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【転章】 おれだって信じられないんだよ

 大魔王アレン。


 歴代の魔王で、最も恐ろしく、最も強い怪物。

 赤ん坊ながらに世界を支配した最凶の大魔王。


 だが、おれはそいつの恐ろしさを知らない。


 大魔王が出現したのは、おれが生まれ変わったのとまったく同時期だったからだ。正直いって魔王どころではなかった。


 まだ幼いおれに、両親は気を遣っていたのかもしれない。魔王の存在を、当時はほとんど知らなかった。


 それでも、奴の凶悪っぷりはたまに話題に上る。書物にも多く伝承されているのだ。


 大魔王の恐ろしさを肌で感じたことはないが、奴がとんでもない化け物だということはわかる。


 そんな奴がーールーラル国を支配したらしい。

 というおぞましい情報を知ったのはつい最近のことだ。


 偶然ではあるまい。

 大魔王アレンの出現と、勇者アルスの出現。

 この二つのタイミングがぴたりと重なったのは。


 そしておれは、平凡な学園生活すらも送ることができなくなった。

 ノスタルディア王国の騎士が、《勇者》たるおれを呼びにきたのである。








「おぬしが新たな《勇者》か。名をなんと言う」

「はい。アルス・ブライトと申します」


 謁見の間。

 おれは全身を震わせながら、ノスタルディア国王の前に膝をついていた。


 国王と謁見。

 前世で例えるならば、天皇陛下と相対しているようなものだ。

 この場で緊張しない者がいようか。


 天井には優美な曲線を描くシャンデリアが吊されており、優しげな光彩を放っている。

 壁面は純白を基調に作られていて、ところどころに金色のラインが施されている。

 そして床には、染みひとつない赤い絨毯。


 すべてが豪勢。


 前世を含めてもこんな場所に来たことなどない。ガクガクブルブルだ。


 壁際では、何人ものお偉方が、おれと国王のやり取りを見守っている。おそらくは王族か、かなり位の高い貴族であろう。


 なかでも数名、おれと同年代と思われる男が、憎らしげにおれを睨んでいた。


 たしか彼らは国王の息子だったか。


 そんな視線に気づいたのか、国王はため息をつきながら言った。


「辞めなさい。この者は勇者だぞ」


 父親の言葉に、息子たちは小さく鼻を鳴らすと、そっぽを向いた。


 国王はまたもため息をつくと、慈愛を称えた瞳でおれを見据えた。


「気を悪くしないでくれアルス殿。みな王族として、我こそは世界を救わんと息巻いていたのだ」


「あ、ああ……なるほど」


 国王の発言に、おれは息子たちの心中を悟った。

 たぶん、彼らはおれと同い年なのだ。

《勇者》の称号を得て、いつか救世主になろうと夢見ていたのだろう。


 なにしろ彼らは王の息子なのだ。その可能性は充分にある。


 なのにーーその《勇者》となったのは王族でも貴族でもなく、平凡な街人のおれ。


 そりゃあ怒りたくもなるか。


「納得できませんね」

 そして実際に、息子のひとりが声をあげた。

「その者が本当に《勇者》であるならば、ステータスを見せてもらいたい。それで私たちより劣るのであれば、魔王の討伐は私たちに任せていただけませんか」


「おい、いい加減に……」


 さすがに怒りはじめた国王に、おれは

「構いませんよ」

 とだけ告げた。


 おれとしても、いきなり勇者の称号を与えられ、納得しかねている部分があるのだ。


 本当は勇者ではありませんでしたーーそんなふうに言われたほうが、よほど得心がいくくらいに。


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