3.魔王は雑用係ではありません─9
アルフォシーナは手慣れた様子で周囲から小枝を集め、枯れ草を重ねて石を打ち鳴らす事で火をつける。
彼女は水属性魔力所持者の為、魔法を操って火を操る事が出来ないのだ。俺は全属性を扱えるから、そういう意味では万能なんだけどな。
「凄いな、こんな簡単に火を起こして。ってか、やっぱり蜂擬きにも燻しが効くのか。」
「魔王様もやった事ある?」
作業の手を止める事なく、アルフォシーナが問い掛けてくる。その間にも灰色の煙が立ち上っていき、あっという間にバオブの巣がある場所まで届いていた。
「いや、俺は知識だけだ。煙で巣の中の個体を追い出すんだろ?」
「そう。バオブを討伐するのなら水が有効だけど、巣がダメになるから。」
アルフォシーナは小枝を次々に投入しながらも、視線はバオブの巣から外さない。既にバオブが煙で混乱し、かなりの個体数が巣の外に飛び出していた。
蜂の巣を布袋に入れて水を張ったバケツに沈める方法もあるから、バオブにも水が有効なのだというアルフォシーナの言葉に首肯する。だが確かに、それでは巣ごと水没だからな。食べられなくなる。
「魔王様。バオブが興奮しているから気を付けて。」
アルフォシーナの声に巣を見上げると、先程まで個体別にクルクル回っていたのが止まっていた。そしてまるで軍隊のように数十匹が集団を作り、その塊を幾つも作り上げている。襲い掛かる気満々のようで、羽音が揃って空気を震わせていた。
尚且つサイズ。実際に目にするとその大きさに顔がひきつりそうになる。1個体が10センチから15センチ程だからか、蟲自体の身体の作りがありありと見える訳で。
「なぁ、アルフォシーナ。バオブって肉食じゃないよな。」
「うん、成体の主食は華の蜜や幼生の出す体液。けど幼生は何でも食べる。成体は強い顎で獲物を砕いて肉団子にして、巣に持ち帰って幼生に与える。」
「つまりは直接食べないけど、食糧ではある訳か。って事は、俺等もその対象な訳だな?」
「そう。魔王様、頭良い。」
あいかわらず淡々と答えるアルフォシーナ。
誉められた気はしないが、とりあえず殺らなきゃ殺られるってのは分かった。
「OK。んじゃ、こっちに来たら殺っても良いんだな?」
「良いけど、必要ない。あたしが魔王様を守る。水球。」
俺の助けはいらないとばかりに、アルフォシーナは水魔法の球を幾つも作り出す。そしてそれらを全てバオブ目掛けて飛ばした。
相手は攻撃性が高いとはいえ、所詮は蟲である。魔法を使う訳でもなければ、知性というより本能で生存しているのだ。数が多いだけではアルフォシーナの側に近付く事も出来ず、全てが水魔法球に取り込まれ溺れていく。
俺、またしても出番がないようだな。