0140 <<幕間>>
中央諸国には三つの大国が存在する。
北の帝国、デブヒ帝国。
南の王国、ナイトレイ王国。
そして東の連合、ハンダルー諸国連合である。
ハンダルー諸国連合は、その南西部で王国と接し、北西部で帝国と接する。
帝国は、全てにおいて他の二国を圧倒しているが、王国と連合は長い間均衡を保っていた。だが、その均衡を大きく崩したのが、十年前に二国の間で起きた『大戦』だ。
結果は、王国の大勝。
連合は、領土の一部を王国に割譲し、なおかつ属国として支配下に置いていた、いくつかの小国の完全独立を許してしまう。
その中の一つが、連合の南部、王国の東部と接するインベリー公国である。
小国とはいえ、いくつもの重要資源を抱えるインベリー公国の完全独立は、連合にとって大きな痛手であった。
「ククククク。アハハハハ。ワーッハッハッハッハッハ」
ハンダルー諸国連合首都ジェイクレア。
その執政執務室に、笑い声が響き渡った。
「閣下……」
部屋の主が十分笑った辺りで、報告を持ってきた補佐官が声をかける。
「ああ、すまんすまん。だが、ランバーも読んだであろう? 王都騒乱の報告書。王国騎士団壊滅、貴族とその家族への甚大な被害、しかもそれらに対して有効な手段を取ることができなかった首脳たちの無能。これを笑わずにいられようか」
そういうと、オーブリー卿は再び大笑いした。
だが、しばらく笑うと、少しだけ顔をしかめて言葉を続けた。
「だが、これではっきりしたな。スタッフォード陛下は普通じゃない」
ナイトレイ王国国王スタッフォード四世の名を挙げるオーブリー卿。
「英邁を謳われたスタッフォード王にしては、確かに変ですな」
ランバーも小さく頷いて言った。
「病気か? あるいは……」
「あるいは……?」
「我らではない何者かの工作か……」
オーブリー卿はそう言うと、何度か小さく首を振る。
「王国民は不幸なことだな……。自分らではどうしようもないが」
「権力の集中の難しい点ですな」
「分散していては決定に時間がかかる。集中していては、そこが壊れた時の影響が大きすぎる。人の組織は、ままならぬものよの」
「閣下、確認が取れましたが、やはり事実でした。ようやく仕込んだフリットウィック公爵邸の種……失われておりました」
「ああ……フレッチャー子爵であったな。ようやく、公爵家の権益を取り仕切るまでに出世させてやったが死におったか……。しかも、勇者の取り込みにも失敗。まあ、勇者は予定に入っていなかったから、我らの邪魔さえしなければそれでいいのだが。公爵邸まで被害に遭ったのは、うむ、確かに想定外であったわ」
少し渋い顔となってオーブリー卿は続けた。
「それにしても、想像以上の化物が現れたために公爵邸も飲み込まれたが……想定以上の暴走、何が原因かは……」
「申し訳ございません。未だわかっておりません」
「まあ、そうであろうな」
オーブリー卿も、こんな短期間に解明されるとは期待していない。
そもそもが入手ルートも怪しいところから仕入れた『玉』だったのである。
「なんと言ったか……そう、『宝珠』と言ったか? あれをもう一度手に入れることはどうだ?」
「そう仰ると思い、手配した者に再びの接触を試みたのですが、連絡が取れませんでした」
オーブリー卿の問いに、ランバー補佐官は頭を下げながら答えた。
「ふむ、消えられたか。こちらとしては王国を混乱させることが出来たし、よしとするか。しかも王国騎士団が壊滅したとなれば他国への援軍は出せまい。……いよいよだな」
「はい。四カ月後には出陣可能となります」
「四カ月後……春の終わりか」
オーブリー卿はニヤリと笑ってさらに呟いた。
「インベリー公、再び連合の前に跪かせてみせるぞ」




