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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第十章 インベリー公国再び
192/930

0178 電磁アークによる衝撃波減衰の方法とシステム

「どれくらいやられた?」

オーブリー卿は、確認をする。

「二千人前後です……」

「チッ」

さすがにこの時ばかりは、舌打ちを禁じ得なかった。


このインベリー遠征において、最大死者数を出したのは公都攻略での、ヴェイドラもどきによる一掃であった……だがあれでも、犠牲になったのはせいぜい数十人である。

それを考えると、死者数が激増していた。

「それもこれも……恐怖に駆られてヴェイドラもどきを撃つ可能性を低く見積もった、私のせいか……」


確かに、これによって、公国騎士団長スタンリーも巻き込まれて死亡が確認されているし、公国軍精鋭と呼べる兵士は壊滅したらしいという報告は来ている。

それでも、連合が、多くの犠牲を出したことに変わりはない。


オーブリー卿は、大きく、深い、本当に深いため息をついた……。



オーブリー卿の沈黙は、周りの者にとって幸せなものではない。

とはいえ、誰かが口火を切るには、無謀な雰囲気である。


それを打ち破れるのは……、

「閣下、ランバー、ただいま戻りました」

自他ともに認めるオーブリー卿の右腕、補佐官ランバーであろう。


「うむ。ご苦労」

オーブリー卿は頷く。


「これは、手酷くやられたのぉ」

ランバーの後ろから入って来て、遠慮のない感想を言ったのは、ドクター・フランク。

ランバーは、公都に、ドクター・フランクと残りの人工ゴーレムを迎えに行っていたのだ。



「予定よりも早く事が進んでな。ゴーレムも、初号機は囮に使い、二号機は本陣の守りに使った。時間稼ぎにはなったぞ。二号機は壊れていない。とはいえ……いろいろあったのだ、ドクター」


すでに冷静さを取り戻していたオーブリー卿は、ドクター・フランクの感想に、気分を害するようなことは無かった。

手酷くやられたのは事実である。

公国軍精鋭は壊滅させたが、自軍司令部には奇襲を受け、街への強襲部隊も多数の死者を出した。

その事実を、オーブリー卿は既に受け入れていた。


「二号機は……部品が揃っていたから一機だけ先に送ったやつか。役に立ったのなら重畳(ちょうじょう)

公都攻略で酷使した二十機は、本来このタイミングで来るはずのものであったが、初号機以外に一機だけ、早く送り出せたのである。

それが、涼やランデンビアらを手こずらせた一機であった。



「策を弄しすぎた。大軍と強力な兵器を前面に押し立てて、粛々と攻略を進めることにする」

「それでこそ、ゴーレムを連れてきたかいがあるというものだ」

オーブリー卿の宣言に、ニヤリと笑うドクター・フランク。

フィオン攻略戦は、最終局面に向かって、進み始めた。




連合軍司令部の強襲から撤収した、王国冒険者南部軍の一行は、隘路北側平野の脇にある森の中に隠れ潜んでいた。


C級冒険者以上の精鋭ばかりとは言え、八人の死者が出ていた。

重傷者も数名いたが、リーヒャを筆頭とする神官たちによって、全員一命をとりとめている。

だが、南部軍の神官たちは、全員、体力も限界近くとなっていた。

魔力こそ、涼特製魔力ポーションや、市販の魔力ポーションによって回復していたが、光属性魔法行使による体力の消耗は、ポーションではどうにもならない。

疲労感の重いもの、と言えば想像がつくであろうか。


時間を掛けて休むのが、もっとも良い回復方法である。



そんな南部軍の元に、ようやく東部、北部、西部そして王都のある中央部の冒険者たちが、罠を突破して合流する。


ヒューの報告によって、彼らは出遅れてしまったことを知り、口惜しそうな表情を見せた。

唯一、表情を変えないのはグランドマスター、フィンレー・フォーサイスだけである。

「わかった。ご苦労」

ヒューが報告を終えた後に、フィンレーが言ったのは、ただそれだけであった。


これにはヒューも驚いた。


独断専行を責められたり、奇襲の失敗に難癖をつけられる可能性も考慮していたのだから。だが、それらに関しては、フィンレーは全く触れなかったのだ。

評価が変わったのか?

