3.魔王は雑用係ではありません─4
「魔王様。こちらにいらっしゃいましたか。」
窓の外から光が入らなくなってきた頃、静かに扉が叩かれて入室してきた銀髪。
左官もどきをしていた筈だが全く薄汚れていないダミアンは、見た目だけは相変わらずだった。
「おぅ、ダミアン。終わったんだな?」
城内の破壊箇所の修繕が終わるまでは接近禁止としていた為、涼しい顔で俺の前に現れたという事は終了を意味している。
「はい、勿論でございます魔王様。」
胸に手を当て、恭しく頭を垂れるダミアン。
本当に、見てくれだけは王子様なんだがな。
「それでどうした。俺を捜してたんだろ?」
「はい。急ではありますが、謁見の申し出がありまして。」
小首を傾げて問う俺に、言いにくそうにダミアンが告げる。
珍しい。今日は─と言うか、暫く俺宛の来客予定はなかったと記憶しているが。
そして急な客程質が悪い為、ダミアンが本来最も避ける相手である。
「誰だ?」
「はい。ジスヴァルト・ギュンタ騎士団長です。」
「ジスヴァルト?…あぁ、アルドの使えない上司か。」
ダミアンの答えに一瞬誰かと思ったが、騎士団長という役職で思い当たった。
熊耳の半人半獣の獣人族─アルド・パマーを重要書類提出に使う、重職に向かない上官だったな。
「そのジスヴァルトが何だって俺に会いに?」
「はい。ジスヴァルト・ギュンタ騎士団長は高位魔族の筆頭一族でして、表向きは先日騎士団の隊長格等が世話になったと感謝の意を伝えに。」
「で、裏は?」
「恐らく、側室に一族の女型を押し入れようとしていると思われます。」
真意は不明だが、ダミアンの読みは鋭い。
第一に俺は高位魔族との接触を出来る限り避けている為、こういった強行手段に出る相手もいずれ現れるだろうとは踏んでいた。
「ジスヴァルトには一度会っておきたいと思っていたからな。良いだろう、すぐ行く。アルフォシーナ。そういう訳だから、また明日な。」
「うん。分かった、魔王様。あたしは仕事する。」
アルフォシーナに中断の意味で告げたのだが、何故だか仕事するとの答えが返ってくる。
諜報担当のアルフォシーナには、こんな時間でも仕事があるのだろうか。
「そうか。まぁ、無理するなよ。」
内容まで追求する事はないだろうと、俺はそれだけ返した。
「では、参りましょう魔王様。」
頷いたアルフォシーナを確認して扉に向き直ると、ダミアンが行儀良く頭を下げる。
まぁ、ダミアンが頭を低くしたところで俺より頭頂部は高い位置にあるんだがな。くそっ、デカイんだよっ。
それまで唯一俺より目線の低いアルフォシーナと共にいたものだから、余計に周囲のデカさを見せ付けられる気分だ。