2.魔王と話しませんか─8
次の候補者を考えながら玉座の間に向かっていた俺だが、その入り口に立つ衛兵とは別の小さな人影に気付く。
腰の辺りに真っ黒な小さな鴉的翼。青い髪、活発的なショートカット─アルフォシーナ・エレノラ・マッフェイだ。
「どうした、アルフォシーナ。」
俺が声を掛けると、パッと表情を輝かせて振り返る。だがそれも一瞬で、すぐにツンと澄ました態度で背に両手を回した。
後ろ手に何かを隠し持っているが、今は見せる気がないようである。
「魔王様を待ってた。」
「ん?」
端的に告げられ、俺は素で小首を傾げた。
アルフォシーナは唯一俺よりも小さな─他の奴等はデカ過ぎる─体躯をしている為、非常に親しみやすい。
「次はあたし。」
自らを指差し、真っ直ぐに俺を見上げてくる。
おぉ~っ、自分から来たか。まぁ、順番を決めていた訳じゃないから良いんだけどな。
「OK、分かった。じゃあ、次の観察対象はアルフォシーナに決定だ。」
特に異議がなかった俺は、アルフォシーナの言葉に迷いなく頷いた。
どうであれ、全員の人となり─魔族だけど─を知る為に必要な事である。
「じゃあ行くよ。」
告げるだけ告げて、背を向けるアルフォシーナ。
え?ちょっと待ってって。何でそこで行っちゃうの?
「アルフォシーナ?」
「どうしたの、魔王様。ついてこなきゃダメじゃん。」
俺の訝しげな声に振り返ったアルフォシーナは、当たり前のようにダメ出ししてきた。
マジか。いや、落ち着け俺。
「アルフォシーナの仕事は何だ?」
「あたしは諜報担当。元々、一族がそうだから。」
ダメ出しのショックから立ち直る為の俺の質問に、アルフォシーナは淡々と告げる。
彼女の一族は鬼族鴉天狗種。黒装束を身に纏い、闇の中を音もなく潜入しての情報収集を得意とする。
黒い暗殺集団とも言われる程に腕が確かであり、高位魔族からは魔王とは違う意味で畏怖されている─というのは、全て魔王知識からの受け売りだ。
「それ、俺が一緒にいて邪魔にならないか?」
今更な問題だったが、ふと思ってしまったのである。
諜報担当という事は、極秘潜入捜査が基本だ。それを無意識にとはいえ、魔力を駄々漏れする俺という御荷物付き。無理があるだろ。
「どうしてそんな事を言うの?魔王様はあたしを観察するんでしょ?」
「いやいや、潜入捜査に向かないだろ俺。」
「そうなの?」
不思議そうに小首を傾げられても困る。
実際に俺自身無自覚だが、獣人族なんかにはかなり威圧を与えているらしいからな。




