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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第九章 コナ村
173/930

0162 <<幕間>> アベルの正体

本日二話目の投稿です。

ルンの宿屋『黄金の波亭』。

その扉をくぐる一人の水属性の魔法使い。

「いらっしゃいませ」

宿の女将さんが、そのなじみの客に声をかける。

魔法使いの客は、ロビーに隣接している食堂の方を見て、そこに目的の人物を見つけた。



アベルは、食堂の椅子に座り、本を読んでいた。

その向かいの席に、一人の魔法使いが座る。

「やあ、リョウ、どうした?」

アベルは本から顔を上げずに挨拶する。


「アベル……信頼って、どうやって形成していくか知っていますか?」

「藪から棒に、なんだ?」

涼が、突然先の見えない話をし始めたからであろう、アベルは顔を上げて問いかけた。


「そこに必要なのは成功体験です。まず、実績を積み上げていくことが必要です。そうすれば、『彼に任せておけば大丈夫』『彼となら上手くやれるだろう』あるいは『彼でも無理なら他の誰にもできないだろう』、そう思うようになります。そして、実際にやってみて、あるいはやらせてみて、想定通りになることを何度も繰り返して経験する。そうやって信頼は醸成していくのです」

「お、おう……」

ここまで来ても、全く先の見えない話に、アベルはとりあえず頷いておいた。


「しかして、信頼を失うのはどういう場合か。失敗体験では、すぐに信頼を失うということにはなりません。ですが、嘘をついたりだましたりすると、一瞬で信頼は失われます」

「確かにな……」

未だに先の見えない話だが、涼の言っている内容には同意できるため、アベルは頷いた。



「そこでアベルに確認したいことがあります」

涼は、そこであえて言葉を切った。



「な、なんだ?」

アベルは、何となく居心地の悪さを感じながら、先を促す。

「アベルは、精神干渉系の魔法を弾くアイテムを身につけていますね?」

「ああ、身につけている」

アベルは、『平静のネックレス』というアイテムを、肌身離さず身につけている。

それは、精神干渉系の魔法に抵抗し、毒による悪効果も消し去る非常に効果の高いアイテムである。


「それは国宝級のアイテムだと聞きました。たかがB級冒険者のアベルが、そんなものを身につけているなんておかしいです!」

「たかがというが……いちおうB級冒険者というのは、国内でもトップクラスの実力者ということだぞ?」

アベルは、背中に冷や汗をかきながら反論する。


「ですが、元A級冒険者のヒューさんですら、持っていないアイテムですよね」

「う……」

涼は、冷酷な警察官が犯人を追い詰めるかのように、舌鋒鋭く迫っていく。

右手は、かけてもいない眼鏡を、くいっと上げたりしている。

もちろん、アベルにはその意味は通じていないが。


「B級冒険者のアベルが、国宝級のアイテムを持っている理由を僕は考えました。いくら考えても、どう考えても、一つの結論しか導くことは出来ませんでした。その結論とは……」

ここで、あえて涼は一呼吸入れた。

アベルはその圧迫感に、必死に耐える。



「アベルが、実は盗賊で、宝物庫から盗み出したという結論です」

「だから、その結論は間違っていると言ったろう!」

以前、涼が言った結論の繰り返しであった。


「でも、それしか考えられないのです。そもそもアベルは剣士なのに斥候並みに手先が器用で、罠を見つけるじゃないですか? それもおかしいですよ。でも、元々が宝物庫にも盗みに入るような盗賊だと考えれば、全てのつじつまが合います!」

涼は、どうだ!という感じでアベルを見ている。


どうだ、と言われても何とも答えようのないアベルからすれば、どうしようもないのだが……もういっそ、本当のことを言おうかと言う欲望に駆られる。

涼であれば、アベルの正体を触れ回ることも無いであろうし、知ったからと言ってこれまでの態度がくるりと変わるようなことも無いと思うからだ。



「はぁ……、わかった、リョウには真実を告げよう」

アベルは顔をしかめながら一息つき、そしておもむろに顔を上げ、涼を正面から見た。


「俺は、現国王スタッフォード四世の次男アルバート。アルバート・ベスフォード・ナイトレイ。今は、経験を積んだりするためとか、まあいろいろあって冒険者をしている。で、このネックレス、『平静のネックレス』は確かに国宝級だが、王家の人間だけが付けることを許されている特別なネックレスだ。まあ……そういうことだ」



アベルは全部言ってしまってすっきりした顔をしている。

だが、言われた涼はすっきりしていない顔をしている。



「アベル……嘘をつくにしても、もう少し上手くつくべきです。さっき言ったでしょう? 嘘をつけば、それだけで信頼は失われるのですよ……。まったく、人の話を聞かないのもダメだと思うんですよね」

「いや、全部ホントの事なんだが……」


全く信じていない涼。

困惑するアベル。


「この事を知っているのは、ギルマスと赤き剣の面々……ああ、フェルプスもか。それくらいだから、言って回るのは勘弁してくれ」

「言うわけないでしょう……僕が嘘つき呼ばわりされますよ……」

「いや、信じられないかもしれないが、事実だぞ? 今言った連中に訊けばいいだろ?」

「誰もかれも、アベルがすでに買収済みなんでしょ? よくある手です」

「いや、なんでだよ!」

意を決して真実を告げたアベル……だが、全く信じていない涼。


人間関係と言うのは、げに難しきものである。


明日投稿予定の幕間「0163」「0163-2」は連作の幕間です。

十号室の彼らが活躍する冒険活劇……?

12時と21時に投稿予定です。

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『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
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