【転章】 ステータス
ちなみに、この世界には《ステータス》なるものが存在する。
前世で言うところの、RPGゲームみたいなものだ。
人の強さが数値化され、非常にわかりやすくなっている。
なぜそんなものが存在するのかはわからない。だがそれが異世界においての《常識》ならば、おれは従うしかない。
前世において、おれはそこまでヘビーなゲーマーではなかった。だが、ステータスの仕様はなんとなくわかる。
HP……ある一定以上の痛みを感じると減少する。なくなると死ぬ。
MP……魔法を使うためのエネルギー。なくなると魔法が使えなくなるだけでなく、集中力の低下、記憶力の低下など、さまざまな弊害を引き起こす。
攻撃力……物理による攻撃力。
防御力……物理的な防御力。
魔法攻撃力……魔法を使用したときの攻撃力。
魔法防御力……魔法を受けたときの防御力。
俊敏性……素早さ。数値が高いほど素早く動ける。
回避力……危険予知能力。数値が高いほど、敵の攻撃を回避したり、不意打ちを察することができる。
これの他に、《称号》や《スキル》までが存在するのだから、まさにこの世界はゲームといって差し支えない。
そして、その《称号》こそが、おれの突出したステータスに起因しているーーそれを知ったのはつい最近のことだ。
十七歳の誕生日。
おれはベッドでなんとなくゴロゴロしていた。
なんとなく「ステータス・オープン」と唱えたのも、特に意味はない。単に自身の強さを確認したかっただけだ。
この世界においては、なぜかステータス・オープンと唱えるだけで、自分だけが自分の強さを視認することができる。
そして次の瞬間、おれは喘いでいた。
昨日まではなにもなかったはずの、称号一覧表。
その部分に、たしかにこう書かれていたのだーー《勇者》と。
この世界の本で読んだことがある。
世界を滅ぼしにかかっている《魔王》。
魔王に匹敵する強さを持つ《勇者》。
異世界においては、この両者が特に飛び抜けた強さを誇るらしい。
そして、本には次のように書かれていた。
ーー勇者の才を与えられた者は、幼少期から神童のように振る舞い、十七歳になったとき、己の使命を知るーー
たしかに、おれの人生をそのままなぞっているように見えなくもない。
だけど、ありえるのだろうか?
このおれが勇者だなんて。
前世では、おれはごく普通の学生でしかなかった。
いじめを受けたりとか、補習を受けたりとか、すくなくとも《底辺》ではなかったと思っている。
だが、それだけなのだ。
悪いところはないが、逆に良いところもない。平凡の平凡。
ちなみに前世では童貞のままだったが、まだ高校生だったし、そんなに焦ってもいなかった。
そんなおれが、魔王を倒す救世主? 馬鹿馬鹿しい。
昨日までおれは普通に過ごしていたはずだ。
生徒の九割が平民、残りの一割が落ちぶれ貴族。
そんな学園で、おれは友達と魔法を学んだり、世界の情勢を暗記したりしていた。だからいきなり《勇者》と言われても……ピンと来ない。
だが、その数秒後におれは思い知った。
《勇者》の称号は紛れもなく現実であること。おれはこれから、魔王を倒しにいかなければならないことを。
そう、数年前に世界を恐慌に陥れた最凶の大魔王アレンが、隣国を支配したのだ。