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魂亡き者たち

 こんばんは!書き貯めが減ってきてちょっと冷や冷やしている今日この頃です…………頑張って書いていきたいと思います!

 「双魔……あれ……なんやろ?」


 紅に凍てついた鴨川。その堰き止められた流れの中からじゃぶじゃぶと音をたてながら幾つもの人影がこちらに向かってくる。


 ずぶ濡れの服を引きずりながら、機敏な動きであっという間に双魔たちは包囲されてしまった。


 「こいつらは……まさか……」


 双魔は目を剥いた。声が出ない。自分たちを囲んでいる者たちを見ると只々、自分の目を疑うしかなかった。


 取り囲む人影は全部で十五、六ほどだろうか。全員が生者と死者の気を併せ持つ奇妙な状態で、その手には一振りの、または二振りの刀が握られている。


 弱々しくも剣気を放っている故、鏡華の話にあった御伽噺級遺物なのだろう。


 そして、その服装、顔が双魔を驚かせた最大の理由だった。


 (似ている……いや、まさか本人なのか!?)


 ゆらゆらと身体を左右に揺らしながら刀を構える者たちが身に纏っているのは陰陽寮の制服、それと二条の武官の制服だった。


 加えて、双魔の目の前の三人は剣兎と檀に見せてもらった行方不明者リストに載っていた顔と全く同じだ。


 「…………」

 「…………」


 そのうち二人が一言も発することなく斬りかかってきた。流石は二条の武官と言ったところか、淀みない足運びで一瞬で距離を詰めてくる。


 「くっ!」


 大上段、胴切りと縦横からの同時攻撃。鏡華を守りながら受けきるのは厳しいと判断した双魔は胴を狙ってきた方に軽く剣気を放った。


 「…………」


 濡れた服の両袖が凍りついて動きが鈍くなる。その隙に素早く振り下ろされる刀を受ける。


 「フッ!」


 キンッ!


