1.魔王になりました─4
「では、魔王様。こちらにございます。」
胸に手を当て、恭しく頭を垂れる。
やはり、ダミアンの所作は美しい。
言わないけど。
「あぁ。」
俺は平静を装って、建物に向き合う。
まぁ、今更か。都度、マオウって呼ばれるのを訂正するのもな。正直、面倒臭くなってきたし。
俺は言い返す事なく、ダミアンの後を黙ってついていった。
それにしても…、何つぅ豪華な造りだ?ヨーロッパとかでも、城ってこんなもんか?
歩いて行きながら、周囲を観察する。人が横に五人は並んで歩けそうな、無駄に幅広い通路。上は、三階建てくらいの高さはあるだろうか。
円柱の柱が並び、一本の太さは大人が三人で、漸く一抱え可能な程度だ。とにかく、スケールが半端ない。
「本来ならば、ゆっくりお休みして頂きたいところではございますが…。時は急を要しておりまして、大変申し訳ないのですが、先に認証の儀を執り行って頂きます。」
連れてこられた先─見上げる程の扉の前で、ダミアンが立ち止まる。そして胸に手を当て、深く頭を下げた。
建物と同じ、真っ黒な扉。頑強な作りに見えるそれの表面には、細かな彫刻がなされている。
「…って、説明もなしかよ?」
「いいえ。中におります魔法士が、事の次第をご説明申しあげます。」
呆れたように突っ込む俺に対し、ダミアンは頭を上げる事なく、そう返答した。
「あっそ。んじゃ、開けて。…つか、俺が開けるのか?」
「左様にございます。」
動かないダミアンにダメ元で問えば、即肯定される。
何だよ、セルフサービスかよ。
不満に思いつつも、頭を垂れたままのダミアンを見て、問い返す気力もなくなる。
中に説明担当がいるって言うし、迷う事はないか。
ってな感じで、俺は片手を扉に当てた。
勿論、開かないかも…なんて事は思いもしなかった訳で。
重く見えたその黒い扉は、予想以上に簡単に押し開けられた。
手触りは思った程冷たくなく、鉄ではなくて石の感触。ってか、中も暗いな。
片側だけ開けられた扉は、俺が手を放すと、自動ドア的に閉じてしまう。
いや、ちょっと待て。
背後の扉が閉じた事により、本当に真っ暗になってしまったのだ。他に人がいる様子も見えず、僅かながら焦る。
「…誰だ。」
危機感を覚えて神経が冴えたのか、俺は前方に気配を感じた。
敵意は見えないものの、何だかジロジロ観察されている感覚。
「ほぅ?…お前さんが、次の魔王様かのぅ。」
間延びした、しゃがれ声が聞こえる。
コイツが、ダミアンの言っていた魔法士か?
ってか、姿見せろっての。