期待しなかったといえば嘘になるであろう。


だが……。


先鋒が東部と中央部、次鋒が北部と西部、後詰めに南部……新たな編成はそうなった。

結局、何も変わらなかった。



少しだけ落胆したヒュー。

だが、南部軍一行の休憩場所に戻って、認識違いをしていたのかもしれないと思った。

リーヒャら神官たちを筆頭に、奇襲で溜まった疲労は、全く抜けきっていなかったからである。

この状態で、先鋒を任されていたりしたら、大変なことになったかもしれない。

ヒューはそう感じた。


疲れを感じさせないのは、ほんの一握りの冒険者だけ……。


「疲れるほどには働くな。父は部下たちに、よくそう言ってました」

全く疲労を感じさせない唯一の魔法使い……水属性の魔法使いが、これまた疲労を感じさせないB級冒険者の剣士に何やら説明をしている。

「疲れればミスをする。だから、疲れさせないように部下を動かすのが、マネジメントだと」

「まねじ……何?」

「まあ、部下の動かし方です」



そんな、涼とアベルの会話が、ヒューの耳元に聞こえてきた。

(その基準で言うと、俺はダメダメだな。こんなに部下を疲れさせている)

ヒューは苦笑しながらそう思った。


決して部下のためではない。

部下を動かす立場の人間として、疲れさせないように動かさねばならない。

問題解決を指揮する立場の人間が、問題をスムーズに解決するために、部下を疲れさせないようにするのだ。

疲れればミスをする。ミスをすれば、リカバリーに余計な時間と手間と資材がかさむ。


そこでマネジメントだ。


「で……なぜ、それを俺に向かって言うんだ?」

アベルが涼に問う。

「アベルが、王の息子などと僭称しているからですよ。国王になったら、多くの部下を持つでしょう? その時に活かしてください。まあ、なれればですけどね!」

「俺が王子だってこと、全然信じてないだろ。それに、次男だから騎士団とかだぞ……」

「ブラック企業ならぬ、ブラックナイト……黒騎士? ちょっとカッコいいですね」


涼は、何やら悦に入っていた。そして続けた。

「まあ、疲労とか考えると、疲れを感じないゴーレムと言うのは、最高の部下ですよね」

それが涼の結論であった。




未だ疲労が抜けない南部軍一行の下に、グランドマスターからの伝令が来たのは、十五分後。

「伝令です。敵に動きあり。南部軍には、後方の警戒を頼む、とのことです」

「了解した。つまり、動くなと」

ヒューは手をひらひらさせて伝令役の冒険者を追い払うと、どっかと草の上に座り込んだ。



そんなヒューの耳に、魔法使いと剣士の会話が聞こえてくる。

「ここだと、前線の様子が全く見えないですよね。あの、狭くなってるところの崖の上、あの辺に上がればいろいろ見えると思うんです」

「いや、ダメだろ。あそこは……ん? 登ってくるのは、ほぼ無理だろうが、いざという時に降りていくのは……いけるか?」

涼が、隘路を形成する崖の上から状況を見たいと言い、アベルが一度は訂正しつつも、それもありかと言っている。


(ふむ。確かにそれも悪くない)

後方で動くなと言われたものの、ヒューも、この後の推移が気になってはいた。

大軍を崖の上に置くのは難しいだろうが、精鋭たるC級冒険者以上であれば、いけそうである。


連合軍が、再度フィオンの街に攻撃を仕掛けて、主力部隊が街に攻めかかるなら、もう一度オーブリー卿を奇襲できるのではないか……。

オーブリー卿が、そんなへまを二度もするとは思えないと理解しつつも、もしかしたらという可能性を、ヒューは捨てきれない。


もしそうであるのなら、全体の戦況を把握しなければならない。

そのためには、ここでは無理だ。


涼とアベルが話し合っている、隘路の崖上なら、確かに戦場が一望できる……しかも、いざとなれば崖を降りて隘路に、あるいは隘路の北側や南側に現れることも可能である。

(命じられたのは、あくまで『後方の警戒』。隘路の上からなら、後方も警戒できるな。まあ、詭弁だが、強弁もできる。あとは、そんな重要な地点を、オーブリー卿が無防備なまま捨て置くとは思えないという点だけか)




