4.魔王が仲介します─1
俺は鬼族鴉天狗種の集落の面々を観察した。
魔族だけあって形は様々だが、種類ごとの特徴はある。それが血筋なのだろうが、そうかといって必ずしも親子で形が同じとは限らない訳で。
ハッキリいうと、どの血筋が強く出ているか─これに限るのだ。
そしてアルフォシーナは、鬼族鴉天狗種の血が色濃い。それ故にこの集落にいるのだろうが、周りは異端に向ける目を隠す気もないようだ。
─見ていて気分が悪くなる。
そうかといって、簡単に俺が口を出すのもな。
自分の中の葛藤を持て余しつつ、祭りの外側から見ているしかない俺だった。
「おい。」
「何でこんな所にいるんだ?」
「本当だな。祭りだからって、混ざりものが出てきちゃ困るなぁ。」
出店を点々と廻って買い物中のアルフォシーナを取り囲むように、3人組の男達が現れる。
明らかなクズ行為。悪意を振り撒きながら、下卑た表情で背の低い彼女の顔を覗き込む。
─何だ。魔族でもこういう低俗な行為をする輩がいるのか。
俺は何故かホッとしていた。人と変わらないのだと、種族が違うだけなのだと、改めて実感したからである。
とは言え、このまま俺がいる事を忘れてもらっても困るのだが。
アルフォシーナは手に一杯の買い物袋を持っていた。その一つに男の手が伸びる。
「食い物ばかりかよ。」
取り上げられた物は、先程購入したばかりの白い肉まんのような食べ物。恐らく俺も食べられるようにとの配慮だろうが、買い食いもせずに幾つもの種類を数個ずつ買っていたのだ。
「食い意地がはってんだよ。」
「これだけあるなら、俺達がもらっても良いだろ?」
男達が囲んでいても、アルフォシーナは無表情のまま取り上げられた肉まんを見ている。
「…待たせたな、アルフォシーナ。」
別の男が再び袋に手を伸ばした時、俺はアルフォシーナの後ろに立っていた。
振り返った彼女は、驚きもせずゆっくりと瞬きをする。
「何だよ、お前。」
「人族か?」
「…何か言えよっ。」
男達が口々に訴えて来ていたが、俺とアルフォシーナはそのまま祭り会場を後にするように歩いていく。
他の鬼族鴉天狗種達は、遠巻きに俺達の様子を見ているだけ。特別何かをする訳でもない。
「おいっ。」
会場から一歩出た瞬間、一人が怒りに任せて俺に手を伸ばした。──筈なのだが、それは何も捕らえる事なく空を撫でる。
そして一瞬の後、男が手首を押さえながら叫んで蹲った。
「な、どうした…っ!」
驚いた残りが詰め寄ると、その男の右手首から先がなくなっていたのである。
いや、足下に落ちていたのだが。
「てめえ、何しやがった!」
鋭い視線で俺を見る男。
これ、正当防衛かな。過剰防衛の可能性もあるよな。
でもこれ、普通に俺の影の魔力が反応しただけ。故意にやった訳じゃないんだけど、説明が面倒臭いな。