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02【魔王いないの?】

 石造りの大広間の側面の窓には、広範囲に渡り美しく彩られたステンドグラスが貼り巡らせてある。 そのため外から入る陽の光の本当の色が、今ひとつ分かりにくい。それでもそろそろ夕方に差し掛かる頃ではないかと何となくそう思った


王様の横にある宝石箱は、特に会話の中に登場することもないので、その中身を知ることはできなかった


私はそっと溜め息をつき、周りで皆がヤイヤイと楽しげに話し合う様子をぼんやりと眺めた


 オーティスという老人の仰々しい話を簡単に説明すると、この世界に良くないことが起こり、それを平和に戻すには異世界から来た私たちが必要だと言うことだった


なんでも世界中に散らばった石を集めて戻さないと、国に大きな災いが何とかかんとか

その石はこの国の人では見つけられない物らしく、召喚された私たちが探さないといけないようだ


「 僕たちが選ばれた理由とかはあるんですか!?」


「 無論ある。神が君達をお選びになったのじゃ。」


「 この国に魔法とかってあるのですか!?」


「もちろんじゃ!あとで是非お見せしよう!」


 さっきからこんな感じで盛り上がっている。

主に学生コンビが交互に質問し、オーティスや王様、他のお爺ちゃん達も会話に加わり、大広間は今ではとても和やかなムードに包まれていた


サラリーマン風の男性は、最初はしきりに質問していたけど、今は押し黙って腕を組み何かを考えているようだ


異世界ねぇ …


私はもう一度そっと息を吐き、なんとなく左側にいる騎士達に視線を移した

そして、背中にサァッと嫌な汗が流れる

この賑わいの中、騎士達は誰一人として笑みを浮かべることなく、みな厳しい顔つきでその場を眺めていた


何なの??

眺めているというより、監視していると言ったほうが正解な気がする。


騎士団という性質上、どんな状況下でも気を緩めてはならないルール的なものがあるのかと思ったけど、3番目に並んだ女性の団員さんが、私と目が合うとニッコリと口元に笑みを浮かべた


釣られて自分も笑い返したけど上手く笑えてたとは思えない。でも作り笑いはお互い様よね?

何か見てはいけないようなものを見てしまったような気がして、サッと視線をみんなの方に戻した


すると今度は、右側のテーブルの4番目にいる、これまた背の高い白髪の老人が、今度こそ厳しい顔つきで私を見ている

私と目があっても、反らすこともなければ、先ほどの騎士のように笑みを返すことも無い

だだひたすら睨みつけているので、怖くなってもう前を見るしか選択の余地がなくなってしまった


一体なのなのよ、あんまりキョロキョロしない方が良さそうね

…… それよりもあの宝石箱の中身が知りたいんだけど


「 マジっすかッー !?」

「 えー!! やばーい!!」


一際大きな声で2人が叫んだ。

きゃあきゃあと何事かと思うと老人達もざわついている


「 なんとっ!? 君達の国にドラゴンはいないのか!? それはなんともかわいそうに。この国にいればその背中に乗り、大空を駆け回ることもできようぞ!!」


そう熱く語る2番目に座る老人も誇らしそうだ


へぇ〜 ドラゴンかぁ。ますますファンタジーの世界ね。なんかちょっと目眩がしてきた

さすがにサラリーマンも顔を上げて「ドラゴンだって?」と呟いている


「 マジかー! 俺ほんっとに頑張ります!! 魔法もガンガン覚えますッ!! 皆で力を合わせて魔王を倒しましょう!! ︎」


えっ!?

ちょっと待ってよ大学生!!

皆って誰のことよ!?

そんなの勝手に決めないで!?

魔王とかそんなの無理に決まってんじゃん!!


「「「 !? 」」」


大学生の言葉で大広間の中に戸惑いの空気が流れた。


「 …… 魔王??」

「 はて…?」


王様がオーティスと目を合わせる

するとオーティスは、いやいやと首を横に振った


「 そんなものはおりませぬぞ。そりゃ確かに魔物はおるが、魔王などと恐ろしいものは物語の中にしか存在しないものじゃ」


言葉の後半は大学生に向かって言っていた

まるで小さい子供をあやすような物言いで


その言葉につられるように、王様もオーティス以外の老人たちも、さっきまで堅い表情をしていた騎士団までもが、ハハハと笑いだした

ずっと後ろのほうで「 魔王だって〜!」と大爆笑してるのはサンチョだ


なんとなくサンチョに笑われるのは嫌な気分

でもそうか、魔王ってこの世界にいないんだ?


でも『勇者』なんて言われたら、誰だって魔王退治だと思うのも無理はないんじゃないかしら?

私たちの世界では、そういったRPGの世界観が確立されているんだし、私もてっきりそんな感じだと思っていた


更にオーティスは追い打ちをかける


「 ついでに言っとくと、恐らくじゃが魔法はそなた達には使えん。この国の人間のみ使うことが出来る。」


「 えっ!! じゃあ、お、僕たちは何をすればいいんですか!?」


 大学生はしょんぼりしてしまった。

「僕」になったり「俺」になったり忙しいな


でも彼の気持ちは少し分かる気がした

私だって魔法が使えるなら一度くらいは使ってみたい


 魔王はいない

 魔法も使えない


どうやら、私でも知ってるようなRPGの世界観と、この異世界の事情は全然違うようだ


はぁ、じゃあ何なの?

どうでもいいけどもう疲れたわ …

大体なんで私なのよ

もっと他に適任がいたでしょーに

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