0160 <<幕間>>
大量のコナコーヒーと、フレンチプレスをお土産にもらって、ルンに帰還して一週間後。
涼を含めた十号室の面々とギルドマスターヒューは、冒険者ギルドの前にいた。
目の前には、旅立つ勇者パーティーがいる。
「世話になったな」
ヒューが、勇者ローマンと握手をしながら声をかけた。
「いえ、こちらこそ。色々といい経験をさせていただきました」
ローマンは頭を下げながら答えた。
「西方諸国においでの際は、ぜひお訪ねを……」
「いや、西方諸国と一口に言っても広すぎるだろ」
ローマンの言葉に、ヒューが苦笑しながらつっこむ。
「他の皆は、魔王を倒せばバラバラになるかもしれませんが、私は西方教会に所属しているでしょうから、教会に『グラハム』を訪ねてください」
ヒューとローマンの苦笑を受けて、折衝役でありパーティー最年長である聖職者グラハムが提案した。
「わかった。『大司教』だもんな。かなり高位じゃないか」
ヒューは頷きながら、グラハムがヴァンパイアカリニコスに告げた言葉を思い出して言った。
「魔王を倒すまでは、ただの聖職者です」
グラハムは少しだけ微笑んで答えた。
大司教。
中央諸国の神殿機構には無い階位である。
例えば地球においては、キリスト教のカトリック教会なら、かなりの高位聖職者となる。
頂点に教皇を戴き、その下に枢機卿、その下に大司教。さらに下に、司教、司祭と連なっていく。
歴史的にも、大司教の地位は高く、強い。
神聖ローマ皇帝を選出する七選帝侯のうちの三人が、大司教である。すなわち、マインツ大司教、トリーア大司教、ケルン大司教。
正確には違うとはいえ、おおよその意味として、皇帝を選ぶ権限を持っていたのである。
ちなみに残りの四人は、ボヘミア王、ライン宮中伯、ザクセン公、ブランデンブルク辺境伯。
もちろん現時点で、西方諸国における大司教の地位が正確にどれほどのものであるかは、涼も知らない。
だが、ヒューの言い方からしても、かなり高位であることは確からしい。
勇者パーティーを送り出した後、十号室の四人は、そのままギルドマスター執務室に呼ばれ、応接セットに座っていた。
目の前には、もちろんコナコーヒーが淹れてある。
「今回の件だが、王家と神殿から箝口令が発せられた。その一切に関して、口外は禁止だ。口外したことが知られれば、牢に入ることになるから気を付けろよ」
ヒューはそう告げ、十号室の四人は頷いた。
『ヴァンパイア』と『魔人』が絡んでいるのである。そうなるであろうことは容易に推測できる。
「代わりにと言っては何だが、報奨金が相当に増額された。まあ、口止め料だと思って受け取っておけ。もう、口座に入っているはずだ」
「おぉ!」
報奨金の増額は嬉しい。
特にお金に困っていない涼ですら、嬉しいものである。
十号室の四人も去ったギルドマスター執務室。
「魔人……ヴァンパイア……。何とか解決した……。大海嘯後のダンジョンも、ようやく正常化したし、これでしばらく静かに暮らせるな」
そういうと、いつもの書類作業に取り掛かるヒューであった。
明日は二話投稿です。