表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第一章 スローライフ(?)
19/930

0018 アブレシブジェット

次の日。

午前中の走り込み訓練中も、涼は最適解の発見を行っていた。

「昨日も思ったんだけど、この分子レベルでの魔法制御って、ものすごく魔力を使っている気がする」

大抵のものがそうだが、細かい作業は神経を使う。

魔力の操作も、細かい操作は簡単ではないようだ。



五時間以上走り続け、ようやく午前中の訓練は終了した。

だが、未だに研磨材としての、微小氷結晶の大きさの、最適解は見つからない。

現在のところ出ているのは、分子六万個から十六万個の間、という辺りだ。

だが、わずか午前中の魔力操作で、涼の魔力は尽きる一歩手前にまで減っていた。

数値で表されるわけではないのだが、なんとなく「もうすぐ倒れる」という感覚が身に付いてきた……。


「午後はこの魔力操作はやめておこう。よし、素振りと読書だな」

身体を動かさないと気持ちが悪くなってしまった涼……ほぼ脳筋だ。

ゆっくり、一振り一振り、全身全霊で打ち込む。

基本的にスローライフなのだから……何も焦る必要はない。



ミカエル(仮名)が家に準備してくれた『魔物大全 初級編』は、かなり多くの魔物を網羅している。

もちろん『初級編』なので、ここに載っていない中級や上級の魔物がいるのだろうが、今のところ涼はそういうものには出会っていない。

ただ、この『魔物大全 初級編』は、最後の二ページに付録ともいうべきか『特級編』というページがあり、二つの魔物が載せられている。


一つは『ドラゴン』。

もう一つは『悪魔』。

この二種類の『特級編』だけは、それまでの『初級編』の筆跡とは違う。もしかしたら、ここだけミカエル(仮名)あたりが追加したのかもしれない。


ドラゴン:ファイにおける生物の頂点の一つ

出没地点:世界中

寿命:数千年から数十万年

強さ:ピンからキリまで(キリの方であっても、単体で都市一つを消し飛ばすことなど朝飯前)

備考:出会ったら逃げること 逃げられない可能性は高いが


(うん、すごく強い、というのは伝わった。出会ったら終わりなんだね。『初級編』の魔物の場合は、攻撃方法とか得意技、みたいなのが書いてあるのにドラゴンには書いていない。そんなレベルの話じゃない、ということだよね、きっと)



悪魔:天使が堕天したもの……ではない。どこから来たのか、不明

出没地点:世界中

寿命:不明

強さ:ピンからキリまで(キリの方であっても、単体で都市一つを消し飛ばすことなど朝飯前)

備考:出会わないことを祈る


(多分書いたのミカエル(仮名)だよね……この世界とかの『管理』がお仕事って言ってたよね……それなのに「どこから来たのか、不明」ってどういうこと? それに最後の「出会わないことを祈る」って……なに?)


「世界最強を目指している人とか、こういうのと戦ったりするのかなぁ。凄く大変そう。うん、僕には絶対無理だね。異世界転生ものだと世界最強とか目指すのが定番だけど、定番は定番、それはこっちに置いておいて、僕には関係ない。目指すのはスローライフだしね!」




一晩寝たら、涼の魔力は回復した。

今日こそは、アブレシブジェット問題にけりをつける。

そう、心に硬く誓った。


誓った一時間後……、

「最適解は九万個から十万個!」

ついに解けた。


「ふふふ、勝った」

そう、涼は勝利したのだ。


あとは、この九万個の水分子が結合した氷の結晶を、大量に生成するだけ!

本来は、これすらも難しいのだ。

だが涼は、自覚は無いのであるが、この分子操作によって、かなり魔法制御の習熟が上がった。

ほんの十秒程度で、左手に山盛りの氷の研磨材を生成したのである。


頭の中でイメージを浮かべる。

左手にある研磨材を少しずつウォータージェットの中に混ぜながら、岩を切断していくイメージを。

「<アブレシブジェット>」

涼が唱えると、伸ばした右手から、細い水の線が一メートル先の岩に当たりほとんど抵抗なく反対側に抜ける。腕を横に一閃。


カラン


岩が切断された。

「成功!」

ついに、岩をも断つ水の剣を、涼は手に入れたのであった。



地球であれば、氷の研磨材にここまでの切断力は無い。

その理由は、『氷が軟い』というのが理由だ。

ガーネットが研磨材として優秀なのは、その『硬さ』にある。

かつて、ガーネットや氷、あるいはクルミの殻などを研磨材として利用できないかという研究をした日本人がいた……まだアブレシブジェットが商品化されたばかりの頃に。

結論として、ガーネット以外は実用に耐えない、というものであった。

その後も、いくつかの実験と論文が出され、研磨材の大きさ、接触部で起きている現象、様々な部品の最適硬度など、いくつもの検証が行われて、現在でも日々進化している機械、それがウォータージェットでありアブレシブジェットなのだ。


だが、涼は「魔法によって氷を凄く硬くする」という地球の研究者たちが絶対にできないアプローチによって、氷を研磨材として十分実用可能な材料に昇華させたのだ。

魔法が存在する、この『ファイ』ならではと言えるだろう。


魔法によって、地球では不可能であったことが色々と可能になる。

地球で、理論上は可能であったが実現はまだまだ不可能、そういう状態にあったものが魔法を使うことによって可能になる……そういう可能性を涼は示したのだ。

もちろん、本人にその自覚はまったくないのだが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