3.魔王は雑用係ではありません─10
宣言通り、アルフォシーナは俺にバオブが近付く事を許しはしなかった。元々彼女の能力は高く、一族の中でも上から数えた方が早い。──けれど。
「アルフォシーナ。今日は祭りなんだろ?」
俺は今、アルフォシーナの一族が住む集落にいる。その横に当たり前のように控えるアルフォシーナは、目の前で行われている一族の祭りに参加するでもなく、ただ俺の斜め後ろに立っているだけだった。
「うん、鬼族鴉天狗種の祭り。けどあたしは魔王様の護衛。」
そう、仕事中なのだからとその場から動こうとはしない。
まぁ、俺が鬼族鴉天狗種の祭りを見てみたいって言ったのは確かだけど。これじゃあ、アルフォシーナを拘束しているだけ罪悪感を感じるな。
「いや、護衛なんていらないって。ここは危険じゃないだろ?」
「民草の中に交じるのも悪くはないけど、確実に安全とは言えない。」
「そりゃ、そうだが。俺はアルフォシーナを観察中なんだ。逆に言うと、そんなに俺にベッタリ張り付いていられたら、素のお前が見えないだろ。」
「魔王様、迷惑?」
「いや、迷惑とかじゃなくてだな。普段のアルフォシーナが見たいんだ。それと俺に何かあれば、連結されてるから分かるだろ?」
「……………分かった。」
散々説得して、納得していないようなアルフォシーナが漸く離れる。そのまま少しだけ迷う素振りを見せていたが、振り払うかのように背を向けて走り去った。といっても、すぐ目の前の屋台風な飲食用の売店に向けてだが。
俺は暫くその背中の動きを観察しつつ、集落を見回していた。だがじきに、魔王知識で知っていた事実が見てとれる。
孤立しているのだ。
周囲の者達が明らかな対応をしている訳ではない。ただそれぞれが祭りを楽しんでいる。それが、アルフォシーナを含んでいないだけ。
─何だよ、これ。
思わず頭を抱えたくなった。引率の教師の気分なのか?
自分が抱いた感情に驚きつつも、それを振り払うかのように小さく溜め息をつく。
そして改めて集落を見回す。
鬼族鴉天狗種は、基本的にカラスのような羽根を身体の何処かに持っていた。大きさに違いはあれど、それは間違えようのない種族の証であろう。
だが、アルフォシーナのように角はない。様々な容姿の魔族がいる為、気のせいかとも思ったが事実ないのだ。
ある者はカラスのような嘴を持ち、ある者は鳥のような羽根に全身を覆われている。人に近い者もいるけれど、アルフォシーナのように角持ちがいなかった。
それが彼女と他の鬼族鴉天狗種との、明らかな違いだったのである。
文章訂正2016,12,23