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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第八章 王都騒乱
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0133 援軍

アベルと勇者ローマンが最前線で戦い、リン、アリシア、ベルロック、グラハム、そしてナンシーがいなくなりショックを受けていた火属性の魔法使いゴードンが砲撃を行う。

その間、これまで休みなく戦ってきた神官たちは、休憩して回復に専念していた。


砲撃は五人とはいえ、B級冒険者の風属性魔法使いのリン、それと勇者パーティーの魔法使いたちだ。

そもそも、攻撃に向いているとは言えない神官たちに比べれば、十分な火力だと言える。

さらに、前線で戦うのは二人とはいえ、天才剣士アベルと、勇者ローマンだ。

その戦う様は、壮絶であった。


「すごい……」

それは、誰が発した言葉であったか。

だが、休んでいる神官全ての気持ちを代弁したかのような言葉。


そもそも、勇者がここにいること自体、神官たちはもちろん、大神官ガブリエルも理解できなかった。

最終的には、リーヒャがここにいたのと同様に、神のおぼしめし、ということにして思考を放棄した。

こういう時、神に仕える者は有利なのかもしれない。

全ての責任を、神に負ってもらえるのだから。



「まるで大海嘯だね」

「ええ。本当に」

砲撃しながらも、前線二人が、人類でも最上級の体力保持者であるため、ある程度の余裕を保ちながら、リンはリーヒャに声をかけることができていた。

そして、地下四階の撤退戦からこちら、ずっと緊張しながら指揮を執ってきたリーヒャも、ようやく一息つけていた。


「大海嘯って、ダンジョンから際限なくモンスターが湧き出る現象の事よね?」

その会話が聞こえたアリシアが、会話に入って来た。

「そう。半年前くらいかな? うちらが拠点にしているルンの街のダンジョンで、十年ぶりに起きたのよ。でも、ここってダンジョンじゃないよね?」

「ええ。ただの地下墳墓よ。地下五階までで、歴代の大神官や、聖者様、聖女様たちの亡骸(なきがら)があるだけ」

リンが答え、リーヒャがただの地下墳墓であることを説明する。

ミイラはあるが、ダンジョンなどとは本質的に別物だ。


「ということは、どこか別の場所と繋がったってことか……」

アリシアは頷きながら言った。

「そんなことが可能なの?」

リンはアリシアの言葉に驚き、尋ねる。


「人間にはできないし、そんなアイテムの存在も聞いたことは無いけど……。以前、私たちの前に現れた奴がいたの。なんというか……空間を割いて、という感じかな。人間ではなかったけど、言葉は通じた。私たちは、魔王を呼び出して倒すための祭壇を作ったのだけど、魔王じゃなくてそいつが現れた。そんなことが可能なのだから、ここの地下を別の場所と繋げることも可能なんじゃないかしら」

