表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第一章 スローライフ(?)
13/930

0012 耕す……?

なんとか家に戻ってきた涼。



カイトスネークの死体は、凍らせて貯蔵庫に入れた。

蛇を食べたいとは思わない。

例え、「淡白でけっこう美味しいんだよ~」と、東南アジア帰りの大学の友人に言われたとしても、食べたくはない。


ただ、何らかの素材としては使える可能性があるし……そう、蛇皮の財布とかバッグとか、地球でも見たことがあるし……。

(かばん)……まあ、麻袋でもあんまり問題ないんだけど……何より、糸とか紐が無いんだよね。紐の代わりは蔦でやれるけど、服に蔦を使うのもねぇ」

『衣』に関しては、未だ非常に難しいスローライフinロンドの森。

『食』は、イチズクだけではなく、まるでリンゴな『リンドー』も今回の遠征で手に入った。

念願の、新たな果物である。

スローライフを送るのには、食の充実は大切!



「それにしてもカイトスネークに出くわすとは……あれはヤバかった」

毒を使う魔物に遭遇したのは、涼は初めてだった。

『魔物大全 初級編』には「毒液を吐く」としか書いてなかったのだが、まさかあれほど広範囲の、言わば毒霧を吐いてきたのは完全に想定外であった。

「散水用に作っておいた<スコール>が戦闘に役立った……ホント、何がどこで役に立つかわからないね」


空中に散布されたカイトスネークの毒を地面に落とし、流し去った水属性魔法<スコール>は、ジョウロでの水やりが元々のイメージだ。

まあ、ちょっと水の勢いと量が多くて、範囲が広いけれども。

その散水の対象は、以前とって来たイチズクを移植したもの。

森に入っていけば実がなっているのだが、ふと夜に食べたくなったりしたときに、庭になっていたらいいよねぇ……そんな軽い気持ちで植えてみただけだったのだ。


もちろん農薬も、化学肥料も、そして有機肥料も使わない自然栽培!

だって、その方が美味しいから。

決して、それらどれもが手に入らないからではない! ないったらない!

生産量を追求するのならば、大量の施肥というのは良い方法なのかもしれない。

だが、スローライフなら……そこまでの必要はないのだ。




しかし、遅々として進まない『食』の分野もあった。

稲である。

蒔いたり食べたりするための『籾』状態のお米は、かなり大量に保管してある。

全て、北の森の湿地帯で手に入れてきたものだ。

だが、涼が行いたいのは稲の改良。

そのためには、水田を作る必要がある。

必要があるのだが……例えば土属性魔法が使えれば、『耕す』というのを魔法でできるのかもしれない。


それが無くとも、鍬を作り、自力で耕すということはできるであろう。

しかし涼には水属性魔法しかない。

「土属性魔法も無く、鍬の様な農具も無く、農耕馬なども無い状態からの開墾……」

成功する絵が全く浮かばない。



とりあえず、なんとなく、水田候補地にアイシクルランスを撃ち込んでみる。

「<アイシクルランス2>」

微妙だ。

「空から落とそう。<アイシクルランス128>」

二十メートル上空に発生させた一二八本のアイシクルランスを、自由落下で水田候補地に落とす。


ズサズサズサ

突き刺さった。


「あ、うん……突き刺さる……だけだよね……。突き刺さった後に、破裂したりしないかな……」

突き刺さったうちの一本に対して爆発するイメージを……、

「その前にガードしておかないと」

結界内の、言わば庭ということもあり、アイスアーマーすら身に纏っていない。

「<アイスウォール5層>」

最も堅牢なもので、爆発(予定)物と自分の身体とを隔てる。

元々アイスウォール自体は透明なために、作業には支障はない。


改めて……突き刺さったアイシクルランスの一本に対して爆発するイメージを頭の中に浮かべる。

バキン。

爆発……というより、氷が砕けて周囲に飛び散った。


「これじゃあ耕せない……」

二本目のアイシクルランスには、もっと細かい氷の結晶に分かれて爆発するイメージを頭の中に浮かべる。

トシュン。

再び氷は砕けて周囲に飛び散ったが……先ほどよりも砕け散った氷の粒一つ一つは小さかった。

「やっぱり耕せそうにない……」



氷を破裂させる、というのがダメなのだろうか。

破裂というより、やはり欲しいのは『爆発』なのだ。


「水の爆発と言えば、水にナトリウムを入れると爆発するあの実験だよねぇ。でも、それはこの場合現実的じゃないし。そうなると、水蒸気爆発……?」

水蒸気爆発とは、マグマの様に高温な物質と、地下水などの低温な物質が接触すると、一瞬で水が水蒸気となり爆発する現象だ。

水は水蒸気になると体積が約一七〇〇倍に膨れ上がることから『爆発的に』現象が起こる。

「でも高温な物質が無いよねぇ。いや、むしろ、アイシクルランスそのものを瞬間的に水蒸気にしてしまえば、水蒸気爆発と同じような現象になるんじゃないかな」

最初に水をお湯にした時のように、水分子H₂Oそのものの振動数を増やすイメージだ。


振動数を増やしていけば物質の温度は上がる。


百度を超えると水蒸気に……。

水蒸気にさらに熱を加えると、百度を超える水蒸気、過熱水蒸気と呼ばれる状態になる。

地球では『過熱水蒸気オーブンレンジ』なども市販されている。

そういう意味では、ごく一般的な現象なのだろう。



刺さったアイシクルランス一二六本全てで試してみたが、全然爆発などしなかった。

一見、涼の水蒸気爆発は上手くいきそうな気がするが、残念ながら根本の認識も間違っているために、水蒸気爆発のようなことは絶対に起きない。

涼の化学的知識など、その程度のものだ。


そもそも、『爆発』という現象そのものが、圧力が急激に発生あるいは、圧力が急激に解放される結果、起きる現象なのだ。


氷だと……う~ん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