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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第九章 コナ村
174/930

0163 <<幕間>> 十号室の冒険 上

本日は二話投稿です。

0163:12時

0163-2:21時

南部最大の街アクレ。

『十号室』の三人は、ルン冒険者ギルドの指名依頼で、この街に来ていた。

まだD級に上がって日も経っていないパーティーに、指名依頼が来ると言うのはかなり希なのだ。

もちろん、指名依頼は、普通の依頼に比べれば報酬も高いし、ギルドへの貢献度も高くなる。最低でも、指名依頼一つ成功で、普通の依頼二つ成功と同等ポイントになると聞けば、気合も入るというものだ。



三人はアクレの街に着くと、真っ先にアクレ冒険者ギルドに向かった。

簡単な依頼内容はルンで説明されたが、詳細な説明がアクレで行われると言われたからである。

到着していきなり「移動して」と言われる可能性も否定できない以上、宿をとる前にまずギルド、は依頼中の冒険者としては常識。


世界には、常識を知らない水属性の魔法使いもいたりするが、十号室の三人は、それなりに依頼をこなしてきて、それなりに慣れてきていた。

社会に出るとわかる、常識の大切さ……。



ギルドの受付で、ルン冒険者ギルドからの紹介状と冒険者カードを示すと、奥の応接室に通された。

待たされること二十秒。

ほとんど待たされることなく、男が入って来た。


「やあ、よく来てくれました。ギルドマスターのランデンビアです」

知的な雰囲気を漂わせた、現役時代は間違いなく、魔法使いか神官だったであろうという感じの男性である。

「『十号室』のニルスです。それとパーティーメンバーのエトとアモンです」

「以前、カイラディーで依頼して以来ですよね。どうぞお座りください」

かつて、カイラディーでサブマスターをしていたのが、このランデンビアである。

コナ村の代官ゴローが言う所の『カイラディーの良心』

そんなランデンビアが席を勧め、そのタイミングでギルド職員が四人分の紅茶を持ってきた。



「依頼内容と経緯については、聞かれていますかね?」

「簡単には聞いて来ましたが、出来れば今一度、詳しく伺えればと」

ランデンビアの問いに、パーティーを代表してリーダーの剣士ニルスが答える。

この辺りは、さすがに経験を積んできているため、如才ない。


「わかりました。事の起こりは、うちのC級パーティー『六華』が、祠を見つけたことからでした」

「祠……」

呟いたのは、神官エトである。

「ええ。書類上は『祠』と記したのですが、六華の神官は「隠された神殿であろう」と言うのです。しかし、彼女自身は、隠された神殿を見た経験はないため、誰か詳しい人物に確認してもらうべきだと。今、アクレには分かるものはいないし、王都から呼ぶには時間がかかりすぎるしで、ルンのマスター・マクグラスに相談したら、皆さんを紹介されました」

「なるほど」

ニルスは頷いて、隣に座るエトを見た。


「そうですね。それこそ、カイラディーで受けた依頼の時に、『隠された神殿』を見たので……」

エトもその視線を受けてから頷き、言った。

「確かに。報告書を読みましたよ。で、今回は、その『隠された神殿』と思われる場所から半日ほどの所にアゾーン村というところがあるのですが、皆さんには、まずそこに行ってもらいます。そこで、現在別の依頼を受けている『六華』と合流してもらって、彼らに神殿まで案内してもらう、という形になります」

「六華の皆さんは、別の依頼をこなしながら、神殿まで行ってくださる……?」

エトが、少し心配そうな感じで確認する。


「ああ、皆さんの懸念はわかります。依頼の途中で、別の依頼もとか嫌ですよね。ただ、今回彼らが受けている依頼は、神殿の件とも関わっているので、問題ないですよ。その分、ギルドからの報酬も上乗せすることになっているので……かえって、彼らは喜んでいましたから」

