2.魔王と話しませんか─9
「そうだな…。とりあえず、アルフォシーナの身の周りから確認させてもらうか。」
暫く考えた後、俺はアルフォシーナにそう提案する。
だが、言った直後から彼女の様子が少しおかしい。何故かソワソワと周囲の様子を伺うような素振りをしていた。
「ん?………あっ、いや、変な意味じゃなくてだなっ!し、執務室とかはないのかっ?」
その挙動不審さで俺の言い方に非があったと思い至り、しどろもどろになりながらも言い換えてみる。
すると、明らかに動揺するアルフォシーナ。
「ち、違うもんっ。へ、変な意味になんてとってなんてないんだからねっ。魔王様の助平!」
顔を真っ赤にして、アルフォシーナはバタバタと両腕を振り回していた。
不意にその左手に持つ袋に目が引き付けられる。麻袋のような色合いだが、それ自体は非常に小さい。お弁当箱を入れていると言われても違和感がない程だ。
「アルフォシーナ、それは何だ?」
「へ?」
俺の指摘に、アルフォシーナは指し示された自らの左手を確認する。突然声を掛けられて、キョトンとした様子がまた可愛い。
「わっ!こ、ここれはな、何でもななないんだからねっ。」
今度は顔を青くして両手を後ろに隠す。
実に愉快な反応だ。それに、とても甘い匂いがする。
「何か良い匂いがするな。そういえば俺、腹減ったかも。前回いつ食った?リミドラとの披露宴って名前の高位魔族自慢大会の時だったか?」
クンと軽く鼻を利かせた。
これは、向こうの世界でのケーキ屋とか菓子屋の類いのスイーツ的な匂いと同じである。
前にダミアンから、力ある魔族ほど大気中の魔力から摂取する事が可能になる為に食事の回数が減ると言われた。
確かに思い出す限り、俺がここに来てから摂取した食事回数は片手で足りる。今も物凄い空腹感を感じている訳ではなく、小腹が減った程度だが。
「魔王様、お腹すいた?」
「ん?そうだな。困る程ではないが、何か口にしたいかもしれない。気分の問題かも知れないけどな。」
小首を傾げてくるアルフォシーナに、僅かに苦笑いを返す俺。
変に気を回させないようにとしたのだが、何故かアルフォシーナの方は微妙に嬉しそうだ。
「じゃあ、これを魔王様にあげる。」
そうして差し出されたのは、今まで背後に隠していた麻袋で。
「何だ?俺に?」
「うん。」
突き出されたそれとアルフォシーナの顔を何度か見るが、悪意は欠片も感じられない。それどころか満面の笑みさえ浮かべている彼女に、警戒心さえ揺らぐ。
俺はどうやら、こういった類いの笑みに弱いらしい。初めて知った。