 ティルフィングと相手の刀がぶつかり合い激しい火花が生じる。


 「…………」


 武官の見開かれたままの虚ろな眼が照らされた。


 「シッ!」


 押し込まれた刀を弾き返すと、攻撃を防がれた二人はじりじりと構えを解かないまま元の位置へと戻っていった。


 ちらりと、横目で無精髭の男を見ると腕を組んで何を考えているのか読み取れない穏やかとも取れる視線をこちらに向けている。どうやら、まだ逃げる気はないようだ。


 「双魔」

 「ん、何だ?」


 双魔の腕に抱かれたまま黙っていた鏡華が静かに口を開いた。


 「もし……倒す言うんなら、手加減はいらへんと思うよ」


 相手の状態がはっきりとしない今の状況で双魔はかなり手加減をしてティルフィングを振るっていた。もし、操られているだけならば助けることを前提に動く必要があるからだ。


 しかし、鏡華はきっぱりと手加減無用と言い放った。


 「……理由は?」

 「うん、この人たち、もう、魄(はく)しか残ってへんから」

 「…………何……だと?」


 人間は二つの要素で動いている。これは万国の多くで共通する神秘的、魔術的思考である。


 東洋、主に日本と中国ではこれを”魂魄(こんぱく)”と呼ぶ。


 ”魂”は主に精神力を指し、”魄”は肉体を動かす力を指す。


 ”死”という概念は肉体から”魂”が抜け出し、”魄”が消滅した状態を指す。


 それでは鏡華が言った”魄”のみが器たる肉体に残された場合どうなるのか。


 それは、もはや”生ける死体”というほかない哀れな存在になり果てることを意味する。


 方法に見当はつかないが無精髭の男が彼らに何かをしたのは瞭然たる事実だ。


 「アンタ、この人たちに何をした!?」

 「へへへ……そいつは後のお楽しみでさぁ。まずはあっしの実験に付き合ってくださいや」


 双魔の問いにまともに取り合う気はないのだろう。髭に覆われた唇を曲げると軽く手を上げた。


 「「「…………」」」


 それを合図に双魔たちを取り囲む全員が意思の失われた、悲しき身体をゆらりと動かして刀を構えた。陰陽寮の制服を纏った者たちは小刀を手にしたまま印を結ぶ。


 「…………さて、どうするか」

 「うん……傷つけるのは…………」


 死して尚、辱めを受ける彼らに何をしてやれるのか。双魔と鏡華の胸は苛まれる。


 しかし、迷っている暇など与えられない。


 包囲の輪はじりじりとその大きさを小さくなっている。


 そして、双魔の右斜め後ろ、丁度ぎりぎり死角になっている位置にいた武官が背後から斬り掛かろうとしたその時。


 「オラァ!」


 猛々しい雄叫びが聞こえたかと思うと双魔に斬り掛かろうと踏み込んだはずの武官が宙を舞った。


 ドシャッと音をたてて雪の上に頭から落ちた。首の骨が不自然に折れ曲がり、身体がビクンビクンと痙攣している。


 「は?」


 無精髭の男が間抜けな声と共に口をあんぐりと開けて呆然とした。


 「オイ!双魔!鏡華!気合い入れろ!コラァ!」


 いつの間に駆け付けたのか、双魔たちの横に歩み出たのは待機しているはずの鈴鹿だ。


 橙の剣気を全身に纏い、憤怒の形相を浮かべている。


 手にはやや内反気味、細身で重厚な直剣、鞘から抜かれた騒速(そはや)が握られている。


 「鈴鹿先輩!」

 「話は端末越しに聞いてたぜ…………仲間たちの命をコケにしやがって!ぜってぇ!許さねえ!」


 騒速の切っ先を無精髭の男に向けて怒気の籠った声を出した。


 「鈴鹿さん…………」


 歯を食いしばり、肩を震わせて沈痛な表情を浮かべる鈴鹿に双魔はそれ以上何も言えなかった。


 「ああ、双魔。仲間のこと気遣ってくれて嬉しいけどよ…………こうなっちまった以上しょうがねぇ……悪いが動かなくなるまでブチのめして、そのあと供養してやるしかねぇよ」


 そう言った矢先、鈴鹿に吹き飛ばされた武官が不自然な首のままムクリと起き上がって刀を構えた。


 「…………分かった。でも、彼らの身体は丁重に扱いたい。俺にはそれができる」


 双魔の言葉に、氷漬けになった鵺を見ていたからだろうか。鈴鹿はすぐに頷いた。


 「よし、じゃあ、あいつらはお前に任せたぜ……ワタシはあいつをとっ捕まえてボコボコにしてやる!」


 言い終わらないうちに鈴鹿は無精髭の男へと突進を開始する。


 「へへっ!そうはいきやせん!」

 「ちっ!」


 一瞬で距離は縮まるが男は殊の外機敏な動きで突っ込んできた鈴鹿を躱す。


 「「「…………」」」


 その隙に物言わぬ武官と陰陽師たちが鈴鹿に攻勢を仕掛けようとする。が、地面から突如出現した蔦に身動きを封じられる。


 双魔が召喚した蔦だ。


 「ハッ!」


 短い声と共にティルフィングの剣気を放ち、蔦に絡めとられた三人の身体を傷つけずに氷塊へと封じ込める。


 「おう!やるじゃねぇか!ワタシも負けてらんないぜ!」


 鈴鹿は男を追跡する。しかし、また同じように武官たちが間に割って入る。


 それを同じように双魔が蔦で動きを封じてそのまま冷凍する。これで残りは十人を切った。


 同時に包囲が完全に解けた。男を守ることに目的が変わったのか、皆揃って鈴鹿を追おうとする。


 「…………ハァ!」


 また二人を蔦で絡めとり、剣気で氷塊に閉じ込める。


 大きな一撃でまとめて動きを封じることも出来なくはないが鈴鹿を巻き込んでしまう可能性がある。


 こちらに向かってくればまだ、対処の仕方も変わってくるがこの状況では仕方がない。


 一方、鈴鹿は男を追って川の向こう岸に渡っていた。


 取り逃した内の三人が鈴鹿に肉薄し、二人が前に立ち塞がった。今度は鏡華が包囲される状況に陥った。


 「鈴鹿さん!」

 「おう、大丈夫だ!…………お前ら悪いな…………いつになるか分からないけど……」


 双魔の呼び掛けに答えた鈴鹿は一瞬動きを止めた。好機と見た五人が一斉に斬り掛かった。


 「あの世に行ったら直接謝るから許してくれよっ!オオオオオオォ!」


 悲痛な雄叫びを上げて円を描くように身体を高速で一回転させて騒速を振るう。


 刀を握った腕が切り飛ばされて宙を舞う。


 血飛沫が鈴鹿の全身を緋色に染め上げる。


 「シッ!」


 そのまま姿勢を低くしてもう一回転。十本の脚が胴から切り離される。


 「「「…………」」」


 支えを無くした魂無き五つの体躯が雪の上に転がる。


 残っていた二人がを封じつつ、双魔が目にした鈴鹿は泣いていた。


 瞳から流れ落ちる大粒の涙は浴びた血と混じり、月明りを受けて柘榴石の如く輝いた。


 「オオオオオオォォオ!」


 自ら斬り捨てた仲間たちの屍を飛び越えて、鈴鹿は逃げる男に迫る。


 二十歩、十五歩、十歩と距離を縮め、残り五歩まで近づいた時だった。


 鬼気迫る鈴鹿の姿を見ていた鏡華が突然声を上げた。


 「っ!?鈴鹿先輩!危ない!!」


 鏡華の叫び声に鈴鹿は気付かない。双魔も何が起こったのか分からなかった。


 「ぐっ!があああああああああぁぁぁ!」


 悲鳴と共に鈴鹿の身体が宙を舞った。


 いつも読んでくださってありがとうございます!

 よろしかったら評価していってください!レビューやブックマークもお待ちしています!

 それでは、良い夜を!

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