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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第八章 王都騒乱
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0128 先生

「皆さん、本当にありがとうございました」

ウィリー殿下はそう言うと、頭を下げた。

その斜め後ろでは、ロドリゴ殿も頭を下げていた。

「いやいや、無事に着けて良かったぜ」

「依頼を遂行しただけですから。殿下、顔をお上げください」

コーンは照れながら、涼は少し慌てながら答えた。


場所は、ナイトレイ王国王宮前である。

護衛を買って出てくれていた宮廷魔法団の有志たちは、すでに解散し、王宮内に去っていた。


そしてマシューとルーカも、四人に礼を述べて、どこからともなく現れた腕の立ちそうな護衛と共に、財務省へと去って行った。


最後に、ウィリー殿下とロドリゴ殿の、別れの挨拶を、涼を含めた護衛冒険者たちが受けているのである。

「リョウさん、最後にお願いがあります!」

「殿下、改まってどうされたのですか?」

ウィリー殿下が、意を決して涼に願い事をしようとし、涼は何だろうと軽い気持ちで聞いていた。


「これから、リョウさんの事を、『師匠』と呼んでいいでしょうか」

「すいません、それは勘弁してほしいのですが……」

「そうですか……では、『先生』にしておきます」

「え……」

いかにも残念という感じで、ウィリー殿下は『先生』で妥協した。

そう、妥協したのである……涼的には、全く妥協された感じはしないのであるが。


そして二人は、到着の報告のために、王城へと入って行った。



「さて、俺らは冒険者ギルドに行こうと思うんだが、リョウはどうする?」

残った涼とコーン率いる冒険者たち。

コーンらは冒険者ギルドへ行くという。そこで、この臨時パーティーを解散するらしい。

王都が初めての涼も、特に早急にいかなければならない場所はない。

せいぜい、「あとで顔を出せ」と言った、顧問アーサーのところに行くくらいである。


そのため、コーンらについて行こうとしたのだが……王宮の方から歩いてくる一団から、聞き慣れた声が聞こえた。


「リョウ?」


涼が振り向くと、音速の飛び込みで、セーラが抱きついてきた。

「ぐほっ……せ、セーラ? どうしてここに? それに、ルン騎士団のみんな?」


しばらくセーラは、涼に抱きついたまま無言である。

代わりに、騎士団のイーデン小隊長が答えた。

「え~っと、自分らは、ルンから王宮への移送の任を仰せつかりました。今、お届けしたところです」

「え……セーラも?」

「はい、セーラ様も……当初は予定には入っていなかったのですが、急遽……」

「仕方がなかったのだ……」


イーデンの言葉を遮り、顔をあげたセーラが、ようやく声を出した。


「『スイッチバック』のスーに手紙を届けさせたであろう? 開いてみたら、王都に寄ると書いてあるではないか……。リョウは、私の様なエルフにとっては、とても貴重な……なんというか……そう、栄養補給源なのだよ。いないと大変困るのだよ。もう少し、その自覚を持ってほしい!」

「えっと……なんかすいません……」

(栄養補給源って何だろう……。そんなの初めて言われたんですけど)

「うむ、わかってくれればそれでよい」


セーラは満面の笑顔で答えた。

その笑顔の破壊力は、全てを超越する。

その笑顔のためなら、涼は世界を敵に回しても戦えるだろう……。


でも、疑問は解決しておこう。

「栄養補給源ってのは、ちなみに……」


「ん? ほら、どこかの守護獣様も言っていたのだろう? リョウの周りにいると寿命が伸びるだとかどうとか」

「はい、言ってました……」

「それだよそれ。以前言ったように、エルフは半妖精みたいなものだ。そして、きっとその守護獣様も妖精の系統の、守護獣様なのだろう。我々は、『妖精の因子』と言っているが、それを持っている者にとっては、リョウはとても貴重な栄養補給源なのだ。あと、邪気を祓う……みたいな感じかな。リフレッシュ効果もある。覚えておくといい」


横で聞いていた騎士団員たちは、ほぇ~とか言いながら頷いている。



「えっと……それは人間には何か効果が……?」

「いや、全くないな」

涼の疑問に、身も蓋もない答えを言うセーラ。


「えっと……それは僕自身には何か効果が……?」

「いや、多分ないな」

さらなる涼の疑問に、やはり身も蓋も無い答えを言うセーラ。


そしてなぜか敗北感に苛まれる涼。

そんなやりとりの途中で、「お、俺らは行くわ」と言って、コーンたちが離れていったことに、涼は気付いてはいなかった。




「つまり、ルーカには財務省に逃げ込まれ、シーカは行方不明で、枷を外された財務卿は寝返る可能性が高い。さらに、それらの背後にはイラリオンの影がちらつく……だと」

そこは、王都にあるフリットウィック公爵邸。


執務室で、二人の男たちが話していた。


一人は痩せた体に、モノクル、つまり片眼鏡をはめて報告書を読みながらしゃべる。

もう一人は中肉中背だが、どことなく不気味さを感じさせる、およそ公爵邸には似つかわしくない雰囲気を纏った人物に見える。

「で、それらを繋ぐ男が、このアベルという奴か」

「はい。騎士団長の周辺も、いろいろと探っていたようです」


アベルは、シーカたちだけではなく、公爵の配下からも、すでに目をつけられていたのである。

そもそも諜報活動より、冒険活動の方が本家のアベルである……いろいろ仕方ないであろう。


「今、イラリオンはどこにいる?」

「昨日、王都を出て、第二街道を東へ向かったという報告がございました」

「このアベルを始末するなら、今が好機か」

モノクルの男は少しだけ考え込んだ。


始末するにしても、かなり腕がたつらしいという情報もある。

生半可な者では返り討ちに遭いかねない。


「確実にやるなら……奴らを使うべきだろう」

「はい。すでに仕込みは済んでおります」

「ほぉ……さすがだな。で、どうやる」

「使うのは、ゴードン、ベルロック、ローマンの三人で。ゴードン一人で問題ないでしょうが、他の二人は保険です」

「よかろう。イラリオンが戻ってくるまでに片付けろ」

「はい」

そういうと、不気味な男は執務室を出て行った。


部屋に残ったモノクルの男は薄く笑って呟いた。

「勇者の襲撃か……」


次回、ついに何かが起きるかもしれません……。

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