07【宝石箱】
王様はゆっくりと立ち上がり、広間にビリビリと響き渡る声を上げた
「 勇者を守る騎士は決まった!! 選ばれた三人は命に代えても彼らを守るのだッ!! 勇者たちの護衛の任に就かなかった団長らも、必要とあれば随時これらをサポートせよッ!!!」
「「「 ハッ!!! 」」」
騎士たちは一斉に跪き声を揃える
その一糸乱れぬ動きに思わず息を飲んだ
更に王様は指示を続ける
「 オーティスッ!! 各国の王へと触れを出すのだッ! このラグドールに三人の勇者が現れたと!」
「 承知した…… サンチョッ!!」
サンチョは「あ〜ぃ!」と締まらない返事をしながら、バタバタと部屋から出て行く。あの人が送るお触れで大丈夫なのかしら?
一連の流れは映画ワンシーンを観ているようで、王様の威厳のある声、一糸乱れぬ騎士団の翻るマント、老人の口髭や所作の総てがゾクゾクして私たちは見惚れるばかりだった
実際、奏太はちょっと涙ぐんでた
あ〜あ、ここまで来るともう帰りたいっては言えないわね
二週間かぁ …。
これはもう腹くくるしかないのかしら?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 さてそれで、そなた達が見つけなくてはならない石の事だが ……」
王様の命令でそれぞれが動き、落ち着いた頃には部屋の中の人数は随分と少なくなっていた
騎士は私達の護衛として選ばれた三人以外は部屋を出て行き、それ以外の騎士達は通常業務(?)に戻ったようだ
年齢不詳のおじいちゃん達も、オーティスを始めとする数人は残ったけど、その他の者は部屋から出て行ってしまった
改めて静かになった大広間で、王様は私達を見つめ、これからが本題だと言わんばかりに声を落とした
「 その石って、その宝石箱に入ってますよね?」
ああ、言っちゃった
私達の心を代表して奏太があっさりと答える
王様は意外そうに少し目を開くと、自分の傍にある宝石箱をまじまじと見て、今度は訝しげに奏太に尋ねた
「 なぜそうだと思う?」
奏太は困ったように花音ちゃんと私を見る
すると花音ちゃんは奏太に頷き、彼の代わりに答えた
「 それは …… この世界に来た時から私たちには分かりました。私たちの探すべき物はその箱の中にあるって」
王様は「そうなのか?」というように私に視線を移す
私は頷いた
「 なぜ分かるのか、理由を説明しろと言われると難しいのですが、多分そうだろうなって」
こんな感覚は初めてだ
この部屋の照明を全て落としても、簡単に探し当てることが出来そうだ
「 なんと!それでは話が早い。では本当にこの石が探すべき石で良いのか 」
王様は独り言のようにそう呟くと、宝石箱を手に取りパカリと蓋を開けた
その瞬間、私たちは弾かれたように立ち上がった
それがあまりにも唐突だったため、王様は驚き
三人の騎士達は、王を守るべくそれぞれに武器を構えて彼の前に立ちはだかった
「 一歩でも前に出れば、命はないと思え」
グレンが静かに警告する
その素早い動きがいかに騎士としてのレベルの高さを物語っているかがうかがえるが、今の私達には剣を向けられる恐怖すら感じなかった
他の二人の騎士も表情は堅く、私たちが少しでも動いたら迷いなく斬りつけそうな勢いだ。
「 …… 泣いてる…… 石が可哀相 ……」
花音ちゃんの頬には涙が一筋流れ落ちる
「 なんでこんなことに ……?」
奏太も力無く声を絞り出す
そして私も自分の意思に関係なく掠れた声で呟いた
「 早く…… 早く…… 元に戻して……」
その様子を見た王様は、私たちと宝石箱を交互に見ると立ち上がり、騎士達を手で制すと石段を降りてきた
そのまま無言で箱を差し出す
そう、何をすれば良いかは分かる
三人の中央にいた私は、箱の中の小さな石をそっと手のひらに乗せた
その瞬間、手のひらから眩しい光が辺り一面に広がる
それは痛いような激しい光ではなく、温かみのある柔らかな光
輝きと共に私の中に充実した安堵感が広がった
光はやがて収束し、私の手のひらを覗き込んだ王様が感嘆の声を上げた
「 おぉ!なんという事だッ!!」
くすんでいた灰色の石は、輝く宝石へと変貌し私の手の中でキラキラと輝いている
花音ちゃんはにっこりと天使のような笑顔を浮かべ「 もう大丈夫だね!」と私を見る
私も「 そうね」と二人に微笑んだ
思えばこの世界に来て、初めて心から笑ったような気がする。
いや、この世界だけじゃない、こんな充実感は初めてかもしれない。
いつのまにか、騎士達もお爺ちゃん達も私たちの周りに集まってきて、宝石を手に取り口々に騒ぎだした
私の手を離れても、もうくすんだ石に戻ることなくキラキラキラキラと輝き続けている
花音ちゃんの選んだ騎士が「これが勇者の力なのか 」と感心したように私たちを見る
彼と視線を合わせた花音ちゃんが、うつむいて頬を染める様子は、私から見てもとても可愛い仕草だった
そうか
石を戻すというのはこういうことなのね
私は石を次々に手に取り笑い合う人達を眺めて、それから自分の掌をまじまじと眺めた
そしてそれができるのはこの世界で私達、たった三人だけなのだと ……