友と過ごしたかった午後
”王立魔導学園”とは要は”国立魔導学園”を指し、国家によって運営されている魔導学園であるため各国に該当する学園が存在することになる。しかし頭に国名が付かずに”王立魔導学園”と呼ばれた場合は主に七大国の魔導学園を指す。
七大国とは現代世界を牽引する帝国、または王国であり以下の国々のことである。
グレート・ブリタニア=イングランド王国、神聖ドイツ帝国、聖フランス王国、大日本皇国、中華大帝国、新ローマ王国、インド=ヴェーダ帝国。
それぞれ、通称はブリタニア、ドイツ、フランス、日本。中国、ローマ、インドとされる。
これらの国の魔導学園は魔導界のエリートを養成し世界の均衡を守るに際して大きく貢献している。諸外国から優秀な遺物契約者や魔術師の卵たちが留学してきている。
そこで重要となるのは”選挙”である。
これは民主主義における選挙とは全く異なり各組織における将来の幹部候補ともいえる「評議会」のメンバーを実力により選定するものだ。
選定の方法はともかく”評議会”は各学園の学生自治組織であるため、そのメンバーを選ぶ行事を”選挙”と呼んでいる。各学園によって”選挙”の行われる時期は異なるがここ、ブリタニア王立魔導学園の”選挙”は冬、クリスマスの前に行われる。つまり、目前に迫っていた。
学園内に授業の終わりを告げる鐘が鳴り響く。「選挙」の前にも関わらず今日も学園では通常通りに授業が行われていた。
「今日はここまでとする……それでは解散」
そう言うとハシーシュは早々と教室を出て行った。
それを見送ってから生徒たちは今日の昼食はどうするかなど話しながらまばらに動き始める。
「んんー………ふわぁあ」
双魔はいつもの席でゆっくりと身体を伸ばしながら大きなあくびをする。
「どうしたの双魔?なんだかずいぶん眠そうだけど」
こちらもいつも通り隣に座っていたアッシュが顔を覗き込んでくる。
「……ん、仕事でな」
「そっか、大変だね。でも、ちゃんと寝ないとまた体調崩しちゃうよ?顔色もよくないし……」
「んー……」
こめかみをグリグリしながら気だるげに返事をする。
「今日は評議会はないのか?」
「うん、もうそろそろ選挙だからね。引継ぎの準備も昨日終わったから今日は久々にないんだ」
「そうか……じゃ、久しぶりに一緒に飯でも食うか?」
寝不足だったのでティルフィングは左文に預けて家で留守番してもらっている。たまには友人と気の置けない時間を過ごすのも悪くないだろうと思いアッシュを昼食に誘う。
「え!本当?行くよ!」
アッシュは一気にテンションが上がったようで散歩に行く前の犬のようだ。しばらく一緒に遊びに行く機会もなかったためたかが昼食と言っても双魔も楽しみだ。
「どこに行く?」
アッシュと一緒に昼を食べに行く際は学園の外に出ることが多い。どこから仕入れてくるのかは知らないがアッシュは昔からロンドンに限らず色々な場所の飲食店に詳しい。
「そうだなぁ……あ、そうだ!前うちの屋敷に鹿とか鳩を売ってくれてたお爺さんが引退して学園の近くにジビエ料理のお店を出したって言ってたからそこに行ってみない?きっと力もつくよ!」
「ん、ジビエか……いいな。じゃ、そこにするか」
「うん!早く行こう!」
二人が昼食に赴こうと立ち上がった時だった。
ピー……ガガガガ……
ふいに教室のスピーカーが音を発した。
『あー……あー……テステス……』
スピーカーからハシーシュの声がする。
「ん?なんだ?」
「なんだろうね?」
『えー、遺物科及び魔術科の全生徒諸君に通達する。至急、闘技場へ集合するように。繰り返す、遺物科及び魔術科の全生徒諸君は至急、闘技場に集合するように。以上』
言い終わるとブツンと音を立てて放送が終わった。
双魔とアッシュは顔を見合わせる。
「残念だが……」
「ジビエ料理はまた今度だね……はあ」
「ん、取り敢えず闘技場に向かうか」
残念そうにため息をつくアッシュに苦笑しながらジビエ料理屋に向けるはずだった足を闘技場へと向けるのだった。