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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第八章 王都騒乱
154/930

0143 <<幕間>>

本日(7月21日)二話目の投稿です。


ナイトレイ王国を代表する魔法使いと言えば、イラリオン・バラハであろう。


王国においては、『宮廷魔法使い』の地位に就けば、一生安泰である。

それは、特に魔法の行使において高い技量を持っていなければ就くことが出来ない地位だからだ。

エリート中のエリートであり、魔法使いの近衛たる宮廷魔法使い。


その中のトップが、『筆頭』宮廷魔法使いのイラリオン・バラハ。

この三十年、その地位は揺らいでいない。



そんな王国を代表する魔法使いであるイラリオンであるが、王都騒乱時、王都を離れていた。

ちょっとした手掛かりから、ちょっとした人物を追って、ちょっと東の方へ行っていたからである。


戻って来て、王都の変わり果てた姿に驚いたのは言うまでも無かった。


そのまま王宮に直行し、いくつかの会議といくつかの会談を終えて、『王国魔法研究所』に戻った時には、辺りは既に暗くなっていた。

最上階が彼の執務室である。

廊下にまで、執務室からの声が聞こえる。


「そういえば、アベルたちが来ておったな」


そう思いながら扉を開けて一歩中に入り、凍りついた。

そこには、十人からの人間がいたからだ。

アベルたちがいなければ、普段は誰もいない執務室に、これほどの人数がいるというのは……これまでの数十年で一度もなかったことである。


「あ、師匠、おかえりなさい」

真っ先に挨拶したのは、イラリオンの弟子たる風属性魔法使いのリンであった。

「あ、うむ」

驚いたままのイラリオンは、それしか言えない。


「おう爺さん、ローマンたちが泊まるところが無いって言うから、ここに来てるぜ」

アベルはそう言うと、ローマンたちを顎で示しながらイラリオンに事後報告した。

「それで……ローマン殿というのはどちら様なのじゃ?」

「勇者ローマンとそのパーティーだ」

「……は?」


アベルの答えは事実であったが、現在のイラリオンには理解できないものでもあった。


久しぶりに帰った我が家に、勇者とそのパーティーがいたら……それは誰しも理解不能となるであろう。


「初めまして。西方諸国の勇者、ローマンと申します。王国を代表する魔法使いであるイラリオン様の研究所に泊めていただける御光栄に浴し、感謝いたしております」

「う、うむ。ゆっくりしていきなさい」

勇者と言われた、見るからに実直そうな青年であるローマンが、丁寧に挨拶をする。

そんな若者を追い出せるほどには、イラリオンは鬼畜ではない。


かくして、勇者パーティーは、王都における宿を確保したのであった。


明日(7月22日)より、『間章 ルンへの帰り道』(五話予定)となります。

涼とアベルの短い二人旅です。

いつも通り、21時投稿です。

よろしくお願いいたします。

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