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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
間章 帝国パート
106/930

0098 オスカーvsローマン

そして一時。

昼食と休憩を終え、再び演習場。

勇者パーティー七名と、フィオナ、オスカーそしてユルゲンがアリーナにいた。

演習場脇に待機している救護小隊を除くと、他は全員観客席である。


「立ち合いは、私、ユルゲン・バルテルが行います。即死攻撃は不可。降参、気絶、戦闘継続不可能と立ち合いが判断した場合に試合終了とします」

「では、私は観客席から見させてもらおう」

そういうと、フィオナは観客席の方に歩いていく。


「では我々も……」

そうグラハムは言い、勇者を除く勇者パーティーの面々が観客席に歩いて行こうとしていた。

「いや、あなた方は戦わないとダメでしょう」

オスカーは言い放った。


「は?」

調子の外れた声で聞き返したのは火属性魔法使いのゴードンである。

「七人で勇者パーティーなのでしょう? ならば全員で戦わないと意味が無いでしょう」

「いや、あんた、自分で言ってることわかってる?」

ゴードンが噛みつくように言い返す。


「ゴードン、言葉に気をつけなさい」

グラハムはたしなめ、そして言葉を続ける。

「ですがオスカー殿。ゴードンの言う事ももっともです。七対一では、いくら爆炎の魔法使いと言えども、まともな試合にはならないかと」

「先ほどの七対七、途中から拝見させていただきましたが、皆さんの実力が『あの程度』なら、どちらにしろまともな試合にはならないでしょう」


オスカーは肩を竦めながら口もへの字にして言い放った。

当然、勇者パーティーの一部から怒気が吹き上がる。



「副長さん、ちょ~煽ってるよ」

「団体戦のオープニング砲撃といい、この師団の人って煽り上手よね」

斥候モーリス、風魔法使いアリシアが男たちに聞こえないように囁き合っている。

それを聞いたエンチャンターのアッシュカーンも、無言のまま何度も頷いた。



「おもしれぇ! やってやろうじゃねえか! ローマン、俺が最初に出る。手を出すなよ!」

「七人でも難しいと言っているのに、一人では話にならないかと……」

ゴードンが叫び、それに対してオスカーは冷たく返す。

「うるせぇ! それは俺らが決めることだ。おい、立ち合い、早く始めろ」

「はぁ……。副長もわざわざ煽らなくても……。まあいいです。ではお互い位置についてください」

立ち合いのユルゲンは深く、深く溜息をつきながらお互いを開始位置に誘導する。



「それぞれ準備はよろしいですね」

オスカーは演習場備え付けの、刃の潰された剣を右手に持ち、対するゴードンは魔法使いの杖を構えている。

「では、試合開始」

「死ね! <ブレイドラングトライデント>」

ゴードンが唱えると、杖の先から三本の炎が渦を巻きながらオスカーに向かう。

ゴードンが持つ、対個人用最強呪文である。


開始直後に最強攻撃。


何もさせずに倒すつもりであった。

というか、城壁にすら穴を開ける炎の渦、普通の魔法使い相手であれば即死である。


だが……オスカーは普通の魔法使いではなかった。

自分に迫る炎の渦を、右手に持った剣で、無造作に横から払った。

それだけで、炎の渦は消滅したのである。

「馬鹿な! ありえるか!」

叫んだのは、もちろんゴードン。

「この程度……児戯に等しい。<炎塊>」

「ぐはっ」

気付けば、ゴードンのみぞおちに、人の拳大の炎の塊がぶち当たり、ゴードンはたまらず悶絶した。


「今、一体何が……」

聖職者グラハムが小さく呟く。

ゴードンの腹にめり込んだ炎の塊は、すでに消えている。

間違いなく、何らかの魔法なのだろうが……グラハムの目には、魔法の発生も、その軌道も、全く見えなかったのである。

「何だろうと、あんなの、もらいたくないです……」

風魔法のアリシアが、グラハムの後ろに隠れながら呟いた。



「みんな! 僕に強化魔法を」

勇者ローマンの声に、パーティー一行は我に返った。

「<パーティーヘイスト><エンチャントウインド>」

「<聖なる鎧>」

「<身体強化>」

「<風の守り>」

エンチャンターのアッシュカーン、聖職者グラハム、土魔法のベルロック、そして風魔法のアリシアそれぞれが、魔法によってローマンを強化する。


「なるほど、それがエンチャントか。確かに中央諸国には無いな」

オスカーは焦ることなく、ローマンたちのやることを見ている。

その余裕は、ローマンに、いやがおうにも悪魔レオノールを思い出させた。

ローマンは、数回、強く首を振ってレオノールの記憶を頭から追い払う。



「行きます!」

そう言ってローマンは突っ込んだ。

大きく振りかぶった聖剣アスタルトを、オスカーの肩口に振り降ろす。


カキン


硬い金属に当たったかのような音を出し、大きく弾かれた。

「え?」

思わずローマンの口から驚きの声が出る。

「どうしました勇者殿。剣士である以上、相手に剣が届かねば勝てませんよ」

オスカーが再び煽る。

それに反応するかのように、ローマンが聖剣アスタルトで、


斬る。斬る。斬る。

カキン カキン カキン


だが、全ての斬撃がオスカーの表面を覆う何かに弾かれる。

「むぅ」

ローマンは思わず呻いた。



「なにあれ、なにあれ、なんなのあれー!」

ローマンの斬撃の全てが、オスカーの身体の表面で弾かれる様は、勇者パーティーからもはっきりと見えていた。


勇者ローマンの剣はただの剣ではない。

西方諸国に生まれた代々の勇者に受け継がれてきた、聖剣アスタルトである。

その聖剣の斬撃が、剣や鎧、あるいは盾などによらずして弾かれているのだ。

斥候モーリスでなくとも驚くであろう。



「あれは、魔法障壁と物理障壁を重ね合わせたもの……」

風魔法使いのアリシアがモーリスに対して説明した。


「物理障壁? 剣とか矢とかの物理攻撃を防ぐ魔法よね。でもあれって、簡単に割れちゃうじゃん。矢くらいしか防げないでしょ。近接戦だと、もう、今どき使う人なんていないんでしょ?」

