0126 <<幕間>>
その日、イラリオンは、所用で前日から研究所を留守にしていた。
戻ったのは夕方三時。
当然、執務室では、おやつを囲んで女子たちがたむろっていた。
「わざわざここで食べんでもいいと思うんじゃが……」
「このソファの座り心地が何とも言えないのです」
リーヒャが嬉しそうに言う。
その笑顔を見ると、さすがのイラリオンも何も言えなくなってしまう。
「師匠、ストーンレイクからの早馬が、昨日着いていました。伝言を残していかれました。伝言は、師匠の執務机の上に」
リンが、早馬が着いていたことを伝える。
「そうか」
それだけ言って、イラリオンは、執務机の上の伝言を読む。
「……リョウだと?」
小さな呟きであったが、リンの耳にははっきりと聞こえた。
「リョウ?」
リンが思わず口に出した名前に、ハッとするイラリオン。
「しょ、少々用事を思い出した。出かけてくる。今夜は戻らんから、アベルにはそう伝えておいてくれ」
「あ、はい。行ってらっしゃい」
リンは少し怪訝な顔をしつつも、イラリオンを送り出したのであった。
イラリオンは、研究所の箱馬車を昼夜を問わず走らせた。
目的地はストーンレイクである。
「アベルが言っておった水属性魔法使いのリョウじゃ。ストーンレイクでわしの手を借りたいと? よいではないか。これでリョウとの面識が作れる! ぜひ、そのオリジナル魔法の数々を見せてもらおうではないか。フフフ、まさに僥倖。この機会、逃すものか!」
イラリオンの不幸は、箱馬車の窓を完全に閉じ、外で起きていることに全く目を向けなかったことであろう。
そのために、街道の途中で、魔法団に護衛された馬車とすれ違ったことにも気づかなかったのである。
当然、ストーンレイクに着いたイラリオンの前に、すでに涼はいなかった……。




