04【それぞれの決断】
「 俺は帰ります 」
サラリーマンは立ち上がった
「 あなた方の事情は分かった。そして、俺らの必要性もなんとなく理解した。だけど俺には築き上げた社会的地位と守るべき家族がいる。妻と2人の子供、下の息子はまだ生まれたばかりだから、1歳にもなっていない。石探しは少なくとも2日や3日で終わるものではないでしょう? ……俺は家族が大事であり裏切れない。申し訳ないが帰らせてくれ。…… 今すぐだ」
とても丁寧な言い方だけどそこには揺るぎない意志の強さがあった。 冴えない感じのサラリーマンかと思ったけどちょっと感動すら覚える
そうね、それは彼の家族が羨ましいとさえ思ってしまうほど凛とした態度に見えた
へぇ、『 家族が大事 』か
一生に一度くらいは言われてみたいセリフよね
「 私は残ります!」
続いて高校生の女の子が勢いよく立ち上がった
「 パパやママと離れるのは淋しいけど、ママはいつも『困った人は助けてあげなさい』って言うし、パパは、パパはいつもニコニコと笑ってるだけだけど、とても優しいパパなんです! 帰ってからちゃんと説明したら、あっ!私花音ていいます。きっと怒らないと思うんです!だから …… 私は残ります!!」
顔を真っ赤にして一生懸命ね。やっぱりこの子は可愛い。 幸せな家庭でスクスクと育っていそうな感じだなぁ
花音ちゃんて名前がとても彼女に似合っている
「 おおお、俺も残ります!! こんな経験滅多にできないし、勇者なんて呼ばれたらそりゃあやらなきゃいけないよね! だいたい花音ちゃん一人にそんなことさせられないよ!! 俺が花音ちゃんを守ります!!」
「あっ!俺奏太っていいます !!」
少年はぺこりと頭を下げて言い切った感満載。だけどその内容はかなり薄っぺらく感じたのは私だけだろうか?
王様や周りの人達が「そうか!そうか!」と嬉しそうに頷いてそれから私の方を見る。 ああそうね、残るは私のみか
「 私は …」
この大広間内の全ての人が私に、私の選択に注目している。 普段はずっと注目されない裏方のお仕事だから何だか変な感じがした
なんとなく座ったままではダメなような気がして私も立ち上がった
「 私は ………」
目の前にある宝石箱をしばらく見つめた ……
召喚されて何度目かのため息を漏らし、そして真っ直ぐに王様を見た
「 帰ります」
うん、そうしよう。それが無難よね?冒険だかなんだか知らないけど、そんな心構え出来てないもの。
何事も事前通達って大事よね?急に言われたらそれは無理ってもんよ
自分の返事は伝えたつもりだったけど、その場が静かなままで誰 一人として口を開かない
ん?アレ? 何か前の3人と展開が違うわね?
これって帰る理由も述べないとダメってやつなの??
私はんんんと咳払いをした
「 え…ええっとですね、いまは休暇中ですが、私にも仕事があります。それにこの子らが残るのなら大丈夫でしょう? 私は帰ってもいいかなぁ〜?って …… 」
んん!? あれあれ?? 何だろ??
普通に思ったこと口にしただけなんだけど、奏太くんより薄っぺらいこと言ってるような、そんな気持ちでなんだか焦り始めてきた
「 お姉さんてもしかしてニート?? 」
唐突に奏太が口を開く
あら、この子は私より背が高いのね。じゃなくて!
「 んなっ!? 休暇中って言ったでしょ? ずっと働き詰めだったから会社が二週間のお休みをくれたのよ!ニートじゃありませんッ !!休暇中なの! 」
聞いといて奏太はふ〜んと興味なさそうな態度
ちょっとぉ、まるで信じてないわね?嘘じゃないんだから!
ま、まぁ「会社が二週間の休みをくれた」なんて聞かされたら、程よく追い出されたって思うのが普通の感覚かもしれない。言い方間違えたかしら? いやでもホントよ!?
「 よし!んじゃ 決まったな。じゃあ俺とそっちのお姉さんは帰る。で、こいつら二人はこの国に残るってことでいいかな?」
サラリーマンは王様へ問いかけているような言い方だけど、それはもう「 決定事項 」と言わんばかりの言い方だった
うんうん、それで良いわ!もう早く閉めちゃってよ
なんかさっきから冷や汗かきっぱなしよ?
というかこの人、大人しそうな雰囲気の割に場を仕切るのが地味に上手い。どちらの会社にお勤めなのかしら?なかなか出来る社会人ね
「 よかろう、ではサンチョ! 帰る二人をフレデリックの所へ案内せよ!君たちはそのままここに残ってくれ」
王様の言葉に「あい、わかりました〜!」とサンチョが反応した
どうやら学生コンビは大広間に残るようだ
サンチョって気の抜けた感じの人ね〜
まぁどうでもいいわ。
とても不思議な体験をしたけど
私は元の世界へ戻ったらゆっくりお風呂に入ろう
「 お待ちくだされッ!! 」
大広間に大きな声が響き渡る
えー?今度はなに!?
ちょっとぉ、そこで待ったかかる ?
ホント嫌な予感しかない ……
叫んだジィさんは真っ直ぐに私を見てる
お願いだから早く帰らせてよ 〜