「歩哨は五人ですね」

涼が<パッシブソナー>で探った情報をヒューに報告する。

「よし。手筈通りに無力化しろ」

ヒューが命令を下すと、『スイッチバック』の斥候スーら五人が森に消え、一分後、鳥の鳴き声が聞こえてきた。


成功の合図。


ヒューとアベルを先頭に進むと、連合軍の歩哨五人が倒され、猿ぐつわを噛まされ、ロープもまかれて無力化していた。

殺してはいないらしい。

「よくやった」

ヒューが褒めると、斥候五人は嬉しそうに頷いた。


普段は、全く別々のパーティーである。

そもそも『斥候職』の人間はパーティーに一人だけであるから。

同職の人間と、こうして共同作業をすることなど滅多にないため、この五人は遠征中に非常に仲良くなっていた。

スーが男性斥候と仲良く喋っているのを、横目でチラチラと『スイッチバック』の剣士ラーが見ていたのは内緒である。


それは決して嫉妬ではない。そう、ちょっと心配しただけである。引き抜かれたりしないかどうかを! 

個人的な感情ではなく、パーティーのためを思ってのことなのだ!




「やっぱり、ここからなら良く見えますね」

隘路の崖上は、かなり際まで森がせり出しており、森の中に潜んだ状態から、戦場一帯が見渡せる。

しかも、森の中に潜んでいれば、崖下や戦場からは恐らく見えないであろう。



眼下では、隘路を進んだ連合軍が、フィオンの街のある盆地へと進攻しようとしていた。


「先頭を進む奴ら、やたらとガタイがいい……って四本脚? 人間じゃねえのか!」

ヒューが、連合軍の先頭を進む『奴ら』を見て、驚いた。


「はい。あれが、連合軍のゴーレムです」

なぜか、涼がしたり顔で説明する。

その顔は、「ね? 実際に見たら欲しくなるでしょ?」と言っているかのようである。


「いくら欲しくても、ダメだ」

その顔を見て、ヒューは再び断言した。

「くっ……」

悔しそうな顔をして、涼はウソ泣きで、涙を拭うふりをしている。

それを横目に、アベルは呆れた様子で首を何度も横に振った。



「ゴーレムを最前列にずらりと並べて、そのまま近付いて行ってます」

「強引だな」

「完全な力圧しで来られると、公国からすれば付け入る隙がない」

涼、アベル、ヒューそれぞれの意見である。


三人は、並行追撃による攻略の光景を見ていないため、名将とすら呼ばれるオーブリー卿が、力任せの用兵をしているように見えて、意外だったのだ。

そして彼らは、フィオンの街に設置された秘密兵器も、もちろん知らない。



瞬間、フィオンの街の尖塔から、強い緑色の光が奔った。



一条の光は、戦場を左から右へと薙ぎ払う。

本来、その閃光は、一撃で数千の命を奪い取る死神の鎌。


だが、死神の鎌は、イージスの盾によって防がれた。

尖塔から光が迸る瞬間、前方にかざしたゴーレムたちの手の中に、白い光が生じる。

次の瞬間、薙ぎ払われた緑色の閃光は、ゴーレムたちの前で弾け飛んだ。

「何だあれは……」

ヒューの口から洩れた言葉は、崖上から見ていた者たち全員の心を代弁したものでもあった。



一人だけ、片方については、ほぼ理解していた者がいた。

「魔導兵器……だが……」

アベルである。


王都騒乱後、アベルは兄である王太子に呼び出され、いくつかの国家機密について情報共有とレクチャーを受けていた。

その中に、王立錬金工房が開発中の魔導兵器『ヴェイドラ』についての資料もあった。

開発主任が、旧知のケネス・ヘイワード男爵であったために、特に印象に残っていた。


だが、現在は、内務省管轄であり、資金難のために開発が滞っているということも知らされており、ヴェイドラに使う風の魔石が、アベルと涼が売り払った魔石であることも知っていた。

