03【王様のお願い】
「 石を集めるんだろ?」
大学生が小さく「 え?」と声のした方へ顔を向けると、サラリーマン風の男性が腕組みを解いて言葉を続けた
「 だから、俺たちは石を探して集めるんだよ
なんでかわからないけど、その石はこの国の人達には見えない石らしい。だから俺たちで探して元に戻したらオッケーって話だろ?」
「 い、石って… 」
なぜそんなに気落ちするのか全くわからないけど、大学生はそのまま黙ってしまった
確かにRPGの世界で、ただひたすら石を探すのって、少し……いや、かなり地味かもしれない
「 そうじゃ!そなたたち4人で手分けして探せば、それほど大変ではなかろう? お前たちには騎士団も魔導師も一緒じゃから何の危険もない。簡単な事だ。いや、少々の危険はあるやもしれんが、それはその、そう!それこそが冒険の醍醐味ではないかのう?」
オーティスは取り繕うようにまくし立て、周りの者に相槌を打つよう同意を求める。そして、それに応えるように周りのじじぃ、いや老人たちもウンウンと頷いている
中には「冒険ていいよねー 」とか「わしももうちょっと若かったらなー 」とか無理矢理話を合わせてる感じで、なんかもう胡散臭い
なんかゆるい世界に来ちゃったなー
私はもう何度目かの溜め息をつき、既にはやくこの状況が終わって欲しいとしか考えていなかった。何で私がこんな所に居るんだろう?
その時、突き刺さるような視線を感じ顔を上げた
グレンと呼ばれていた騎士が、私を冷ややかな目つきで見下ろしている
んー?これって見たこともないような端整な顔立ちだからそう見える?いやそうじゃないわね。彼は明らかに侮蔑の表情まで含んでる
なんなのよもう。
なんかもう慣れてきた。この国の人に嫌われやすい体質というものがあるのなら、それは私なのかもしれない
とてもじゃないけど仲良くやれる気がしない
そう思うとなんだかフツフツと腹が立ってきて、グレンという騎士を思い切り睨み返してやった。騎士は少し驚いたような表情を浮かべたけど、そのままフィと視線をそらしてしまった
よし!勝った
「 じゃあ、そろそろ選んでもいいですか?」
サラリーマンがさっきまでとは違う、大きめの声を上げると、賑わっていた室内が徐々に静かになった
彼は王様に向かって真っ直ぐに言葉を放つ
「 のらりくらりといつまでもこんな話をしててもしょうがない。王様、貴方は言いましたよね? どちらか選べって。俺たちはこの国に呼ばれたけど、その石集めは強制ではなく、元いた世界に帰ることも出来る。 このままこの世界に残るか、戻るかは自分で選択する事ができる。…… そういう認識でいいですか?」
場がまた静まり返る
高校生が「 えっ? 帰ってもいいの?」と小声で大学生に問いかけている
そういえば、なんだかまだ頭がクラクラしている時に、王様がそんなような事を言った気がする
へえ、これって強制執行じゃないんだ?
オーティスが何かを言いかけたが言葉にならない
すると王様が口を開いた
「 確かにそうだ。 私達には君らをこの国へ縛りつける権利はない。自分の人生は自分で好きに選べば良い。」
「 王!しかしそれでは!」
オーティスは咎めるように王様に何か言おうとするが、王様はそれを手で制した
王様っていちいち動作がかっこいい
「 オーティスよ、石集めが簡単かそうでないかは、前例がはっきりしない今定かではない。だいたい異世界人がどうやって石の場所が分かるのかも儂らにはまだ分かっていないのだ。この国で起こっていることを、これから異世界人が行うべきことを、ほとんど語れない儂らは、『簡単』と安易に言ってはならん 」
「 前例がはっきりしない?」
このセリフは私
召喚されてから初めて言葉を発したせいで、少し声がかすれている
おぉやっと喋ったぞと言わんばかりに、視線が自分に集中するのを感じた
「 そうだ。過去にも石が世界に散らばった事はあるようだがな …… それが500年以上前の事で細かい内容を記した文献が残っとらんのだ。ここ数日に渡り魔導士や王宮の者が血眼になり調査した結果、分かった事は石を探して元の場所に戻さなくてはいけない事、石は異世界人しか見つける事ができない事、そして、その為に召喚式という術を行わないといけない事。この3つしか分かっとらんのだ」
そこで王様は一旦言葉を切ると、改めて私たちを正面から見た
「 そういう訳だ。この国を代表してお願いしよう、君達にこの国を助けて欲しい」
再び、大広間には静寂が訪れた …
え〜?なんかわからない事だらけじゃない?
大丈夫なの? この世界 ……