0141 <<幕間>>
「皆、ご苦労だった」
ジュー王国第八王子ウィリーは、大使館を守り抜いた職員と騎士たちに声をかけた。
突然現れた化物たちの前に、多くの貴族邸が打ち破られる中、ジュー王国大使館は、最後まで蹂躙を許さなかったのだ。
もちろんそれは、大使館の場所も大きく関係していた。
今回の被害が大きかったのは王都北側の貴族街。
その中でも、北から北西にかけての地域である。
北には最初の発生地となった王国騎士団詰め所があり、北西にはエルフの自治庁がある。
その辺りの被害は甚大であった。
翻って、ジュー王国大使館は、中央神殿から見て東、ギリギリ貴族街と言える場所に建っている。
立地からして、大国であれば大使館を建てないような場所だろうが、今回はそれが幸いしたのだから、何とも言えないところであろう。
それでも、周囲を見回せば、それなりの被害が出てはいるのだから……立地だけではなく、大使館関係者の努力によって蹂躙されなかった部分も大きいといえる。
ウィリー王子自身は、たまたまその日、ナイトレイ王国王家からの賓客の対応をするために、大使館に詰めていた。
本当なら、その日が学園への転入初日ということで登校するはずだったのだが、急遽二日後に変更。
それが幸いした。
学園の場所は、中央神殿にほど近いところにある。
もし学園にいたら……そう考えると、ウィリー王子は心底、大使館に残っていて良かったと思ったのだ。
ひいては、王家からの賓客のお陰で学園に行かなかったわけで……その賓客にも心の中で感謝していた。
その賓客である、ナイトレイ王国王太子は、先ほど馬車で王宮に戻られた。
「もの凄く的確な指示だった……」
王太子の矢継ぎ早の指示出しは、傍らで見ていたウィリー王子にとって学ぶべきものが多いものであったのだ。
「いずれ落ち着いたら、登城して今回の感謝を伝えないといけないな」
そこでウィリー王子の頭をかすめたのは、王都にいる知り合いの安否だった。
と言っても、知り合いはまだ少ない。
「先生は……多分問題ない。何百体に囲まれても、一瞬で殲滅してしまう光景しか思い浮かばない」
ウィリーが思い浮かべたのは、『先生』と呼んでいる涼の事である。
水属性魔法を使えるウィリーにとっては、まさに先生。
だが、ウィリーは涼が敵を殲滅している光景を見たことは無い……見たことは無いのだが、簡単にそういうことを成してしまいそうなイメージをすでに持っていた。
「だから、きっと大丈夫」
そう言って、一つ頷いた。
「あとは……コーンさんか」
インベリー公国から、護衛をしてくれた冒険者。
ジュー王国大使館を自由に使っていいと伝えていたのだが、報酬を受け取った後は一度も見かけることは無かった。
もしかしたら、もう王都にはいなかったのかもしれない。
「それならそれで、今回の被害を免れたわけだから、いいのですが」
そう考えると、ウィリーは何度か首を振って、外を見るのであった。




