3.魔王は雑用係ではありません─6
「そうか。考えておく。ジスヴァルトはもっと顔を出せ。書類提出のついででも良いから、お前と話がしたい。」
「畏まりました、魔王様。」
暗に気に入ったと俺が告げれば、ジスヴァルトは胸に手を当てて頭を垂れる。
こういうタイプの魔族は、もう少し俺の周りにほしいな。多少の使い難さはあっても、腹の中がどす黒い輩より百倍マシだ。
ジスヴァルトの退室を見送ると一気に疲れが押し寄せ、玉座に背を預ける。
何だかんだいっても、俺って結構ハードに動いてないか?
「魔王様。お疲れのところ大変恐縮なのですが。」
「何だよ、ダミアン。遠回しに言うな、面倒臭い。」
「では、率直に。魔王様はジスヴァルト・ギュンタ騎士団長をお気に召したのですか?」
普段玉座の横に立っているダミアンだが、今は身体ごと俺に向けられている。座っている俺からすると、いつもより更に高い位置にその顔があるのだ。
「何が言いたいんだ。」
「わたくしでは御不満ですか?」
続けられたダミアンの言葉に、俺は一瞬意識が遠退く。
そうだった、コイツはかなりのレベルで変態だった。今ここでウルウルと瞳を潤わせて問い掛けてくるのはおかしいだろ。
「ジスヴァルトは高位魔族の筆頭一族でもあるんだろ?接した感じ、アイツからは腹黒さを受けなかった。立場上全ての高位魔族から距離を置く事は出来ないなら、情報を得る意味でもああいう自分に正直な奴の方がマシだろ。」
俺は自分の考えを口にする。だがそうする事で、更にダミアンの変態度を上げるとは思ってもみなかった。
「魔王様~っ。さすがでございますっ、魔王様っ。わたくしが御伝えする些末な情報から、それ程までの事をお考えだったとはっ。このダミアン・ルーガス・ヘイツ、一瞬でも魔王様のお心を疑ってしまい、大変申し訳ございませんでした。斯くなる上は…っ。」
そこで刃物を取り出すダミアン。勿論俺に向けるのではなく、自らの腹に向けてだ。
またかよ、このド阿呆が!
俺は呆れと多大な怒りをもって、ダミアンの短剣を持つ手を自然発動した闇の魔力で形成された腕で止めた。
「魔、王様っ?」
「お前、ふざけんなよ?…勝手に死ぬ事は許さない。」
威圧を込めて見上げる俺。
こういう時に小さい─いや、俺が小さいんじゃなく、ダミアンがデカ過ぎるんだ─からって、上目遣いになるのは癪に障るが。
「お前の核は俺に預けてるんだろ。ならば俺の許可なく勝手にそれを散らすなんて事は、有り得ないくらいの裏切りだ。」
ギリリッと闇魔力が掴んでいる手も力が込められた。
変態なのは知っているが、刃傷沙汰は困るっての。