0127 <<幕間>>
涼がウィリー王子一行として、王都クリスタルパレスに到着した日から、遡ること数日。
辺境最大の街、ルンの領主館前に、二人の冒険者がいた。
C級パーティー『スイッチバック』の剣士ラーと斥候スーである。
二人は、衛兵に取り次ぎをお願いして、目的の人物が来るのを待っていた。
待つこと十分。
「スー、ラー、待たせてすまなかったな」
出てきたのは、B級冒険者にして騎士団剣術指南役のセーラである。
「いえ、突然すいません、セーラさん」
斥候スーが頭を下げる。
ちなみに剣士ラーは、かちんこちんに固まっている。
『風のセーラ』と通称されるセーラは、冒険者ギルドにおいて、すでに伝説的な人物となっている。
その圧倒的な実力と、それに比肩するほどの美貌。
エルフであるため、強力な風魔法を操る魔法使いでありながら、超絶技巧の剣士でもある。
剣士ラーの反応は、ごく普通なのだ。
何の支障も無く話せる斥候スーの方が……いや、総じて女性冒険者の方が、支障なく話せるようであるが。
「あの、実はうちら、依頼でリョウとインベリー公国に行ったのですけど、リョウは事情があって、戻るのが少し遅れるんです。それで、セーラさんに手紙を渡してほしいって……預かって来たんです」
斥候スーはそう言うと、涼から預かった手紙をセーラに渡した。
「そ、そうか。まだ戻ってこないのか……。いや、スー、手紙ありがとう。早速部屋に戻って読ませてもらうとしよう」
「いえ、それじゃ、失礼します」
スーはそう挨拶をすると、固まったままのラーを連れて、帰って行った。
何のためにラーを連れてきたのか、立ち番をしている衛兵には全く理解できなかったが。
二人が去ると、セーラはおもむろに手紙を開けた。
部屋に戻って読ませてもらう、などと言いはしたが、中身がとても気になったのである。
一読し……もう一回熟読し……膝から崩れ落ちた。
「せ、セーラ様?!」
衛兵が驚いて声をかける。
「いや、大丈夫だ、問題ない」
セーラは右手を衛兵の方に出して制止すると、ゆっくりと立ち上がった。
そして、フラフラしながら館の方に歩き始めた。
「王都……王都……王都……」
そんな言葉を呟きながら。
しばらく歩き、館の前に到着すると、決然として顔をあげ、力強く歩き始めた。
行先は、騎士団長執務室。
騎士団長執務室の前には、いつも通り、二人の騎士団員が立っている。
「ネヴィル殿に会いたい」
セーラの表情は、何かを固く決意したかのようである。
騎士団員も初めて見る表情であった。
「は、はい、お待ちください」
そういうと、扉をノックした。
「セーラ様がお見えです」
「通せ」
中から、渋い男性の声が聞こえる。
セーラは執務室の中に入った。
「おう、セーラ殿、どうした」
そう声をかける騎士団長ネヴィル・ブラック。
セーラは何も言わず、その執務机の前まで歩き、両手を机に叩きつけてネヴィルの方へ身を乗り出す。
「ネヴィル殿! 近々、騎士団は王都に上がる予定はないかね? あるだろう? あるはずだ! そうであろう?」
「と、突然どうした、セーラ殿、落ち着け」
落ち着けというネヴィルも、全く落ち着いてはいなかった。
セーラのオーラというか、その鬼気迫る感じに圧倒されていた。
「お、王都に上がる予定は……ああ、ある、あるぞ。王家が追加で購入した魔石、あれの移送を騎士団が仰せつかっている。八名で、明日出発だ。人員も選出済みだ……」
「そうか。そこに私も入れて欲しい。増加する分の旅費は、後日払わせてもらう。そう、私は剣術指南役だし、騎士団員たちがうまくやれるかも気になるからな」
「そんなこと、今まで一度もしなかったじゃ……」
「ネヴィル殿! 私が入っても問題ないな?」
「あ、はい、問題ないです」
ネヴィルは折れた。
「うむ、それではよろしく頼む。領主様には私から伝えておく」
そう言うと、セーラは素晴らしい笑顔を振りまきながら、騎士団長執務室を出ていくのであった。
「そりゃ問題はないけど……いったい何があった……」
高い評価を受け、切れ者と名高い騎士団長ネヴィル・ブラックをもってしても、その理由に思い当たる節は無かった。
本日二話目の投稿です。
前話『0126 幕間』を12時に投稿済です。
明日、再び本編です(涼も出てきます)