「それなら良かったです」

ニルスが大きく頷いて答えた。

その横で、エトとアモンも頷いた。




二日後、アゾーン村の宿。

アゾーンは『村』ではあるが、南部最大都市アクレへの農産物供給の中継地点としての地位を築いており、かなり大きな『村』である。

また、商人を中心に宿泊する者が多いため、宿泊施設が充実しているのが特徴でもあった。


その一つ、『月と星の宿』の、いわばラウンジ的な場所で、六華と十号室の顔合わせが行われていた。

「俺が『六華』のリーダー、バンダッシュ、剣士だ」

「私が火属性魔法使いのアッシュ、こっちが、妹の風のナッシュ、土のカッシュ」

「神官のテレンスよ。それと、盾使いのゴーリキー」

ゴーリキーは、小さく頷いただけであった。

『赤き剣』のウォーレンといい、このゴーリキーといい、盾使いは無口な人が多いのかもしれない。


『十号室』の三人も、一通り自己紹介をした後、エトが更に付け足した。

「テレンスさん、お久しぶりです」

「やっぱり! エトって、あのエトよね? 五年ぶり? もう! 昔みたいに、テレンス姉って言ってくれていいのに」

「いや、さすがにそれは……」


エトの顔は真っ赤になっている。

それを興味深そうに見るニルスとアモンと、六華のバンダッシュ。


「昔、中央神殿に入って最初にお世話になったのが、テレンスさんで……」

「まだあの時は、十歳? 九歳だったっけ? 親元を離れてピーピー泣いていたエトを……」

「わーわーわー」

昔話をするテレンスを、声をあげて遮るエト。


普段は、あまり見られないエトを、アモンは興味深そうに見た。

「小さい頃の話をされるのは、誰しも恥ずかしいものだな」

「はい……」

バンダッシュとニルスは、小声でそんな会話を交わしていた。



「でも、『隠された神殿』の確認にエトのパーティーが来てくれたのはよかったわ。よくわからない人たちだったら、いろいろと面倒だしね」

「確かにな」

テレンスが言い、六華の剣士バンダッシュが大きく頷きながら答える。


「以前組んだカイラディーの……いや、やめよう。それより、例の神殿だが、報告ではここから半日と言ったんだが、村の人に近道を案内してもらってな。実は、片道二時間でつくことがわかった」

「おぉ」

ニルス、エト、アモンが異口同音に言う。


『半日』が『二時間』になったのである。これは相当な時間短縮であろう。

「で、今から行くわけだが……途中森を横切るが、レッサーボアすら出ないような森らしいから、多分問題はないと思う」



『隠された神殿』までの移動中、十号室の三人は、六華が受けている依頼について話を聞いていた。

「つまり、最近、アゾーン村の周辺で牛やヤギが、よくいなくなると」

「ああ、そういうことだ。まあ、普通、そういう系統の探索依頼などというのは、ギルドにはこない。村だって、金がかかることはしたくないしな。だから、『探索』依頼なんてのは、ほとんど金を出してくれる神殿系しかないわけだが……今回の探索依頼は、領主様直々の依頼なんだ」

「アゾーン村の……領主様?」


「正確には、アゾーン村の南にある『荘園』領主様、らしい。なんとかいう……男爵の……」

「ヘイワード男爵ね」

剣士バンダッシュが思い出せず、火属性魔法使いのアッシュが補足する。

「まあ、ギルドとしては、きちんと金を払ってもらえれば問題ないからな。男爵様の依頼なら、貴族だし、余計に問題ないと」



バンダッシュが言った通り、アゾーン村から二時間で到着した。

「ああ、確かにこれは……」

入口から少し入っただけで、エトは言った。

祠と違って、正面に祭壇と思しきものもある。


祭壇の周りを見て回ると、割れた水晶の破片のようなものが散らばっていた。

「これって……」

「ええ。割れたやつでしょうね」

アモンが指摘し、エトが頷いて答えた。

ニルスが生まれた村にあった『隠された神殿』、その中にあった割れた水晶のような球体……その破片だろうとエトは判断したのである。


そして、祭壇の周りをさらに見て回ると、刻まれた紋章が見つかった。

「火……」

エトが呟く。

「つまり、ここは火の、隠された神殿ということね」

神官テレンスが言った。



エトやテレンスですら、なぜ中央神殿が、『隠された神殿』の探索に報酬を出しているのかは知らない。

これまでに、そんな神殿から、何かが見つかったという報告、発表なども聞いたことがないからである。

とはいえ、冒険者としては、ちゃんと報告すれば報酬がもらえるためそれはそれでいいか、と割り切っている……特にテレンスは。


「というわけでバン、ここは火の隠された神殿だということが確認されたわ」

「そうだな。これで、俺らも十号室の君らも、報酬ゲットだ」

テレンスがバンダッシュに言い、バンダッシュが嬉しそうに十号室の三人にも言う。

これが、ウィン-ウィンである。



そこから片道二時間かけて、一行はアゾーン村に戻った。


だが戻った村は……四時間前とは、全く異なる様相を呈していた。


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