2.魔王と話しませんか─10
「開けて良いのか?」
「うん。」
思わずといった具合で受け取った俺は、とりあえずアルフォシーナに確認。了承を受けてからその麻袋の口に手を掛ける。
巾着のように上部だけを麻紐で左右に縛られたそれを開けると、中からフワリと甘い匂いが溢れ出す。中身がそのまま匂いとなったような蜂蜜風の黄金色をした物。
視線でアルフォシーナに問いながら中から一つ取り出すと、これまた蜂の巣状の欠片が出てきた。ただし、デカイ。
「これは?」
「バオブの蜜。これを濾して中身だけを取り出した物を食事に使ったりする。このままだと歯応えがあるけど、身体に良い。」
アルフォシーナの話を聞きながら、魔王知識を検索する。
おぉ、出た。蟲と総じて呼ぶらしいが、役割は向こうの虫と対して変わらない。ただし、この世界の蟲は最低でも500円玉以上のサイズだ。
「歯応え?」
「そう。たくさん噛まないと喉に詰まる。お腹にも良くないらしい。あたしはこのままが好き。山から取ってきて良く食べる。あ…べ、別に一人で食べようとしてた訳じゃないんだからねっ。」
向こうの世界でも食用の蜂の巣がある筈だから、こっちでも違和感はない。まぁ、俺は食べた事がないけどな。
ってか、こんな風に焦るアルフォシーナが不思議だ。
「別に良いんじゃないか?自分で採取してきたなら尚更、人にとやかく言われる筋合いはないだろ。」
「そ、そうだけど。これは高級品なのだからって、良く怒られる。」
シュンと項垂れるアルフォシーナを見て、魔王知識から追加情報を得る。
なるほど。確かにこれは高級品なのだろう。人族も魔族も食用とするバオブの蜜は、バオブ自体が攻撃性の高い蟲なだけあって手に入りづらい。砂糖などの甘味物総じて、この世界では高級品の域を出ないのだ。
「なるほどな。俺は気にならないぞ?まぁ、食べ過ぎには要注意だがな。」
「何故?」
「カロリー…えっと、栄養素が高過ぎて、摂取しすぎると身体に余分に脂肪がつく。」
俺は甘味物が嫌いではないが、なくても困らない程度。アルフォシーナも体型的にまだ余裕があるものの、太りすぎれば仕事にも差し支えるだろう。
「脂肪…、分かった。気を付ける。太いのは嫌。」
「だろうな。女性は大概そう考える。あ、これは一つもらうよ。ありがとな。」
「うん、魔王様も食べる。」
太ると聞いたアルフォシーナが首を横に振ったのを見て、俺は納得顔で頷いた。そして手にしたバオブの蜜を一つをもらい、残りは袋ごとアルフォシーナに返す。
高級品というだけあって、用途は他にもたくさんあるだろう。