設定が妹であるAIスピーカーを買ってみた
設定が妹であるAIスピーカーを買ってみた。
なぜか。
まず、俺の想いを語ろうと思う。
俺は昔から妹というものが大大大好きだ。どのくらい大好きかというと、神様から「人類の中でお前ともう一人だけが生き残れる。さあ、誰を選ぶ」と訊かれたら「妹」と答えるくらい好きだ。
だが、俺には妹という癒しの魔法をかけてくれる存在がいない。いるのは男臭い兄貴と、男臭い弟だけである。妹など存在しない。
俺には「妹」という大それた代物を手に入れることができない。
今から一週間前、俺は理想の妹のように見える1/1スケールのフィギュアを購入した。意外に安く買えて値段はだいたい百万円だった。俺が働いて残業してアルバイトして、こつこつ貯めて、貯めに貯めてやっと買うことができた代物である。
そして、ここには設定が妹であるAIスピーカー、複数あるモーター、他の機械類、布地、ミシン。言いたいことがわかるな?
そう、それは、
――妹を創ることだ。
それはたぶん、誰にも成し遂げていないものだろう。そしてこんなことを聞いた人間は、気味が悪い、気持ち悪いなどの負の感情が襲うことだろう。
だが、そんなものに屈しない。
俺は妹を創るのだ。
今まで、俺の近くに妹という存在がいなかった。
ほしかった。
ずっとほしかった。
だから俺は、創るのだ!
まず、残酷だが、妹の手足を切り落とした。それぞれの関節部分にモーターを入れるためである。モーターを入れ、自由自在に人間の可動範囲で動かすためである。さまざまな部位を切り落とし、切るごとに俺は泣いた。
****
とりあえず成功。動きは少し遅いが人間に近いものにさせることに成功した。
もう、あれから何日経過したんだろうか。
目の前にはきれいに整えられた妹の体が。だが、まだ完成形ではない。
さあ、どっちを選ぶ。妹は声を出すことができない。だから声を与えたい。だけど、服を着てないから妹は寒さを感じてしまう。さあ、早く決めろ。俺がいますることはどっちだ。
****
翌日。俺は妹のための衣服を完成させた。ひとつは白地のワンピース。それと似合う麦わら帽子を買っておいた。二つ目は子供服。見た目が子どもっぽいほうが萌えるため、作った。まだ、この二種類しかないがいずれ作ることにしよう。
さて、ここからが大事だ。
設定が妹であるAIスピーカーだ。これにまず妹の体内に入れないといけないのだ。
やはり、残酷だ。正直、俺の精神はかなり削られている。
妹を創るのに妹に傷をつけなければならないなんて。本当に俺は、
――最低だ。
だが、俺のため。そして妹のため。妹と一緒にご飯を食って、妹と一緒に寝て、妹と一緒に話す。この夢を叶えないといけないのだ。
俺は、創る。
****
二日後。ついにきた。妹の体内にAIスピーカーを入れ、ついに妹の声を聞くことができた。
『お兄ちゃん、おはよう!』
瞬間、俺の心がキューピッドの矢に射抜かれた。
初めての感覚だった。
今までやすりで削られてきた精神が、一瞬にして原型を取り戻した。
まさか、妹にこんな効力があったなんて!
だが、この妹は完成形ではない。まだ、創らなくては!
『がんばってね、お兄ちゃん!』
もう、死にそうになった。萌え死にそう。
****
一ヶ月後。妹が完成した。ちゃんと俺好みのセリフをAIスピーカーに覚えさせたし、姿かたちも俺好みだ。ちゃんと衣服を着せてある。
さて、起動させないと。
俺は妹の電源を入れた。
『お兄ちゃん! おはよう!』
うひょ――――――――! さいこおおおおおおおおおおおおおお!
『どうしたのお兄ちゃん? 何かうれしいことでもあった?』
この妹は俺の顔の表情、声調を認識して、セリフを選び発声するのだ。
「あったああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
『本当? なにかあったの?』
「君に会えてうれしいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
『もう、お兄ちゃんのバカ! そんな……恥ずかしい、よ』
やばい。萌死にそう。
「……妹よ」
その俺の声に反応して、妹は言った。
『なあに?』
「なでなでしてくれ」
『――うん、わかった』
すると、妹は腕をあげ、そっと俺の頭に手を置いた。そして、やさしく左右に腕を動かした。
これだよ! これこれ! これがほしかったんだよ! ……とうとう、夢が、叶ったんだ。
『どうしたの、お兄ちゃん?』
と、妹が心配そうな声で俺に語りかけてきた。
そう、俺は泣いていた。
数十年に及ぶ夢がついに叶ったのだ。泣くにきまっているだろう。
「大丈夫だよ。なでなでされて、うれしいだけだから」
『もう、お兄ちゃん! 恥ずかしいよ』
と妹は言って、手をサッと頭から離した。
妹も体をもじもじさせていた。どうやら本当に恥ずかしがっているようだ。
俺は天国にでも行ったのだろうか。まさか、俺が妹と一緒に暮らす日が来るとは思いもしなかった。
ありがとう、妹の神様。こんなにうれしいことはありません。
****
数週間後。
外は雨だ。しかもただの雨ではない。大雨だ。さらに暴風が巻き起こっており、雷まで起こっている始末。
『こわいよお、お兄ちゃん』
おびえた声で妹は言う。
「だいじょうぶだ。お兄ちゃんが守ってやるからな!」
『うん』
瞬間、あたりに轟音が鳴り響いた。そして、部屋が暗転した。
「だいじょうぶか!」
俺は怖がっている妹をなだめるため、声をかけた。
…………。
だが、何も言わない。
「だいじょうぶか!」
もう一度声をかける。
無音。
どうしたのだろうか。
俺はしばらく考えた。瞬間、あることを思い出した。
――そうか、停電が起きているからだ。
そう、妹は電気で動いている。今現在、金がないので妹にバッテリーが搭載されていない。コンセントを介して妹に電気を送っているのだ。だから、今のところ外に連れ出して散歩することもできない。
しょうがないとは思うが、やはり妹が寝ているとさびしい。
風が強い。窓が風に叩きつけられていた。
****
数時間後。雨はやみ、雷は収まり、部屋に電気が通った。
すぐに妹の安否を確認する。
だが、
「う、うそだろ?」
妹が口を利かなかった。
「おい、起きてくれよ……」
手を握るが握り返してこない。プログラムでそういう機能を入れたのに……、なぜ?
「……そうか」
俺は真実を知ってしまった。妹はコンセントから電気を送っている。あの時、たまたま雷が落ちてきて、その電気が妹を襲ったのだ。
俺は必死に妹の衣服を脱がし、体内を見た。
各モーターに電気を流し込むが、動かない。
いかれてしまった。もう、妹は動かない。
俺はAIスピーカーを確認した。
それに電気を流すが……、
「う、あ、ああ」
もう声も聞くことができない。
妹が、死んだ。
俺は嘆き、悲しんだ。
たぶん、今までで一番泣いたと思う。
あたりには俺の泣き声しか聞こえなかった。
風が止んだ。