国南部、王家直轄領と判明いたしました。消滅した際、その場にいた人物は、ルン冒険者ギルドマスター ヒュー・マクグラス、D級パーティー四人。それと、勇者ローマンとそのパーティーにございます」


その報告を受けて、主は少しだけ首を傾げて問いかけた。


「マスター・マクグラスだけではなくて、勇者ローマン? それはなんとも豪華なメンツだね。偶然いたとは思えないけど?」

「はい。その時、勇者パーティーが、ルンの街に逗留しており、マスター・マクグラスと共にコナ村に現れたのだそうです」

「そう。コナ村の近くだったんだ」



そういうと、主は手元のコーヒーを愛しそうに見た。

今飲んでいるのが、そのコナコーヒーである。

ブルーマウンテンも良いが、コナも良い。



「勇者の聖剣アスタルトなら、カリニコスを消滅させることも可能なのかな? それに、マスター・マクグラスの剣は、確か、聖剣ガラハット。再生能力を封じる剣か……。どちらにしても、尋常な相手ではない。カリニコス一人では荷が勝ちすぎたかも」

主は、特に何の表情も浮かべずにひとりごちた。


「はい。ただ、勇者パーティーの聖職者が……」

報告者は、そこで初めて言い淀んだ。

「うん? そう言えば、勇者パーティーには、必ず聖職者が入るんだったね。今は誰が?」

「はい。今は、大司教グラハムです」


そう言うと、報告者は悔しさから奥歯を噛みしめた。


「大司教グラハム? そうか、異端審問庁長官が……。それはまた、豪勢だね」

それだけ言うと、主は少しだけ微笑んだ。

だがその微笑みは、僅かに悲しみをたたえた笑みであった。


ハスキル伯爵カリニコスがグラハムに対して浮かべた憤怒ではなく、報告者が奥歯を噛みしめた悔しさでもなく、ただ、悲しみであった。



「グラハム……不憫なやつ……」

主の言葉は誰にも届かず、宙に消えた。


次章のための幕間です。

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