3.魔王は雑用係ではありません─2
「アルフォシーナ。掃除、しような?」
問い掛けの形を取ってはいるが、嫌とは言わせない俺である。勿論アルフォシーナも、首を必死に縦に振っていた。
そうだろう。その方がお互いの為だ。
そうして俺とアルフォシーナの二人で始めた、アルフォシーナの執務室掃除。これは何と言うか、俺の仕事か?って誰にでも良いから問いただしたくなる。
ゴミなのか捨てる物なのか、はたまた要らない物なのか。つまりは殆どが不要な品物ばかりという、悲惨な室内だ。
今まで誰一人として口を出さなかったのが不思議なくらいで、何故ここまで放置したと叫びたくなるぞマジ。
「魔王様。お腹空かない?」
「空かない。」
「魔王様。お散歩行かない?」
「行かない。」
「魔王様。お昼寝しない?」
「しないっ。おい、アルフォシーナ。真面目に掃除しろって。」
いい加減ぶちギレそうだ。
少し片付けると、次の何かを探している素振りの後に毎回問い掛けてくる。しかも、逃避願望丸見えの誘い文句だ。
そのせいか全く片付かない室内に、俺は我慢の限界が先に来そうである。
「魔王様。怒ってる?」
「怒りたくもなる。アルフォシーナはそこの本の山を片付けろ。あ、纏めて何処かに積んどけって意味じゃないぞ?分類ごとに分けて、壁にある何故か空っぽの棚に入れるんだ。」
「うん。」
放っておいても一向に作業が進まないので、やむを得ず指示を出す事にした。
執務室として作られた部屋なだけあって、本棚は壁一面にある。それが本来の使い方をされず、だだ埃を乗せるだけとなっているのが惜しい。
俺は無言で手近な物から確認していき、時折アルフォシーナに聞きながら不要物を箱に集めていた。その数、留まる事を知らず。
また新しい不要箱が一杯になった頃、指示通りに書物を纏めているアルフォシーナの後ろ姿を確認。着実に床に散らばる書物がなくなってきていた。とはいえ、まだ部屋半分は腐海と化している。
「少し休憩するか。」
「うんっ。」
声を掛けると、物凄い勢いで食い付いてきた。
何か犬的な反応だな、おい。リミドラでもこうなりそうだけど、こっちは純粋故と思った方が良いのか?
俺の内心の疑問はアルフォシーナに伝わる筈もなく、彼女はパパパッとテーブルを用意して椅子まで出してきた。
「魔王様。飲んで。」
「あぁ、ありがとな。」
何処から茶器を取り出したのか、温かいお茶─紅茶のように風味が良い─が差し出される。俺は迷う事なくアルフォシーナから受け取りするそのまま口にした。
うん。リンゴのような甘い匂いがするけど、味は紅茶っぽい苦味もあって良いな。
「旨いな、これ。」
「うん。あたしの一番好き。」
ニッコリと素直に微笑むアルフォシーナ。
他の次期宰相候補者達がいる時はやたらキャンキャンうるさいけど、俺と二人の時は表情が乏しいから、余計に新鮮だと思った。