冷や汗をかきながら、アベルがレクチャーを受けていたのは言うまでもない。



だからこそ、目の前で起きていることの異常性に気付いていたのだ。


ヴェイドラは、いわば『王国の』秘密兵器。

それと同じと思われる原理で、同じような風属性の攻撃を行う魔導兵器が、『公国にある』という異常性に。



「あれは、錬金術によって練り上げられた武器による、風属性の攻撃ですよね」

涼が、アベルの向こう側にいる風属性の魔法使いリンに確認する。


風属性の魔法使いであれば、それが錬金道具から発したものであっても、なんとなく感じ取れるのである。

「ええ、そうね。どんな術式かは分からないけど……」

リンは眉をひそめて、そして二度頷いて答えた。

「なるほど……」

涼も眉をひそめて、そして一度だけ頷いた。



「あれ、とんでもない攻撃だぞ」

いつの間にか近くに来ていた『スイッチバック』の剣士ラーが言った。

「俺らが奇襲している裏で、あの薙ぎ払いの一撃によって、数千人の兵士が死んだからな」

「な……」

ラーは、インベリー公ロリスの命令による非情なグリーンストームの一撃を見たのだ。

それを聞いて、絶句したのは涼だけではなく、その場にいた全員であった。



「いやいや、だったら、それをくらってもなんともないゴーレムたちは、いったいどうなっているのよ」

リンが、問題提起をする。

そんなとんでもない一撃を、ゴーレムたちは防いだのだ。

「確かにな」

ヒューは頷いて、再び戦場に視線を戻した。


彼らが話している間にも、連合軍は、一糸乱れぬ進軍を続けている。


そして再び、フィオンの街の尖塔から緑の光が奔った。

今度は薙ぎ払うのではなく、中央のゴーレム一体だけへの集束した一撃。

だが、これも、ゴーレムの手の中で激しい光が生じ、ゴーレムの前に目に見えない何かが生じて、緑の光はゴーレム本体まで届かなかった。


「衝撃波……」


涼の呟きは、自覚しているよりもはるかに大きかったらしく、ヒューとアベルだけではなく、リン、リーヒャにラーまでも涼を見た。

「リョウ、わかるのか?」

ヒューが代表して聞く。



涼が頭に浮かべていたのは、海中にいるテッポウエビであった。

そう、テッポウエビのでっかい版に、プラズマからの衝撃波をくらわされ、涼が海中で気を失うという失態を演じた、あれである。


テッポウエビは、地球の日本近海にも生息し、大きく成長したハサミを噛み合わせることによって、気泡ができ、その気泡が破裂する際に衝撃波が発生する。

気泡圧壊やキャビテーションと呼ばれる現象。

テッポウエビの場合、プラズマが発生し、4400℃もの高温が生じる。

その衝撃波によって、テッポウエビは狩りをしたり、コミュニケーションをとったり……珊瑚に穴を掘ったりする種もいる。


人間でも、水中での溶接作業では、プラズマアーク溶接という手法がとられるが、これにとって代わるのに、テッポウエビのプラズマはどうか、という研究が地球ではなされていた。


だが、目の前で起きているのは『水中』ではなく『地上』である。

そう、テッポウエビの気泡圧壊は、空気中では効果的ではない……水の中で生きる生物なのだから当然だ。


では、今回のは何か?

これもやはり『プラズマ』であることに変わりはない。

先ほど『プラズマアーク溶接』という言葉が出てきたが、今回のはその系統なのだ。



『Method and system for shockwave attenuation via electromagnetic arc』(電磁アークによる衝撃波減衰の方法とシステム)



