1.魔王になりました─5
「明かりくらいつけろよ。」
向こうからは俺が見えているらしく、一方的に観察される感が気に入らない。
俺は立ち位置を変えず、腕を組んで告げた。
いや、虚勢くらい張らせろ。
「なるほど…、それもそうじゃの。点灯。」
話のテンポが合わないが、とりあえず俺の意見に賛同してくれたようだ。
ってか、何で言葉だけで明かりがついた?魔法ってやつか?それとも、誰か照明担当がいるのか?
しゃがれ声が告げた通り、真っ黒な室内が薄明かりに照らされる。
サッと見回し、やはり黒い壁に黒い柱が立ち並んでいる事が分かった。そして同時に、目の前のしゃがれ声の正体が判明する。
見なかった事にしても、良いんじゃね?
俺は一瞬、遠い日本の田舎風景を思い描いてしまった。
「何じゃ…?」
小首を傾げても、全く可愛げない。
何故ならば俺の前方にいた存在は、思った以上に高い位置に頭部があったからだ。
優に、信号機の上。5メートル以上か?
「いや…デカイな、と思ってな。」
素直な感想を述べてみた。
実際には大きさだけではないのだが。
「確かに…、お前さんは、ちんまいのぉ。」
わざとなのか、見下ろすように俺を見る。
ちん…、くそ、反論出来ん。
ってか、その見てくれは何だ。蛇の頭と胴体に、何で毛むくじゃらの手足がついている。
「俺の世界では、それほどでもなかったんだがな。人種的相違だろ。」
腕を組んだまま、俺は一歩も引かなかった。
チビであると認めたくない、俺のなけなしのプライドだ、放っとけ。
「まぁ…、世界の違いは、認めようぞ。」
黒くて長い毛が生えている大きな手を頭にやると、そのツルリとした頭部を撫でる。
とりあえず、憎めない相手であると、俺は判断した。
「ところで、アンタが魔法士か?」
ソイツの頭部を見上げるのは骨が折れるが、照らし出された室内には、他に存在が見当たらない。
それにコイツも俺の事、マオウって呼んだ。
「如何にも。ワシは、魔王城の、魔法士、インゴフ・ドウダ。」
一言一言に妙な間を挟んだ、特徴的な話し方をする。
聞き間違いは少なそうだけど、イライラするな。
「インゴフ、ね。俺は逢見蒼真。あ…蒼真、逢見と言った方が良いのか?」
名乗られた為、俺自身も名乗る。
「ソーマ、オーミと、言うのか。」
案外、すんなりと名前を呼んでもらえた。
インゴフは、ダミアンよりも発音が良いな。…蛇頭なのに。どういう発声形態なんだろか。
まぁ、ここで出会ったの、まだ二人(?)なんだけどな。