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05【魔導師登場】

大広間に響き渡る声をあげたのは、さっきからずっと私を睨みつけていた老人で、いま現在もものすーごく険しい顔で私を見てる


あれ!? あのお爺ちゃんって他の人より耳がとんがってない? え?なんで?怖いんだけど


「そなた、名はなんという?」


…… 私??


もう帰るのに名乗らないといけませんか? そう言えるだけの強さが欲しかった。 まぁ別に出し惜しみするような名前ではないんですけどね


「 名取 世那と申します」


老人は「 なとり …… せな …… 」とブツブツ言っていたが、そのうち「 いかん …… 絶対にダメじゃ!」らしきことを独り言のようにもごついている


あの人大丈夫なの?

だいぶご高齢みたいだし、もしかしてボケちゃってたりする?

召喚された中で一人だけ呼ばれたことに、居心地の悪さを感じた。どうしたらいいのか分からず、私もサンチョも皆もそのままでいると王様がその場を取り持ってくれた


「レイブン卿? 一体いつまで待てば良いのだ?」


名を呼ばれハッとした老人は、変わらず険しい表情のまま私に顔を向けた


「 そなた、いま休暇中と申したな? ではその休暇を利用して、しばらくの間この国に滞在してみてはどうじゃ?」


「 は?」


「 いやなに、今日の召喚式で我が国の魔導師は、それはそれは体力も精神力もごっそりやられてしもうた。確かにそなたらを故郷に返すことは可能じゃが、そっちの兄さんとくらべて、あんたはそう急がなくてもよさそうかなーなんて思ってのう」


え?ちょッ!

ちょっと!?


「 どうじゃろう? わしらとしては疲れている魔導師の身体を休ませてやりたい。無理をさせると命すら落としかねん。休暇は二週間と言ったかの? だったらこの国に旅行に来たと思って羽を伸ばしてくれても良し、その合間に石集めを手伝うのも良し。好きにすれば良い。お試し期間じゃ!」


お、お試し期間??


老人はおかしな提案をまくし立てると「 魔導師心配じゃな〜 」とか「 二人いっぺんには無理じゃよ〜 死んじゃうよ〜 」とかとんでもない事をブツブツと言っている


困ったことに周りの老人達も「それは良い考えじゃ!」と彼を絶賛しだした


はぁ 〜 っ !?

ちょっと待ってよッ!!

別に海外旅行くらい自分の貯金でどこでも行けるわよ!!

そりゃ世界一周とかは無理かもしれないけど


やだ …… なにこの状況 …… !?


王様とかみんなも「で、どうすんの ? 」的な感じでこっちを見てるけど、いやいやいやッ!!


学生コンビは勇者としてここに残るんでしょ?

私は観光でーす!って何それ??

 そんな流れで残っても居づらいだけだし、だいたい二週間で何ができるの? 長いようで短いわよ?

いやいやダメよダメよ!帰るわよ

そうは思っても周りの雰囲気は既にそんな感じじゃなくなりつつあった


ちょっと!…… どうしよう!?


訳の分からない展開に、さすがにうろたえてオロオロしてると「 王様〜」と後方から呑気な声がした


振り返ると扉が開き、サンチョが息を切らせて顔を覗かせる。肩を上下に動かしてハァハァと息を吐き出している。

更にその背後からもう一人、漆黒のローブに包まれた男性が入ってきた

二人ともそのままゆっくりと前の方に向かってくる


サンチョは、ふらつく男性の体を支えたそうなそぶりを見せ、しかし男の方が背が高いためそれが出来ない

「 大丈夫か〜 ??」しきりに男性を気遣っていた


彼らは私達の前でピタリと歩みを止め、ローブの男はスッと片膝をついた

そして低く、しかしよく通る透明感のある声が静かに広間に流れた


「 ラグドール王国、魔導師長を務めるフレデリック・アンダーソンです。元の世界に帰る者がいるとの事でこちらに参りました」


ローブの黒より更に黒いのではと思えるほどの黒髪、シルバーの眼鏡の奥には切れ長の黒眼、聡明な印象の中に神経質さも混じるが、その美しい顔は蒼白でやつれていて、今にも倒れてしまいそうだった


「 ふわ〜!めちゃカッコイイ……」


溜め息を漏らしながら花音ちゃんがそう呟くと、魔導師長は花音ちゃんに視線を移し、少しだけ微笑む

その表情すらなおいっそう儚げだ


確かに、と私は心の中で激しく同意した


男性相手に「美しい」と表現するのは違和感があるけど、この男性はその領域を超えている

ぶっちぎりでね

あんまりジロジロと見ては失礼だと思ってもその視線を逸らすことができない


当の魔導師長はそんな視線は意にも介さず、私達一人一人に視線を移していった

そしてその視線が私のところへ来たとき、彼は細い切れ長の眼を少し開き、それから眉をひそめると首を少し傾けた


あれっ? 何よ? あなたもですか?

あなたも私が嫌いなタイプなのですか??


高圧的な騎士や厳格そうなお爺ちゃんに嫌われるのはまだ我慢できるとして、この魔導師にまで拒絶されるのは、何だか哀しかった

なぜならそれは超絶美形だから?

世の中って理不尽ね。

綺麗な人に否定されるのって凹むわよね?

私だけ??


そんな事を考えていると、魔導師長の体がグラリと崩れる。 危うく倒れてしまうかと思ったけど自らの両腕を床に着き彼はなんとか倒れずに済んだ

手には黒いシルク製の手袋をしている

 頭の天辺から爪先まで黒一色なので、肌の美しさが一層際立って見える


「 大丈夫ですか!? 」


 すでに誰が声をかけたのかもわからないが、魔導師長は額に汗をにじませながらにっこりと辛そうな笑みを返し「さぁ、行きましょうか」と声を絞り出しフラリと立ち上がった


サラリーマンは、魔導師長を探るように見ていたが「 帰るのは俺だ。すまないが元いたとこに帰してくれ」と願い出た


魔導師長は軽く頷いて「 お一人ですね?」と確認した

 するとサラリーマンは、どうする?といった表情で私を見る


え?ええっとぉ、どうしようかな?


現場は今日一の静けさで耳が痛いほどである


こ、この状況で「帰りまーす!」って言える人っているの??

だぁって彼もう瀕死じゃん!!

この美形を失うのはこの世界の損失どころか、世界中の女性から私って恨まれるわよね!?


 いやもう絶対無理じゃん!!


「 い、いぇ …… そちらの男性お一人です。私とこの二人は残るみたいです …」


言葉の語尾に多少なりとも抵抗は入れたけど、私はそう言うのが精一杯だった

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