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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第七章 インベリー公国
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0100 不穏

昨日の、商人ゲッコーとの顔合わせもつつがなく終了。


今日から公都アバディーンへの護衛である。

涼は、集合時刻より早めに集合場所に到着した。五分前行動は基本です。


恰好は、デュラハンからもらったいつものローブに、アベルに買ってもらった中でも頑丈で、あまり高くない服、ブーツ、そして村雨とミカエル謹製ナイフをベルトに差している。

それと、アベルと旅をした時に作った鞄を少し修正して、肩から掛けてきた。

中には、自家製ポーションの類や使うかもしれない塩やコショウといった、かさばらない調味料などが入っている。



東門近くの集合場所には、ゲッコーの十台の幌付き荷馬車と、護衛隊が揃い、出発前の点検をこなしている様であった。

「ああ、リョウさん、おはようございます」

「ゲッコーさん、おはようございます。今日から、よろしくお願いします」

そういうと、涼は頭を下げた。


商人ゲッコーは、国を代表するような大商人である。

涼のイメージだと、本店の会長席に座って指示を出しているような……。

そんな大商人みずからが、商隊を率いて国の間を行き来する。

不思議に思って、昨日ヒューに確認したら、「アバディーン~ルン間だけ、特別だ。ゲッコー殿にとっては、この間の行き来は趣味みたいなものらしいぞ」と……。

いろいろと変わった大商人らしい。

だが、人柄は善い感じなので、涼はホッとしているのだが。


「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。かのマスター・マクグラスが、戦闘力として全幅の信頼を置いていい、と仰っていましたからね。うちとしてもありがたいです。先に、うちの護衛隊長を紹介しておきましょう。マックス!」

商人ゲッコーが呼ぶと、いかにも歴戦のツワモノといった雰囲気を纏った、三十代半ばの槍士がやってきた。


「マックス、こちらが護衛に加わってくださる冒険者のリョウさん。昨日話した通り、D級冒険者だけどマスター・マクグラスのお墨付きです」

「護衛隊の隊長をしているマックスだ。聞いてるかもしれんが、うちは来るときに五人やられてな。その補充と言うことで、今回入ってもらうんだが……主に手伝ってもらうのは、戦闘になった場合と、あとは夜の見張りかなと思っている。まあ、二十日前後は一緒に移動することになるし、いろいろあると思うが、よろしくな」