アリシアが頭に浮かべたのは、悪魔レオノールであった。


リンとリーヒャは理解不能ではあったが、とんでもない存在がいるということだけはなんとなく理解できた。



そこで、全く脈絡なく、リーヒャはあることを思い出し、後ろで休んでいた大神官ガブリエルを振り返って尋ねた。

「大神官様、騎士団はなぜ来ないのでしょう」


そう、この事態が発生して、中央神殿がまず最初に連絡を取ったのは王国騎士団だ。

だが、未だに誰も来ないのだ。

そもそも、王国騎士団の詰め所は、ここからわずか三ブロックしか離れていない。

鎧を着て走ったとしても、三十分以内には到着できるはずなのだが。


「私も不思議に思って、先ほど確認したのですが、正式に出動を拒否されたそうです」

「は?」

大神官ガブリエルは顔をしかめながら答え、リーヒャは素っ頓狂な声で答えた。

「騎士団は、一体何を考えているのでしょうか……」

「王を守るのが騎士の役割、とか言っていたそうです。あの騎士団長になってから、本当にどうしようもない組織になってしまいました」

リーヒャは呆れ、大神官ガブリエルは更に呆れかえった。




アベルたちが到着して二時間。

多少回復した神官たちとも交代を繰り返し、地下一階中央での迎撃は続いていた。


戦力が整ったこともあり、撤退戦をする必要性は、今のところなくなっている。

だが、未だに、人ならざる者たちの終わりは全く見えてこない。

アベルと勇者ローマンによって、前線でかなりの敵を倒したのだが、倒された死体は、いつの間にか後ろに引っ張り込まれているのだ。

たくさん倒せば、そこに死体の壁が出来るかも、と考えていたアベルの考えは甘かった。


「これはホントに際限ないな。ローマン、あんた、体力はまだ大丈夫か?」

「はい。まだ問題ないです。ただ、砲撃をしてくれる魔法使いたちの魔力がどうなのかは心配ですね」

アベルの問いに、勇者ローマンは答える。

アベルは、砲撃隊であるリンの表情をチラリと見た。

すぐに魔力切れとはならないが、限界が近付いているのは感じられた。

一緒に戦ってきたからこそわかる。



モンク隊と入れ替わりで、アベルとローマンが下がる。

そのタイミングで、アベルはリンに声をかけた。

「リン、魔力は節約していけ……と言っても、今更か」

「まあね。さすがに、これだけの時間戦い続けるのは、魔法使いには無理があるよ。お隣の勇者パーティーの魔法使いたちとか、私以上に魔力の残り、ヤバいと思うよ」

アベルの問いに、リンはさすがに声を潜めて答えた。


アベルは、勇者パーティーの魔法使いたちを見る。

確かに、アベルの目から見ても、残存魔力の限界が近付いているのは分かった。

「参ったな。誰か、リョウを呼んできてくれないかな」

「リョウを?」

「ああ。あいつがいれば、もう少し楽が出来るだろうから」

アベルはそういうと、ため息を一つついた。



その瞬間、後ろから声が聞こえた。


「<ウォータージェット256>」

モンク隊が対峙していた敵の首が、次々刎ねられる。


「<パーマフロスト>」

さらに、その奥、地下二階の階段に至るまで一面が氷の世界と化した。




あまりの展開に、モンク隊だけでなく、そこにいる全員の動きが止まる。


「アベル、いつも楽しよう楽しようと考えているばかりでは、剣士として成長できませんよ?」

そこに現れたのは、アベルが知る限り、最強の水属性の魔法使い、涼であった。



「おせえよ、リョウ」

「そう言われても、僕にもいろいろやることがあったんですから」

悪態をつくアベル。忙しかったと文句を言う涼。


「見た限り、魔法使いたちは魔力切れ寸前ですね。どうします? 氷の壁で整理して、一体ずつ出てくるようにして、それをアベルが一人で倒していきますか?」

「何で俺限定なんだよ。勇者パーティーの中でも、ローマンはまだまだ体力あるぞ」

アベルがそう言うと、涼も勇者ローマンの方を見た。

「本当ですね。ピンピンしてますね」

涼はローマンを見て頷く。


「あ、あの、昨日、仲裁をしてくださった方ですよね? その節はありがとうございました」

そういうと、勇者ローマンは頭を下げた。

この場にふさわしいセリフかと言われれば、はなはだ疑問であるが、感謝の気持ちを表したり、謝罪の気持ちを表したりするのは、円滑なコミュニケーションに必要不可欠だ。

「いえいえ。どうぞお気になさらずに」

「うん、お前ら、このタイミングで言うには、少し変だと思わないか?」

涼が謙遜し、アベルがつっこんだ。



「とりあえず、前で戦っている……神殿騎士? みたいな人たちは下がって、休んでもらった方がいいでしょう。彼らも、けっこう足に来てますよね」

涼の意見により、モンク隊は下がり、しっかり休むことになった。


「なあリョウ、一面凍っちまったけど、どうするんだ?」

「どうするとは?」

アベルの質問の意図が分からずに問い返す涼。

「凍った奴ら、死んでるんだろ?」

「ゴブリンとかオークとかは死んでますね。スケルトンみたいなアンデッドは……死んでると表現するのかどうかは、難しいところですが」

「うん、まあ、そこはどっちでもいいんだが……また地下二階から、続きが出てくると思うんだ……」

そう言っていると、地下二階に通じる階段から、人ならざる者たちが上がってくるのが見えた。


「氷の世界を歩くスケルトン……なかなかにシュールな絵です」

涼が独り言のように言う。

「その余裕が羨ましいよ」

アベルが大きくため息をつく。


「でも、あんまりここで時間をかけても仕方ないですよね。アベルとローマン二人が、前方で殲滅してください。後ろに逃れた敵に対処したり、あるいはサポートしたりを、僕一人でやりましょう。その間、他の魔法使いは魔力回復に専念、ということでどうですかね?」

最後の方は、リーヒャと大神官ガブリエルの方を見ながら、涼は言った。

もちろん、大神官ガブリエルの事は知らないのであるが、一番立派な服を着ていたから、一番偉いのだろうと勝手に判断したのだ。

「ええ、リョウがそれでいけるなら、お願い」

リーヒャが頷いてゴーサインを出した。

それを合図に、アベルとローマンが飛び出していき、再び二人の殲滅戦が始まった。



「おぉ、これは見事ですね。二人とも凄い」

後方から、涼は二人の動きを見て感動した。

襲ってくる、人ならざる者たちのほとんどを、二人で倒していた。

わずかに、二人の魔手から逃れてさらに進んでくる者は、涼のウォータージェットで首を刎ねられる。

その極細の水の線は、本当に細く、極めて見えにくかったため、ほとんどの者たちの目には、突然首が落ちたようにしか見えない。

だが、アベル、ローマン、そして涼の三人による殲滅戦は、見る者に絶対的な安心感を抱かせたのもまた事実であった。


ようやく、なんとかなりそうな未来が見えてきたことを、戦ってきた者たちに感じさせるのであった。




涼が加わってしばらくしてから。

涼が突然、リーヒャと大神官ガブリエルの方を向いて言った。

「これって、途中で他の場所に繋がっている通路とか無いんですか?」

「ないはず……」

「ないですね……。どうしてですか?」

涼の問いに、リーヒャも大神官ガブリエルも、ないと答えた。

「なんか、出てくる数が減った気が……。数自体が減ったからかな?」

「それなら、もうすぐ終わるかな」

涼の呟きに、リンが嬉しそうに答えた。


「あっ」

その時、大神官ガブリエルが小さく叫んだ。


涼、リーヒャ、リンはガブリエルを見る。

「地下三階が、古い修道院の地下に繋がっています。ただ、途中、三重の扉があり、全て聖なる封印がなされてはいますが」

大神官ガブリエルは思い出すかのように言った。


「知りませんでした……」

リーヒャも知らなかったらしく、驚いている。

「ええ、そうでしょう。全く使われていませんからね。そもそも、修道院も移築したために、その通路自体まだあるのかどうか、誰も確認していないと思いますよ」

大神官ガブリエルは頷きながら言った。


「その古い修道院って、今は何があるんですか?」

「今は……王国騎士団の第二演習場、ですね」

「もし、そこを破られて通路を通って行ったとしても、騎士団の演習場なら問題ないかな」

ガブリエルの答えに、涼は安心して目の前の処理に専念することにした。



涼が考えた『騎士団』の基準が、ルン辺境伯領騎士団であったのが、不幸であったろうか。

かつての王国騎士団ならともかく、現在の王国騎士団は……。


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