アメリカの某巨大飛行機メーカーが取得した特許だ。

銀河の光剣使い騎士物語などに出てきそうな特許ということで、一部マニアにはよく知られた特許で……涼も、その一部に入る。


これは、爆発の衝撃波から人や車を守る技術である。

アーク放電などでプラズマを発生させることにより、その部分は温度や空気の密度に変化が生じ、衝撃波が伝わりにくくなる。

それによって、爆発の衝撃波から守る、そういう技術なのだ。


おそらく、目の前のゴーレムたちが行ったのは、そういうことなのではないかと涼は感じていた。

だが、それをどうやって伝えればいいのか……。



「ゴーレムの手の中に生じさせた小さな雷、あれで空気を歪めて風魔法が伝わらないようにしたのでしょう」

嘘はついていないし、間違いと断定するのも難しい……もちろん、全然言葉も説明も足りていないのだが……。


「なるほど」

ヒュー、アベル、ラーといった男性陣は重々しく頷いた。

決して、男性陣が論理的に理解した、というわけではない。

プライドから、わかったふりをしただけだ。


そして、そんな安っぽいプライドを、リンとリーヒャは完璧に理解していた。

ただ、何も言わず、男性陣を憐れそうな目で見ただけであった。




最前列のゴーレム約十五体。

その後ろに、連合軍の隊列が続く。

グリーンストームが、ゴーレムを避けて、その後ろの隊列を狙う。

だがそれすらも、ゴーレムは上空に『電磁アーク』を発生させて、グリーンストームの攻撃を防ぐ。



「街からのあの攻撃は、完全に封じられたな」

ヒューが言うと、リーヒャとリンが頷いた。


「ギルマス、どうする?」

「どうする、とは?」

アベルが問い、ヒューが問い返す。

質問の意図が漠然とし過ぎていて、ヒューにも読めなかったからだ。


「間違いなく、フィオンの街は落ちる。そうなれば、インベリー公とその家族は脱出するんじゃないか?」

「ああ、脱出するだろうな。公国の再興を期してな」


インベリー公ロリスには、二人の娘がいるだけで、男児がいない。

その二人の娘も、まだ年端もいかない年齢だったはずであるため、ロリス自身が生き残って旗頭となるしかない。

潔く、国と共に亡ぶわけにはいかないであろう。

それがヒューの見立てであった。



「そうであるなら、どこから脱出し、さらにあの盆地からどう抜け出すのか……」

いつの間にかヒューの後ろに来ていた、アクレのギルドマスター、ランデンビアが言葉を続けた。


「街からの脱出は……おそらく抜け道が準備されているとは思う。問題は、この盆地からどう抜け出すか……。そして、抜け出した後、どこへ向かうのか」

「それは、王国じゃないのか?」

ヒューの言葉に、剣士ラーが疑問を呈す。


「確かに、それが一番現実的だ。だが、王国が彼らを受け入れるかどうか……。そして、決定までに時間がかかりそうな気もする。そうなると、彼らとその家族をかくまう場所が必要になる、いろんなものからな」

「やはり、いっそ、オーブリー卿に今一度の奇襲を……」

剣士ラーが最も過激な提案をするが、ヒューはゆっくりと首を横に振った。


「オーブリー卿は、フィオンの街に進軍する、あの部隊の中にいる」

「マジか……」


総大将が、本陣ごと、先鋒として進軍している。


常識では考えられないことであるが、戦場を渡り歩いてきたオーブリー卿にとっては、むしろ居心地のいい場所なのかもしれない。




時を遡ること数十分。

連合軍本陣。

「閣下。崖上からの定時連絡が途絶えているとのことです」

ランバーがオーブリー卿に報告した。


崖上からは、陽の光を鏡で反射して本陣の報告官に照射するという、簡易的な連絡手段が執られていた。

だが、十分ごとのその連絡が、二度にわたって行われていないと。

間違いなく、崖上で何かが起きたのであろう。



「王国の冒険者にやられたのだろうな」

だが、報告を受けたオーブリー卿は、非常に落ち着いていた。

それどころか、報告を受けて少しだけ安堵したようにすら見えた。

「閣下。いかがいたしましょうか」

「捨て置け。何もしなくていい」

「は?」

オーブリー卿の指示は、さすがのランバーにも意外であった。


「望むべくは、占拠した王国冒険者が、マスター・マクグラスたちであれば、なお良いのだが……。まあ、それはどうしようもないか」

オーブリー卿が望んだとおり、占拠したのはマスター・マクグラスたち南部軍なのであるが、そこまでは報告から読み取ることは出来ない。



「閣下……どういうことでしょう?」

「なに、たいしたことじゃない。厄介な敵は、どこにいるかわからないよりは、こちらが把握している場所にいてくれた方がいいというだけだ。森の中のどこかにいるよりは、気をつけねばならないが崖の上にいる、と分かっていた方がいろいろ考えやすいだろう?」


ゲリラ戦を展開する部隊は、どこにいるかわからないから、迎え撃つ方にとっては厄介なのである。

だが、ゲリラ部隊が、どこかの村を占拠してそこに居座ってくれれば、『いつ、どこで襲われるか分からない恐怖』からは解放される。

そういう話だ。



「あとは、襲われないように、私自身も進軍するとしよう」

オーブリー卿は笑いながらそう言うと、本陣ごと、最前線へと身を投じたのであった。


ようやく、『0019』話のテッポウエビの伏線を回収できました。

そして、また長くなってしまいました……軽く8000字越え……すいません。

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