そういうと、マックスはリョウと握手をし、準備へと戻っていった。


「まあ、あんな感じですが、ここ五年、うちの護衛隊を取りまとめてくれています。大抵のことを問題なくこなす、優秀な奴ですよ」

ゲッコーはそう言って、マックスを褒めた。

涼としても、すごくとっつきにくい人が護衛のトップだったらどうしようとか、少しだけ考えていたので、見た目常識的な人物で安心した。


その後、涼はゲッコーと荷物や、途中の街、街道の事などを話した。

ちなみに、荷物の時には『魔石』の事は全く出なかった。

安全面を考えれば当然かもしれない。

ギルドマスターが推奨した冒険者とはいえ、貴重な情報は、知る人が少ない方が安全性は高まる。

知らせる必要が無ければ知らせたくないであろう……。


ラーたち『スイッチバック』も到着し、一行はルンの街を出て、一路インベリー公国公都アバディーンに向かって出発したのであった。



涼は、ラーたちとまとめて、五台目と六台目の馬車の周辺に配置されていた。

ルンの東門を出て進む道は、途中まではカイラディーに向かうのと同じ街道である。

家の近くも通り、涼にとって、そこは通い慣れた道。


だが、そんな道で、一行は早馬とすれ違った。

「今のは、領主館の早馬だな」

すれ違った後、ラーが言う。

「少し気になるけど、あたしらには関係ないっしょ」

軽く言ってのけたのは、『スイッチバック』の斥候スーである。

年齢は二十四歳、ダークブラウンの髪を後ろで結び、黒い目はきょろきょろとよく動く愛嬌のある女性である。

年齢が確定しているのは、涼に対してわざわざ言ったからだ。

「私の方がお姉さんだからね」

とわざわざ言ったことから、お姉さんぶりたいのだと思われる。


だが、走り去った早馬……残念ながら関係なくは無かった。



早馬とすれ違ってから三時間後。

一行は、昼食休憩を取っていた。

街にでも泊まらない限り、食事は保存食が基本となる。

護衛依頼の場合、多くは雇う側が食事を準備することになっており、今回もゲッコーの部下たちから干し肉などが配られた。


そんな休憩を取っている時、ルンの方から馬が走ってきた。

見張りをしていた護衛隊員が、馬に乗ってきた者を連れて、ゲッコーの方に向かっていくのが涼たちからも見えた。

「今のは……ルンの街の冒険者だぞ?」

「え?」

ラーの呟きに、涼は思わず反応する。


隊の前方では、その冒険者が手紙を出し、ゲッコーに渡している。

ゲッコーは一読し、手紙を護衛隊長のマックスに渡すと、冒険者に向かって言った。

「マスター・マクグラスに、手紙、しかと受け取りましたとお伝えください」

その答えを聞くと、冒険者は馬に乗り、ルンの方へと走り去った。



それを見送った後、ゲッコーとマックスはラーたちの方へやってきた。

「ラーさん、今の方、見覚えありますか?」

ゲッコーは、ラーに問うた。

「はい。ルンの街のD級冒険者、シュスナカでしたね。それが何か?」

「やはりそうですか。となると、この手紙は確かにマスター・マクグラスからの手紙で間違いなさそうですね」

ゲッコーがそう言うと、マックスが持っていた手紙をラーに渡した。


「東街道のロー大橋が崩落? これは……」

「ルンの街を出てすぐのところですれ違った早馬がもたらした情報だそうです。我々はロー大橋を通る予定でした。ルン、ロー大橋、スランゼウイ、ハルウィル、そして国境の街レッドポストという、いわゆる東街道ですね。ですが、ロー大橋が通れないとなると……ルン、カイラディー、旧街道、スランゼウイ、ハルウィル、レッドポストになります。正直、現在の旧街道は、東街道に比べて治安に不安があります。その点を、皆さんにも意識していただきたいと思いまして」

「わかりました」

『スイッチバック』の面々と涼は大きく頷いた。



カイラディーで一泊した一行は、いよいよ旧街道に入った。

南部にある辺境最大都市ルンと、王国東部第二都市スランゼウイを、ロー大橋経由で真っすぐ繋ぐ東街道が出来て以降、旧街道を通る人の数はかなり減っていた。

それでも、かつては東部交易の中心街道の一つだっただけあり、道の広さはそれなりのものである。


「このカイラディーから、東部第二の都市スランゼウイまでだいたい五日。途中、泊まれるような宿はないんだ」

ラーは、隣を歩く涼に説明をしていた。

「この道が、賑わっていた頃は途中の村もけっこう発展して、宿場町みたいになってたらしいんだが……今はもう農村ばかりになったからな」

「世知辛い世の中ですね」

ラーの説明に、涼は小さく首を振りながら世の無常を嘆いた。


「とはいえ、この商隊、ゲッコーさんとその部下だけで二十人、護衛隊と俺らで二十人、合計四十人の大所帯だからな。どうせ、小さな宿じゃ泊まりきれん」

ラーはそういうと、小さく肩を竦めた。

涼に比べてはるかに冒険者としての経験を積んだラーから見ても、この四十人の商隊というのは多いらしい。


「人数が多いし、護衛が多いのも見せながら移動しているから、盗賊も襲ってこないかもな」

「盗賊!」

ラーが、涼を安心させるように言うと、涼は少し大きめな声を出した。

だがそれは、決して、盗賊に襲われる恐怖からというものではなく、「異世界モノと言えば盗賊に襲われて、それを返り討ちにするのが定番だよね!」という、涼の中の勝手な異世界転生もの像に合致したからというだけである。


「いや、だから盗賊は襲ってこないかもな、って。まあ油断は禁物だけどな」


この王国東部の地理は、この『第一部 中央諸国編』の最後まで、それなりの回数出てくるので、触れています。

もちろん、そんなの気にしないで読んでもらっても大丈夫です!

(ただの筆者の言い訳です……)

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