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ないクジ運も空気を読んだ

 最後の六十名の発表に出場が決定していない生徒は音を立てて唾を飲み込み、それ以外の生徒たちも静かに見守る。もう五度目となる陳腐な演出の後に画面に最後の六十名の名が映し出された。そしてその場は再び喧騒で満たされた。


 「よし!俺も参加決定だ!」

 「やったわ!あたしにもチャンスがっ!」

 「やっぱり駄目ね……私は持ってない女なのね」

 「また……来年に賭けるしかないな」


 出場資格を得た生徒、得られなかった生徒と様々な反応を見せる。


 (……まさかとは思うが当たったりしてないだろうな)


 そう考えながら上から映し出された名前を見ていく。


 「…………」

 「あった!」


 無言で自分の名前がないことを確認する中、アッシュが声を上げた。


 「……まさか」


 双魔は強烈に嫌な予感に襲われる。いや、それは予感などではなく確信だった。


 「あった!あったよ双魔!双魔の名前!」

 「……アッシュ、嘘だと言ってくれ」


 双魔の背中からは冷や汗が噴出し自分でも分かるくらいにシャツが濡れている。


 「嘘なんかじゃないよ!ほら、下から八番目!」

 「……最悪だ」


 映し出された生徒たちの名前、その下から八番目には確かに、はっきりと、見間違えようもなく”伏見双魔”の名前があった。


 「やったね!双魔!これで一緒に評議員になれるかも!違う、双魔なら間違いなしだよ!」

 「……面倒だ…………どうしてこうなるんだ」

 「僕も頑張らなくっちゃ!」


 魂が抜けたように立ち尽くす双魔とぴょんぴょんよ嬉しそうに飛び跳ねるアッシュの二人がとても対照的であった。


 双魔の出場決定に沸いたのはアッシュだけではなかった。双魔本人は普段から全く興味もなく、知る由のない上に失意のどん底と言っても過言ではないような状態でぶつぶつと


 「……面倒だ……面倒だ」


 と繰り返し呟いているが一部の場所、魔術科の女子たちが黄色い悲鳴を上げていた。


 「伏見先生が選ばれたわ!」

 「これは絶対に見に行かなきゃ!」

 「私、選挙に出たいと思ったけど伏見先生の雄姿が見られればそれで満足しちゃうかも!」


 キャッキャッと騒ぐ女子たちとは裏腹に澄ました顔を保っている生徒が一人。イサベルだ。とは言え双魔が気になるのは他の女子生徒たちと変わらないのか普段は見せないソワソワと落ち着かない様子で本人の気持ちに反応しているのか横に生えやした尻尾が忙しなく揺れているように見える。


 そんなイサベルにいつもの三人娘の内の一人、梓織が背後から声を掛けた。


 「あらあら、やっぱり伏見君が選ばれたのが嬉しいのかしら?」

 「っ!?い、いきなり声を掛けないで!吃驚するでしょ!」


 ビクッと身体を揺らしてから勢いよく振り向く。


 「いつもなら近づくとすぐに気が付くでしょう?」


 ころころと笑って見せる梓織にイサベルもすぐに頭を冷やした。


 「あの人が選ばれたのは喜ぶべきことだわ。本人は今頃面倒だとか何とか言ってぼやいているでしょうけど、実力のあるものは相応の地位に就く義務があるもの」

 「またまた、”あの人”なんて他人行儀に……この前みたいに”双魔君”って呼べばいいのに」

 「な!?」


 イサベルの顔が赤く染まる。それを見た梓織がまたころころと楽し気に笑う。


 「かっ、からかうのもいい加減にして!」

 「あら、怒ったかしら?いつもそうしてれば可愛いのに……それにしても」

 「何かしら?」


 「伏見君ってばいつの間に遺物と契約したのかしら?遺物科の出場資格は遺物と契約してることが第一条件でしょう?そんな話聞かなかったのだけれど……イサベルは知っていたの?」


 「ええ……この前聞いたわ」


 その言葉に梓織が食いついた。


 「え?本当に!いつ聞いたの?伏見君の契約遺物さんには会ったの?」


 普段のお淑やかな雰囲気だが梓織は興味のある話にはグイグイと押しが強くなる。今もイサベルに詰め寄っている。


 「会ったというか、あなたも姿は見ているはずよ。この前……私が暴走したときに……」


 それを聞いた梓織は思い出しているのか頬に手を当て、目を瞑って「うーん」と唸っている。


 「あなたねえ、そんなに前のことじゃないでしょう」

 「あの時はあなたが倒れたりするからそっちの方に記憶が偏ってるのよ……うーん……あ!思い出したわ。あの伏見君と手を繋いでた黒髪の小さいかわいい子ね!」

 「その子よ。聖呪印も見せてもらったわ」

 「……まあ、色々言いたいことはあるけれど今は言わないことにするわ。じゃあ、私は解散した後でアメリアと愛元と約束があるから。また部屋でね」

 「ええ」


 梓織はまたもころころと笑いながら二人のいるらしい方に歩いて行った。


 「全く……」


 それを見送りながら魔術師として頭に考えを巡らす。


 (双魔君は魔術師としての腕はきっと一流だけど……遺物使いとしてはどうなのかしら?あの子、双魔君の契約遺物もどんな遺物なのか分からないし……)


 脳内をぐるぐると回っている間に今日の集会は終わったようで生徒たちがわらわらと闘技場の出口へと向かい人の流れが作られる。


 出場が決定した者たち、出場の可能性を得た者たち、次の機会に賭ける者たち。様々な思惑が交わるそれはさながら静かに、嵐の後の川の流れのようであった。

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