3.魔王は雑用係ではありません─8
「魔王様。あれ、見える?赤いの。」
「ん~…、あの尖った木の上か?」
「そう。あれ、バオブの巣。」
アルフォシーナの指し示す辺りへ目を凝らせば、樹齢100年は経ってそうな大木の上に、血のように真っ赤な円形の何かが確認出来る。
しかし、何故にあんな目立つ色合いなのか疑問だ。
「派手な色だな。」
「うん。危険な存在だと、見た目から訴えている。現に表面には触れると爛れる毒素がある。あ、中身は美味しい。」
サラリと告げられた内容にギョッとする俺へ、アルフォシーナは淡々と中身の安全性を保証する。
ってか、俺も何度も食ったっての。つまりは、表面の赤い部分だけ要注意って事だな。
それでそもそも、何で俺達がバオブの巣を探していたかというと─遡る事半日前。ダミアンを強制的にアルフォシーナに退室させた次の日の事だ。
◆ ◆ ◆
「鬼族鴉天狗種の祭り?」
「そう。祭りの中で食べる食材の材料調達が、次のあたしの仕事。」
アルフォシーナがいつものように淡々と告げる。
俺からの観察対象になった事が理由なのか、潜入調査や諜報活動からは外されたらしい。まぁ、明らかに俺がいれば存在が知れてしまうがな。──すまない。
そこでアルフォシーナに与えられた仕事は、能力をアピールするものだった。元から諜報担当としての種族的能力があるから、素早さなどが忍者の比ではない。
それプラス、魔族としての能力値をアピールしてこいとの一族命令なのだろう。
あ、彼女はフランツのようにトップに立っている訳ではない。ただの1諜報担当だ。本人の能力は高いが、指揮する側としての器は皆無。
片付けが出来ない事からも察するが、指示されないと動けないタイプだからである。
これで次期宰相候補者の一員というのは、選出したインゴフが悪いと俺は思った。
◆ ◆ ◆
「あのバオブの巣を丸ごと持ち帰る。魔王様は見てて良い。」
「待て。とりあえず俺も近くまで行くぞ。ここからじゃ良く分からないからな。」
「分かった。じゃあ、魔王様も一緒に行く。」
置いていかれそうだったところ、同行を認めさせる事が出来た。ってか、楽勝だぜ。
そしてアルフォシーナの、本気で忍者かもと思う素早い動きに何とか着いていきながら、俺達はバオブの巣がある大木の下に到着する。
鬼族鴉天狗種の祭りは年に一回の一族集会みたいなものらしいが、成人の儀系の行事も行われるとの説明だった。
試験内容はバオブの巣を持ち帰る事であり、能力判定の最低ラインらしい。これによって大人と認められる証を得られるという、実に簡潔なものだ。ちなみにアルフォシーナが持ち帰る分は、試験分とは別枠である。
さすがに魔族の暗殺を担う種族だけあって、最低ラインが厳しいな。だいたいこのバオブだって蟲とはいえ、群れると狼くらいの統率で個体攻撃をしてくるんだぞ。