「簡単に割れます。およそ実用的ではないので、近接戦で見ることなど、ほとんどないですね。もしかしたら、中央諸国の物理障壁は硬いという可能性も……」

モーリスの確認に、頷いて肯定するアリシアだが……。


「でも、立ち合いの副官くんも、ちょ~驚きの表情で副長さんを見てるから……」

「ええ。中央諸国だから硬い、というわけではなさそう。あの副長、オスカー殿の障壁が異常なだけみたい」

二人の隣では、無言のままエンチャンターのアッシュカーンが、食い入るように戦闘を見つめている。


「でも、剣が弾かれるってことは、ローマン勝てないんじゃない? それって卑怯じゃない? 副長さん、渋くてイケメンで雰囲気あるけど、ローマン勝てなくない?」

「うん、モーリスがあの系統の人が好きなのは知ってるけど、他国の重要人物だから手を出さないでね。まあ、あの物理障壁は厄介だけど、そもそも物理障壁って、魔法障壁と比べてもおそろしく魔力消費が激しいのよ。使われなくなった理由は、それもあるの。だからあの物理障壁もそんなに長く続かないと思うのだけど……」



「剣士対魔法使いの模擬戦ということで、魔法使いにしかできない技を使ってみました。お気に召しましたか」

オスカーはほんの僅かに口角を上げて、ローマンに言い放った。


「これは一体……」

「ただの魔法障壁と物理障壁です。無属性魔法なので、魔法使いなら、誰でも生成できるやつですよ」

「それにしては硬すぎる」

オスカーの大したことは無いという説明に、呆然と答えるローマン。



魔法障壁も物理障壁も、どちらも知ってはいる。

だが、これほど硬い障壁など聞いたことも無い。

「私の障壁を破れないようでは、魔王の障壁は破れないんじゃないですか? 勇者ともあろう者がそんなことではダメでしょう?」

この期に及んでも、さらに挑発するオスカー。

「くっ」

悔しそうに顔をしかめる勇者ローマン。



だが、数瞬後、表情が一変した。腹をくくったのである。

「突き刺してしまったらすいません」

そう言い放ち、ローマンは自分が持てる全ての気力と魔力を聖剣アスタルトに込め始めた。


「そういうのは、突き破ってから考えればいいことです」

表情を変えることなく待ち構えるオスカー。

「いきます!」

ローマンは一気に距離を縮めると、渾身の突きを放った。


カキッン


オスカーの障壁にヒビが入る。だが破ることは出来なかった。

しかも、瞬時にヒビが修復され、元に戻る。


「馬鹿な……」

ローマンの口から思わず言葉が漏れた。

そして、全力で突きを放ったために身体を支えることが出来ず、片膝をついた。



その首筋に、ゆっくりとオスカーは持っていた剣を当てた。



「そこまで! 勝者オスカー副長」

その瞬間、立ち合いのユルゲンの声が演習場に響き渡った。

そして師団員たちの割れんばかりの歓声がこだまする。


昨日からの連敗……いかな勇者パーティーが相手とはいえ、やはり師団員の心には思うところがあったのであろう。

初の勝利をもたらした副長オスカーを見る師団員たちの目には、信仰とすら言える光がともっている者すらいた。



「ローマン殿、若いあなたは、まだまだ強くなれます。頑張ってください」

「オスカー殿、勉強になりました。本物の魔法使いの前では、何もできないということを再び知りました。ありがとうございました」

勇者ローマンは、心の底から感謝した。


「ああ、そうでした。以前ローマン殿が完敗したという魔法使いについて聞かせていただけますか?」

「もちろんです。その者はレオノールと名乗る、女性? いや多分人間では無いのでしょうが、初めて見る種族でした。今日は、オスカー殿の障壁で私の剣は全て防がれましたが、レオノールは私の剣を全て避けきりました。それも余裕で」


ローマンは、レオノールとの戦闘を思い浮かべながらオスカーに話して聞かせた。


「レオノール……知らない人の名でした。覚えておきましょう」

ふむ、と言いながらオスカーは一つ頷いて話を打ち切ろうとした。

「あの、オスカー殿。オスカー殿が最初に思い浮かべていた魔法使いは、いったいどなたなのでしょうか? もし差し支えなければ教えていただけないでしょうか」


「……ナイトレイ王国にいる水属性の魔法使いです。奴とはいろいろありましてね。これ以上言うつもりはありません。あしからず」

そういうと、オスカーは観客席から降りてきたフィオナの元へと歩いていくのであった。


間章終了です。

次話『0099 インベリー公国』より、新章となります。


そして、初めてのレビューをいただきました!!

新大宮さん、ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!

(嬉しいことなので三回言いました)

レビューを貰うのは、この作品を投稿し始めた時からの、目標の一つでした…。


これからも投稿し続けますので、皆さま、お見捨てなきよう、よろしくお願いいたします。


追記:オスカーの最後のセリフを少し修正しました。それに関連して、他の部分も今後、いじる可能性はあります。

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『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
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