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帰路、真実は胸の中に

 こんばんは!明日は100話まで5話なので、カウントダウンとかしてみようかしら?と思ったり思わなかったりしています!

 本格的に暑くなってきたので皆さん、健康にはお気を付けくださいね!

 陰陽寮を出てしばらく無言で歩く。前ではティルフィング楽しそうに足を進め、浄玻璃鏡は後ろでふわふわと浮いている。双魔と鏡華は並んで鴨川への道を歩いている。


 「ねえ、双魔」


 ちょうど鴨川沿いの道に出た時、鏡華が沈黙を破った。


 「ん?何だ?」


 呼び掛けられたからといって足は止めない。何となく空を見上げながら川沿いを歩く。


 「怨霊鬼の正体、もう分かっているやろ」

 「………………」

 「何も言わへんってことは当たり?」


 双魔は空から鏡華へと視線を移した。月明りに照らされた白い肌が美しい。顔には悪戯っぽい、茶目っ気のある笑顔が浮かんでいた。


 「……ばれたか」

 「うん、うちは閻魔さまの申し子。うちに嘘つくなんて千年早いよ」

 「ん、そうか……まあ、あの場で言ってもよかったんだけどな」

 「”死者にも尊厳がある無暗に傷つけることはない”言うことやろ?双魔のそういうところ、好きやわぁ……ふふふ」

 「いちいち……からかうんじゃない」

 「からかう?うちはほんとのこと言ってるだけやもん。それで?怨霊鬼の正体は?」


 ぶっきらぼうに返されても鏡華は全く意に介さない。やはり、二人きりではないので心に余裕があるのだろうか。


 「まあ……”大将軍の後裔”なんて言われたら嫌でも気づくだろ」


 怨霊鬼はあの時はっきりと”大将軍ノ後裔”と双魔に言った。そして、怨霊鬼にやられたのは騒速と契約している坂上鈴鹿だ。最早、双魔は怨霊鬼の正体に疑いの念など一かけらも持っていなかった。


 「……鏡華、お前も怨霊鬼の正体はもう知ってるだろ。しかも、俺より確実な真実としてだ」


 予想外の切り返しだったのか、それとも予想内だったのか。双魔には判断できなかったが鏡華は意外そうな顔をした。


 「あらぁ……どうしてそう思うん?」

 「はあ……俺はそれも込みで”からかうんじゃない”って言ったんだ。使っただろ?玻璃の力を」

 「ほほほ、バレた?堪忍なぁ……」


 時は川原にて双魔が怨霊鬼に弾き飛ばされた瞬間に遡る。


 『ぐっ!ガぁ!』


 雪の上に転がった後、体勢を立て直した瞬間だった。


 (ん?今のは……)


 目の前の怨霊鬼から意識は一切逸らさなかったが双魔は遅れながらも浄玻璃鏡の力が発動したことに気付いていた。


 この場面で鏡華が使うとしたらどのような用途で使うかも察しがついた。


 一方、鏡華は双魔の振るうティルフィングと怨霊鬼の長剣がぶつかり合ったタイミングで浄玻璃鏡の権能を発動させていた。


 『みかがみにうつりしかげはまことのみげんぜばんしょうひがとはなく』


 両の瞳を閉じて詠唱を行う。詠唱と共に浄玻璃鏡の鏡面に幾重にも波紋が浮かび、波打っていく。同時に浄玻璃鏡の剣気が鏡華の全身を包む。


 『心眼鏡面(しんがんきょうめん)看破(かんぱ)』


 静かに言い放つと鏡面の波紋が収まる。閉じていた瞳を開く。開眼したその瞳の色は暗褐色ではなく浄玻璃鏡の鏡面と同じく紫に輝いた。


 この時、鏡華の瞳には真実しか映らない。


 浄玻璃鏡の基本的な権能は二種類。


 一つは先ほど鵺に使った「偽りを暴き真実を晒す力」。そしてもう一つは「真実を見る力」である。


 数瞬、視線を怨霊鬼に集中させる。すぐに瞳を閉じる。鏡華の脳裏には過程を通り越して「怨霊鬼が何者なのか」という純然たる事実が浮かび上がる。それを把握、理解して目を開くと双魔は雪の上に転がっていた。


 その後、双魔の様子から何かを掴んだことには気づいていたが、双魔が話す気がないようだったため鏡華も黙っていたのだ。


 「ん、別に気にすることはない……怒ってるわけじゃない」

 「そ?せやったらよかった」

 「ただ……」

 「ただ、何?」

 「山縣の相手は鏡華がした方がいい……いや、鏡華がするべきだ」


 その双魔の言葉に鏡華は笑みを引っ込めて真剣な面持ちで頷いた。


 「うん、せやね……人の命を弄び、死者を弄ぶ……そんな相手はうちが処断する」


 鏡華の暗褐色の瞳が強い意思に輝いた。


 「ん、まあ、今日はさっさと帰って寝るか。左文も心配してるだろうし」


 視線を鏡華から前に戻す。すると、左手に温かいものが触れる。そして、そのまま左手全体が温かさに包まれた。


 「…………」


 特に何か言うこともなく隣を見ると鏡華が平然とした顔で歩いている。と、思いきややはり照れ臭いのかほんのりと頬が赤い。


 ティルフィングは振り返る様子もなく身体を揺らしながら先を行く。浄玻璃鏡も空気を読んだのかいつの間にか消えていた。


 「…………」


 双魔は握られた手を優しく握り返す。そのまま、月に照らされて地面に映し出された二人の影は六道の屋敷に着くまで一つになったままだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「ええ、ええ!今のところ山縣さんはご主人様のご期待通りの成果を出していますわ」


 京の夜、何処かの楼閣の頂上。月下に咲く一輪の華の如く、蒼き少女が優雅に立っていた。


 蒼玉の瞳で灯り多く、されど妖魔の賑わいを失ったままの街を見下ろしている。


 ゆるゆると長き髪を風に遊ばせながら、楽しげに話す少女。しかし、少女はただ一人。周りには人影など一つもない。


 それでも、少女は何者かと言葉を交わす。ここにはいない遠く離れた誰かと。


 「お姉様もいらっしゃるので山縣さんは捕えられてしまう可能性が高いと思いますわ……」


 得体の知れない誰かの話を聞いているのか、少女はしばらく沈黙して首を縦に振って相槌を打った。誰が見ているわけでもないのに愛嬌を振りまいているようだ。


 「ええ、はい!分かりました!ご主人様のご命令ですもの!必ず成し遂げて見せますわ!私にお任せください!」


 少女は満面の笑みを浮かべる。もし、少女に子犬のように可愛らしい尻尾がついていたなら、それを千切れんばかりに振っていただろう。


 「それでは明日、またご連絡いたしますわ!おやすみなさいませ」


 会話が終わると少女は楼閣の狭い屋根の上でクルリと華麗に一回転した。


 ふわりと持ち上がったドレスの裾を摘まんで夜の街に向けて一礼。


 「フフフフフ……お姉様、それに魔術師さん……お会いできるのを楽しみにしていますわ」


 少女の身体は蒼炎に包まれるとその姿を揺らめかせ、陽炎の如く夜闇に溶けて消えた。


 見上げるほどの高所にて、刹那に生まれ、瞬く間に消えた蒼き光に気づく者は誰一人いなかった。


 いつも読んでくださってありがとうございます!よろしかったら評価していってください!レビューやブックマークもお待ちしています!

 今日も一日お疲れ様でした!それでは、良い夜を!

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