0013 近接戦への取り組み
「失敗は成功の元」
こんな事では、涼はめげたりしない。
「とりあえず、水田を作るのは後回しにしよう」
そう、めげずに問題の先送りをするだけで大丈夫!
カイトスネークとの戦闘、接近戦では全く歯が立たなかった。
正確には、カイトスネークの『尾』との接近戦では。
つまり、相手の攻撃を防ぐ、あるいはかわす、そういうのは現状の涼には難しいということだ。まあ、それが嫌で、遠距離から安全に狩り出来るようになりましょう、というコンセプトでやってきたわけだから、当然と言えば当然であるのだが。
距離がある場合の攻撃手段は、今まで通り鍛えていこう。
発動時間、魔法制御の精密さなど、まだまだやるべきことは多い。
「だいたい、<アイスウォール5層>の生成に一秒かかったのが、ダメージを受けた理由の一つなのだから。もっと早く生成できるようにならないとね!」
それから<アイスアーマー>である。
なんとなく適当に鎧いるかなぁ、程度に涼が準備しておいた防御魔法だが、かなり役に立った。というか、無かったら涼は死んでいた。
「見た目、どこかのセイント騎士な感じだけど、持ち運びが大変と言うわけでもないし、もしものために戦闘開始前にすぐ身に纏えるように練習しよう。あ、これを重くしたやつを身に纏って走ってもいいかな。いい訓練になるかも」
思考が完全に脳筋傾向になっているのだが、本人は全く気付いていない。
とはいえ、持久力がついたのは事実であり、それがベースとなって戦闘中もスタミナ切れは全く起こさなかった。
どれほど素晴らしい技術を持っていても、スタミナが切れれば活かせない。
毎日の柔軟体操、ランニングと共に涼が必ず行っているのが、素振りだ。
長さ約一メートル、氷でコーティングし、重さの調節をした竹製竹刀。
本来竹刀というのは、縦に八分割した竹片四本を合わせて作るのだが、涼が使っているのは竹そのまま。
握るのにちょうどいい太さの竹を、長さ一メートル程で切ってきただけ。
もちろん鍔などもついていないが、九年間も握り続けてきたのだ。だいたいの柄の長さは身体が覚えている。
剣道にしろ剣術にしろ、あるいは竹刀にしろ日本刀にしろ、握り方は共通している。
左手で柄の端近くを握り、右手で鍔の辺りを握る。
両拳同士はくっつけない。
拳の間に、もう一個拳が入るくらい空いている。
野球のバットなどを握るのとは、その辺りが根本的に違う。
これは用途の違いなのだ。
力をバットに伝えることが重要なバットと、それ以上にコントロールが重要となる竹刀や刀、その違い。
そのため、柄の長さというのは、打刀であろうと、それより少し長い太刀であろうと、八寸、だいたい二十四センチである。
その長さが、刀を振り回すのにちょうどいい長さであることが、長い間で認知されてきたからだと考えられる。
ちなみに、西洋におけるいわゆる『両手剣』の場合は、両拳はくっついた状態で剣を振りまわす。野球のバットと同じように。
パワーを重視するなら両拳はくっつけて、コントロールを重視するなら両拳は離して。
先ほども例で出したが、野球のバットでもそうであろう?
普通に振る場合は、力を伝えるために両拳はくっつけてバットを握る。
だが、バットを精密に動かさなければならない場合、つまりバントをする際は、両拳は離れ、片方はバットの中ほどを持つことになる。
持ち方の段階で、得物の動かし方、どういう使い方が正しいのかも、決まっているのだ。
基本的に、竹刀にしろ日本刀にしろ、持ち、支えるのは左手。
右手は添えるだけ……とまではいかないが、刃の軌道を決めるのが右手といった感じであろうか。
左手の中でも、小指、薬指の二つが『握る』ことにおいて重要なのは、野球などにおいても同様だが、普通の生活をしていると中々使いこなせない指たちともいえる。
そのためにも反復練習が大切となってくる。
素振りの後は、面、小手・面、胴、突き。
道場で習ってきた動きを何度もなぞる。
左手の指二本以外は緩く握って、インパクトの瞬間だけ絞り込むように力強く握る。
ボクシングのジャブでもそうだが、常に力を込めているとスピードが乗らない。
だから力を籠めないで緩く腕を振り、インパクトの瞬間だけ拳を握りこむ。
結局は体の動きであるため……様々なところに、色々な共通点が存在している。
竹刀、バットの扱いだけでなく、柔道や相撲でも、相手を捕まえた後に最も重要な役割を果たすのは小指と薬指。
普段は力を抜き、インパクトの瞬間だけ握りこむのは全ての武道、武術、格闘技においても同様。
反復練習によって出来るようになる、つまりは大脳で考えての行動ではなく、小脳に運動記憶として刻み込まれるまでやれば良い。
そしてそれは、武道家だろうがアスリートだろうが、地球上で多くの人がやってきたことでもある。
きっとそれは、『ファイ』においても同様なのだ。




