3.魔王は雑用係ではありません─7
「も、申し訳…ございませんでした、魔王様っ。」
痛みからか俺の威圧に圧されてか、ダミアンが苦しそうに告げる。
「お前が要らなくなったら、俺がその核を潰してやる。それまでは役割をこなせ。」
最後にそれまで以上の威圧を込め、ギッと睨んだ。そしてすぐさま全ての威圧も闇魔力も解く。
あまりやると、他の次期宰相候補者達が騒いで突入しかねないからだ。
「あ…あ、ぁぁぁ…っ。」
フイッと俺が視線を反らした後、横のダミアンから漏れ出した声。まさかと思って再度見上げると、恍惚とした表情で宙を見上げて身体を打ち震わせていた。
冗談じゃなく、コイツは今イッてやがる。この変態がっ。
「おま…っ。アルフォシーナ、いるんだろ?」
「はい、魔王様。」
思わずダミアンに怒鳴ろうとした俺だが、不意に近くにアルフォシーナを感じた。
気配ではなく、連結されているが故の感知だろう。俺の言葉に応えるように、ダミアンとは逆側の玉座横に跪いた状態でアルフォシーナが現れた。
「俺はもう寝る。面倒だと思うが、コイツを片付けておいてくれないか。コレの部屋にでも突っ込んでおいてくれれば良いから。」
「はい、魔王様。」
額を押さえながら呟く俺に、アルフォシーナは変わらない返答をする。そして俺が立ち上がって背を向けた瞬間、罵声が飛んだ。
「アンタ、バッカじゃないのっ!?ここを何処だと思ってんのよっ。迷惑なの、臭いの、分かるっ?ほら、行くよっ。抵抗したらナニを捻り千切ってやるんだからっ。」
直後、気配と共に音声が途切れる。勿論、俺は振り返って確認した。
いない。不思議な事に、あのデカイ図体のダミアンをどうやって瞬時に消したのか。しかも言葉の内容も激しかった。
だが俺は─見なかった事にする。
自室に戻ると、大きく息を吐きながらベッドに腰掛けた。そのまま魂が抜けてしまいそうな程に。
しかし、疲れた。主に掃除でだが、久し振りに身体を動かした気がする。当たり前にこっちじゃ体育なんてないし、自主トレをしている訳でもない。前に身体を動かしたのは、フランツに煽られて騎士団と模擬戦をした時くらいだ。
否。あの時だって力差がありすぎて本気でやった訳じゃないけど。それを考えたら、初めの頃にダミアンと地下の鍛練場でやり合った時か?
ってか、俺ってマジに運動不足。このまま人族勇者登場とか、勘弁してくれよ。
俺はベッドに仰向けに倒れ込み、腕で顔を覆った。
この世界に喚ばれ、どれくらいが経ったのか。もはや日数を数えていられない程、様々な事があったと思う。それでも何も成し得ていない俺。
─とりあえず自主トレをしよう。
俺は精神的に疲れた身体を起こし、部屋でやれる筋トレから始めたのだった。